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星野実『漫画アシのABC』を読んだ

星野実『漫画アシのABC(2015年夏から2017年までのまとめ本)』を読んだ。

同人誌だが、かなりカッチリした仕事本でもある。学校で進路指導用に置いてあるぐらいだ。多分『13歳のハローワーク』や『声優魂』と同じ棚に置いてあるのだろう。

漫画業界に関する実録の話なので「アシスタント経験をしていないと漫画業界の暗黙のルールを学ぶ機会がないまま作家デビュー」とか「内蔵壊して働けなくなっても誰も助けてくれない」の話がズラズラ出てくる。絵柄がポップなのに現実が表に出すぎている。

本の中身は三部にわかれている。

マイナンバー編

2016年からマイナンバーが導入されたが、メインとしてマイナンバーが漫画家業務にどれほど影響してくるか……確定申告の時に交通費、交際費、アシスタント費用について職員にどう説明すれば納得させられる……などがある。というか、税務署に行った時の本人の実体験がそのまま漫画になっているので、詳しいところまで読める。

例えば、漫画って資料代として落とせるのか……同人で漫画を売ることを税務署でどう説明するか……友人繋がりでイラスト依頼された時のお金はどう処理するのか……こうした「実生活で立ちはだかるが調べる段になるとうまく形にならず結局モヤモヤしたまま残る問題」が書かれてある。

応用編になると「一般職についているオタク友達の知り合いにアシ探してる同人作家さん紹介してもらい、アシ先に決まった場合の交際費はどうなりますか?」という質問もある。職員は大混乱だった。主語がデカすぎる。

基本的に漫画家やアシスタントが取ったほうが良さそうな対応としては「副収入に該当しそうなものは確定申告で申告をしておく」「雇う側はお金が絡む時に領収書を通す」「税金関係が手に余るなら税理士に頼むのも手」などの対策があった。真面目にやらないと法律による調査が入るので肝が冷えるが参考になった。

アシスタントの日常編

第二章はアシスタントの仕事である。仕事というか仕事場の人間関係に関する話だ。

アシをしていて仕事場の雰囲気があわない時はどうするか……仕事場でお祝いごとがあったらプレゼントを送るべきかどうか……アニメ化が決まったらそれもお祝い事になるのか、なんか送らないといけないのか……仕事場での人付き合いに関するものがメイン。

またアシスタントも人間なので、雇い主の漫画家が徹夜モードになると必然的に徹夜になるのだが、巻き込まれすぎると内臓を壊して働けなくなるので、自分の身は自分で守れ、という話もある。仕事場はきちんと選べという話でもある。つらい。

基本的に未知の世界なので参考になるのだが、「(漫画の)作り手側は営業職以上にコミュ力ないとキツイ」や、「(漫画家に対して)アシ経験なくて作家活動する事はいいが、アシとのお金関係や作業関係が荒くなるので社会経験だけはしててほしい」などの話も出てくるので暗黒を感じる。いや、どこの業界でも暗黒はあるものだが……

ひとまず、4コマ漫画ではやさしく描かれているが、現実だと死んだり悪い病気になったりするので、この辺は仕事や環境を見ながらうまく立ち回らないといけないと感じた……

アシスタントとデジタル編

デジタル作画やWEB漫画の書籍化などの時事ネタがメインだ。あとはアシスタントがメディアに露出するケースや、デジタル時代の出版社や作り手の試行錯誤の話がある。

個人的には電子書籍の話が面白かった。「断捨離やミニマリストが流行ったが、本好きだけど場所を取るので買うのを諦めていた人たちには電子書籍は凄く魅力的」というシーンがあるが、頷ける人も多いのではないだろうか。

また漫画(漫画に限らずとも良い)を発表する……そういうことがワールドワイドにできるようになったのはやはり凄い時代である。SNSやアプリを通して発表できるので、同じ手段で発表してくるライバルたちも無限に増える。読み手を独占したい作家にとっては厄介な問題だ。

しかし良い面もある。

例えばデジタル作画によって老眼の問題も画面拡大でかなり解決できるようになった。握力低下でうまく描けなくとも、ペンタブなどで筆圧調整が可能などである。デジタルの発達により、在宅しつつアシスタント業務もできるようになった。漫画に関する問題は尽きないし、増えていくこともあるが、志ある人はぜひ漫画業界に挑戦してほしいし、進化していくデジタル化をうまく活用してほしい……本を閉じながらそういうことを思った。

《終わり》 

参考アドレス

作者HP:http://poppokokko.fc2web.com/(ぽっぽこっこ)

Twitter:M_hosino

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