#13 ありがとうツンデレ上司
ちょっと久々に保健所勤務時代のことを語りたい。
今日は百聞は一見にしかずを痛感した話。
その前に簡単に、これまでのあらすじ的なものを。
某感染症の仕事を始めて半年。
保健師も半年間ずーっと手一杯の状態が続き、事務職員の自分も同じく手一杯。
夏頃から、また陽性者の数がドッと増えた。
別のグループの職員が有志で仕事を手伝うようになったが、それでも人手が足りない。
首都圏の保健所はすでにパンク寸前になっている報道も聞いている。
幸いうちはまだそこまでには至っていないが、保健所全体で感染症対応をやっていかないと、いずれ駄目になる。
上司が他のグループの上司に協力を求めた。
しかし
「今はそっちのグループで事務は回ってるじゃないか!」
「なんで担当でもない人に感染症の事務をやらせるんだ?」
と、なかなか理解を得られない。
「今はそっちのグループで事務は回ってるじゃないか!」
→回ってるように見えていても、患者の数が増えすぎて接触者調査が追いつかなくなっているんです。
調査は我々がするので、ホテルに入所する患者の送迎とか、それ以外の業務をお願いしたいんです。
「なんで担当でもない人に感染症の事務をやらせるんだ?」
→そりゃあ普通はね、感染症対策はうちのグループが担当するものです。
他のグループの人がわざわざ立ち入るものでもないです。
でも今は担当どうこう言ってる場合じゃないだろ!
これは災害なんだよ!!
担当じゃないとか、責任の所在が分からなくなるとか、何かと理由を付けて断られる。
とにもかくにもやりません、というスタンスの職員の存在が残念でならない。
同じビルに入居している隣の会社の人に、「仕事を手伝ってくれ」と言われて断るのは理解できる。
が、同じ自治体の、まして同じ機関じゃないか。
憤りしか感じなかった。
きっと他のグループの職員としては
保健師たちの仕事が自分にもできるとは思えない
ミスがあったときに責任を負えない
もう歳だから新しいことなんて覚えられないよー
正直、面倒なことに巻き込まないでくれ
というのが本音だろう。
確かに陽性者の調査みたいな、専門色が強い仕事をやれというのは、抵抗があるかもしれない。
といっても自分なんか専門でもないのに陽性者の調査やってるんですけどね……。
歳だから~と斬り捨てるのは論外だが、専門でない自分ができる仕事なら、他の人もできるはず。
なんとか巻き込むことはできないだろうか。
そんな時、ある上司が自分のグループのもとにやって来た。
険しい顔をしてこう言った。
「そっちは手伝えテツダエって言うけど、何をやればいいのか分からないから困るんだよ!」
ちょっと、そんなに怒らないでくださいよ……
ん、待てよ。
何をやればいいか分からないってことは、裏を返せば、やる事が分かれば手伝ってくれるんですか?
「ホテルに入所する患者さんの送迎とかを、できれば協力していただきたいと思っていまして…」と話すと、
上司「どんな手順でやっていくの?」
お、そしたら説明しますよ。
「ちょうどこれからホテルに入所する方が1名いらっしゃいます。まずは患者さんに電話をしまして……」
………
………
以上になります。
上司は
「わかった、じゃあ行ってくる」
と、送迎車に乗り込み、患者のもとへ出発した。
そして翌日。
上司「送迎業務のマニュアル作ったから! 他のグループの人に配るなり好きにしな!」
ツンデレじょうしが なかまに なった!
頭ん中でファンファーレが鳴った。
他のグループの人に配って良い=手伝っても良いと、間接的に認められたのだ。
その後、あれよあれよと言う間に、マニュアルが他の職員に広がり、送迎業務を皆で交代で行うようになった。
本当にありがたい!
滞っていた接触者調査が今までよりスムーズに回り始めた。
今までの苦労は何だったんだ……
頭ごなしに反対する人から真っ向からぶつからない。
何をしたらいいか分からない、不安だと訴える人には、実例をさっさと見せちゃえば良かったんだ。
ひとつ賢くなった瞬間であった。