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欧州: CBAMとは?

EUグリーンディール下で政策議論が始まり、つい去年採択&官報発行されたEUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)。いまさら感はあるが、対象拡大しようとの機運も見られつつあるため、CBAMの概要を整理してみた。

記事要約

  • 脱炭素に向けた域内規制強化に伴うカーボンリーケージ(炭素漏出)を防ごうということで制定された炭素国境調整メカニズム/CBAM。

  • CBAM対象製品の輸入業者に対する報告義務は既に開始、今後EU-ETS下でのCO2価格相当の賦課金支払いがCBAM証書という形で課される予定。

  • 原材料高にもつながり得るCBAM、欧州経済にとって吉と出るか凶と出るか要注視。




1. 背景としてのカーボンリーケージ

現行欧州委員会が立ち上げたEUグリーンディール。2050年気候中立を目指して、欧州一致団結して脱炭素やっていきましょう、というイニシアティブ。

※EUグリーンディール概要は以下

建物部門や運輸・交通部門では手こずるEUだが、産業部門では、2005年時点で既にEU-ETS/EU排出権取引制度というカーボンプライシング(炭素価格)制度を導入、2013年からは有償での市場取引が開始された。そして上述EUグリーンディールを受け、ETS下の目標がさらに強化。

※EU-ETS概要は以下

しかし、EU域内の企業のみが対象のEU-ETS規制を一方的に強化するだけでは、EU域内企業が、欧州域外企業との競争で不利に立たされる懸念がある。そうなるとEU域内企業は域外へと生産拠点を移す動きにつながり、結果としてEU域内のCO2排出量は減るが、世界全体でのCO2排出削減は進まないという事態につながり得る。これをカーボンリーケージ(炭素漏出)と呼ぶ。

カーボンリーケージが起こると、気候変動対策が進まないだけではなく、企業撤退による失業率増加&経済活動への悪影響企業競争の歪曲(結局環境対策しない企業が勝ち組になる)、クリーンテクノロジーR&Dの停滞(開発しても意味がない)につながるリスクがある。そのリーケージ度合いをIMFがスコア化したのが下記図。

カーボンリーケージ(出典:Energyminute HP)

これではまずいということで、欧州域外からの輸入品にもEU-ETS並みのCO2価格=課徴金を賦課しようという機運が欧州域内で盛り上がり、最終的にCBAM制定へとつながる。

なお、カーボンプライシングを国際貿易とリンクさせる枠組みとしては初めてのものとなる。

2. CBAM概要

JETROさんの各種記事が非常にまとまっているので、ここでは詳細を省き、必要最低限を抜き出して解説。

欧州委員会が2021年7月に公表したCBAM法案は、コデシに則り欧州議会&EU理事会で議論、2022年12月の三者協議で暫定合意に至り、2023年5月に官報発行された。

CBAMの対象品目は下記。

CBAMの対象品目(出典:JETRO

欧州委員会提案では、カーボンリーゲージのリスクが高いセメント、鉄・鉄鋼、アルミニウム、肥料、電力だけだったが、コデシでの政策議論を踏まえ、水素や前駆体材料の一部(塊成化された鉄鋼石、フェロマンガン、フェロクロム、フェロニッケルなど)、対象製品を原料とした製品の一部(例:鉄・鉄鋼製のねじやボルトなどの)も追加。さらに、直接排出(生産時に発生するGHGガス)に加え、間接排出(生産時に使用した電力起因の排出)も対象となる製品あり(なお、従来の直接・間接排出の定義と異なる部分多々あり)。

これら製品を欧州域内に輸入する企業/輸入者やその通関代理人CBAM遵守の義務を負うことになる。なお、ノルウェー、アイスランドリヒテンシュタイン、スイスはEU-ETSを採用・リンクしているため除外。主な義務は以下の通り

  • 報告義務:2023年10月以降、4半期毎にCBAM報告書の提出(CBAM移行期登録簿(CBAM Transitional Registry)に)。

  • 排出量算出方法遵守義務:2024年8月以降は欧州委員会が制定する算出方法に従って排出量をはじき出す(生産国に炭素価格制度がある場合は数か月の追加猶予あり)

  • 課徴金支払い義務:2026年1月以降、域内に輸入するCBAM対象製品の排出量に基づき、EU-ETSと同等価格でCBAM証書の購入という形をとる。

さらに細かい義務やそのスケジュールは、下記。

EUのCBAM実施の重要日程
(出典:JETRO

2024年3月現在、既に始まっている報告義務。その詳細は2023年8月に欧州委員会が採択した実施規則に詳しく記入。その内容を簡潔にまとめたJETROの表は以下。

報告義務概要(出典:JETRO

3. コメント

報告義務が始まったばかりで、CBAMがどこまで実効性があるかは今後少しずつ分かってくるはず。アジア開発銀行/ADBが発出した最新レポートAsian Economic Integration Report (AEIR)2024によれば、CBAMによるアジアやグローバル経済への影響は限定的とのこと。アジアからの対EU輸出が1.1%減にとどまり、むしろEU域内企業の生産活動に影響を及ぼしかねないとの内容。

無論、報告義務やら賦課金によって域外から輸入しているCBAM対象の原材料価格は上がる。そうなると、域内原材料メーカーにとってはプラスに働くのかもしれないが(これも実際その通りになるかは要注視)、自動車などの最終製品メーカーにとっては、コスト高になるのは間違いなさそうで、そうなるとエネルギー価格高騰やらなにやらで、欧州経済にとっては逆にマイナスになる可能性もありそう(だが、そこは専門家の分析を待つこととする)。

※欧州経済の概観は以下


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