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欧州: EU-ETS/排出量取引制度

CO2排出に価格を付けて、排出量に応じた金銭負担を企業に求めるカーボンプライシング/炭素価格、欧州でも2005年に試験的に導入され、EUグリーンディール化で強化&国際貿易ルールと紐づけされた。そのEU-ETS制度を整理した。

記事要約

  • EU-ETSは、規制対象となる施設や産業に対して排出量上限(キャップ)を課す制度。キャップ&トレード方式で排出上限の取引が可能。

  • EUグリーンディール&Fit for 55下での改定でEU-ETSは大幅強化(2030年目標の引き上げと無料排出権割り当ての段階的廃止)。

  • ただ、ETSもさらに強化すると流石に域内産業の競争力がなくなるので、CBAMと抱き合わせで政策議論が進んだ形。




1. 概要

2005年にパイロット・プロジェクト的に開始された欧州連合/EUの域内排出量取引制度/EU-ETS(EU Emissions Trading System)は,現在でフェーズ4に突入している。

EU-ETSは、規制対象となる施設や産業に対して各々の温室効果ガス(GHG)排出量に上限(キャップ)を課す制度。規制対象者は各年の実際の排出量相当分の排出枠を確保することが求められる。なお、削減努力により余剰排出権が発生した場合は、市場取引にて売却することも可能なキャップ&トレード方式を採用。

キャップ&トレード方式(出典:Investigate Europe HP

京都議定書の目標達成のため欧州が世界に先駆けて導入した当該規制は、パリ協定等気候変動問題を巡る国際的な動きや欧州レベルで深化する気候変動対策に合わせる形で数多く改定がなされ、現在欧州経済領域(EEA)内で運用、約一万以上の発電所や産業施設及び域内で運行する航空会社(2012年以降)が規制対象(2024年から海運部門も)とされており,EU全体のGHG排出量の40%以上をカバー、排出量は35%以上減少

ETS対象セクターのCO2排出量推移2005-2022(出典:EEA

2. EU-ETSのこれまでの変遷

2.1 第1フェーズ(2005年~2007年)&第2フェーズ(2008年~2012年)

フェーズ1&2時には既に、電力セクターや鉄鋼,セメント等を含むエネルギー集約産業10セクターを中心にEU域内のGHG総排出量40%をカバー。

排出削減のカギとなる規制対象者への排出枠配分は,過去のGHG排出量分を既得権として考慮するグランドファザリング手法に基づいて加盟各国が各々設定。結果、フェーズ1下では排出枠過剰となり、フェーズ2にキャリーできないことも相まって、2007年時点での価格がほぼゼロとなった。

フェーズ2下にて2005年比で-6.5%程度キャップの引き締め、排出権無料配分を全体の95%から90%に限定、航空産業に対象を広げる、排出枠のオークションを更に活用する等の施策も講じる。しかし、2008年の欧州債務危機によりGHG排出量が減少、排出枠の余剰問題が再発してしまう。

しかしながら、炭素価格の導入や取引制度の立上げ、市場モニタリングや定期報告及び検証制度、排出枠を適正に管理するためのEUレジストリーの設立等、排出量取引の制度設計や改善,関連インフラの整備は進み、排出枠の市場取引量も着実に増えていった。

2.3 第3フェーズ(2013年~2020年)

フェーズ3では,EU-ETSの大きな制度変更が実施された。第一に、対象拡大。新たにアルミ化学(アンモニア等)等が追加で規制対象とされたことが挙げられる。なお、2012年に対象となった航空セクターは、米国を中心としたEU域外の航空会社からの強い反対により、2012年11月にEU域外への国々へ発着する航空機へのEU-ETS適用を一時停止していたが、2014年からEU域内を通過した距離に応じて排出量を算出する形で適用が開始された。

第二に排出権算定方式の変更。各国積み上げによるボトムアップ的なキャップ設定及びグランドファザリング方式による過去の排出量分の保証という方式を改め,、EU全体でトップダウン的にキャップを設定毎年1.74%削減)、排出権も総キャップの43%と大幅に制限した上、各セクターの優良施設トップ10%からの排出量をベースに配分するベンチマーク方式が導入された。なお、一部カーボンリーケージが懸念されるセクターについては、過去の排出量の100%に相当する排出枠が無料配布される措置が設けられた。

2.3 第4フェーズ(2021年~2030年)

フェーズ4に突入したEU-ETSは、 2018年に採択された改定EU-ETS欧州指令に基づき、制度運用がより厳格化。背景には、パリ協定締結に伴う気候変動対策への気運の高まりが挙げられる。

2030年迄に2005年比でEU-ETS対象セクター総排出量の43%減を睨み、21年以降キャップを毎年2.2%ずつ減少させるとした、また、2000年台後半の経済危機や国際クレジットの使用等により欧州市場に発生した余剰排出枠を制限するためにフェーズ3より導入された市場安定化リザーブ(MSR)域内産業への影響軽減を睨んだカーボンリーケージ対策についても、より厳格な運用を規定。

2.3 EUグリーンディール&Fit for 55下での改定

2021年の欧州気候法(90年比で2030年-55%)成立を踏まえ、同年7月、EU-ETSの削減目標を引き上げる改定法案を公表、一年以上の議論を経て2022年12月に欧州議会&EU理事会が暫定合意に至り、官報発行となった。

改定EU-ETSの中身はザクっと以下の通り。

  • 2030年の目標値を62%減に引き上げ(2005年比、元々43%減)

  • 年間の排出削減スピードは結果として、2024年から2027年までは4.3%、2028年からは4.4%に(以前は2.2%減)

  • 炭素市場における排出枠の過剰供給を抑えるための「市場安定リザーブ(MSR)」が強化

  • 建物道路輸送、その他の小規模産業などを対象に、EU-ETSとは別の排出量取引制度(ETS 2)を創設、27年から適用開始(燃料の販売事業者が規制対象)

  • 海上輸送に対象拡大:まずは排出量の監視、報告、検証義務(MRV)、ETS対象とするかは2026年判断。

  • 航空部門:EEA内の航空便に対する無料排出枠は段階的に廃止&オークションへ移行、EEA内外を結ぶ航空便は、ICAOのスキーム適用。

3. コメント

これまで批判の対象となってきた無料の排出権割り当てだが、CBAM導入もあり、段階的削減が決まったのはWelcome。2026年から2.5%削減し、2027年に5%、2028年に10%、2029年に22.5%、2030年に48.5%、2031年に61%、2032年に73.5%、2033年に86%と削減率を加速度的に引き上げ、欧州委提案の2035年から1年前倒しし、2034年から100%廃止するとのこと。

ETSのお陰ということかは分からないがEUの産業部門からの排出は、運輸交通や建物分野に比べても削減が進んでいる状況。たださらにそれを進めるとなるとさすがに国際競争力が落ちるということでCBAMを制定した形。今後の動向を引き続き要ウォッチ、といったところか。


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