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【読書】脱炭素は優先課題か?

過去半世紀頑張って交渉を重ねたが、結局は進捗していない温室効果ガス排出削減。飢饉、貧困、教育、疫病、森林破壊等、地球規模喫緊の課題は山のようにある中で、気候適応ではなく、困難で効果が限定的な排出削減にリソースをつぎ込むのはナンセンスでは?ちょっと冷静になって考えようと問題を提起したビョルン・ロンボルグの一冊。

要約

  • 地球温暖化/気候変動は明らか、人為的な排出が要因なのは疑わない。でも飢饉や貧困等、同様に緊急性を要する問題がありそちらには解決策もある。結局は限られたリソースをどれに注ぎ込むかという問題

  • 気候変動対策としてCO2排出削減(例:京都議定書)にリソース注ぎ込むのは反対。低炭素技術への投資や気候変動への適応/adaptationに注ぎ込むべき。

  • 気候変動懐疑派と言われるが、どっちかというとPragmatistで現実主義者。彼のいった通り、結局はCOPは28回も開催しても排出はピークアウトしていないという事実は受け止めなければならない。




1.本の紹介

本のタイトルは「Cool it! The skeptical environmentalism's guide to global warning」(2007年刊行)で、邦訳は「地球と一緒に頭も冷やせ!」。

著者はビョルン・ロンボルグ/Bjørn Lomborg ( 1965 -)。デンマークの政治学者で現在はコペンハーゲンビジネススクールの非常勤教授。コペンハーゲン大学政治学博士。

ビョルン・ロンボルグ
ビョルン・ロンボルグ氏

2001年に出版した『The Skeptical Environmentalist(環境危機をあおってはいけない 地球環境のホントの実態)』で、環境保護主義者の予測の多くが誇張されていると主張して大きな論争を巻き起こした。

なんと17年も前にTed Talkに出演。切れのある口調で、この世界には解決しなくちゃいけない問題は腐るほどある、リソースは限られてる、優先するならソリューションのある問題にしようと、語っている。

2.本の概要

地球温暖化の影響は疑いようにないもの。そしてその原因が、温室効果ガスの人為的な排出によるということも確か。ここは著者も認めている。

しかし、多くの報告書や研究結果で示されている、数値化された温暖化の影響やシナリオは、その多くが誇張されている。これは、大きな議論を巻き起こしたThe Skeptical Environmentalistから変わっていない。

CO2排出削減は高コストで、その効果は非常に限定的(過去半世紀に渡って排出削減は進んでないし、京都議定書も、効果は限定的)。もっとスマートで効率の良いソリューションが必要。それは低炭素技術へのR&D投資の増加と、温暖化適応対策(例: 事前の洪水や異常気象対策)等。

地球温暖化よりも、もっと緊急性を有する地球規模課題がいくつも存在する。CO2排出削減に過度のリソースを費やす代わりに、飢饉や貧困、公衆衛生等に注ぎ込んだ方が、効果は大きい。

著者は、気候変動は地球規模の課題と認めつつも、温室効果ガス削減にリソースを注ぎ込むことが正義でモラルとする現代の潮流に疑問を呈している。むしろ、人間と環境の質を改善することこそが最終的なゴールであることを、忘れてはならないとしている。

3.感想

気候変動絡みの報告書やシナリオが誇張されているか別として、限られたリソースをどこにつぎ込むか戦略的に決めようよ、そして気候変動対策なら、排出削減よりもR&Dや気候適用に注力しようという著者の考え。学者ながらビジネスチック現実主義者でPragmatistのようだ。

正直、こういう人は必要な気がする。現代社会では、気候変動大事だよね、排出削減大事だよねという半ば宗教チックな規範が完全に出来上がっており、それに反することをいうと、いろんな人から総スカンを食らう。グリーンの人と話すと思う。もう完全に宗教化している熱狂的な原理主義者的な人もいる。そういう連中は、自分の宗教/考えと違うことをいう人を許さない。

そして著者の言うことには賛同できる点も多い。飢饉や貧困等他にも喫緊課題はあるし、UNFCCC下で毎年開催しているCOP会議を見てても正直、排出削減は厳しい事が伺える(詳細は以下)。気候適応をやるほうがずっと効果的といいのも正しい気がする。

ただ、ちまたの報告書シナリオが気候変動の影響を誇張しているというのは、少し論点がずれている気がする。それらはあくまで今日の科学的見地に立って数値を弾き出しており、その根幹にある科学は万能ではない。すなわちそれらシナリオは誇張していることもあるだろうし、少なく見積もっていることもある。そこまでいわないと、気候変動そのものに懐疑的な人々に、言いように解釈されてしまう。

※著者より一歩先に行き、気候変動そのものに懐疑的な人々の考えや戦略、動機に迫った本は以下

そして排出削減については低炭素R&Dに金をつぎ込む方がいいというのも、ある程度は同感。しかし、むしろ存在する脱炭素技術の市場導入&普及がさらに大事。水素にせよEVにせよヒートポンプにせよさらに改良の余地はあれど、それと同時に政策誘導や市場原理使って大量導入しないと宝の持ち腐れになる。

そしてそのためには結局、政治の問題ということになる。

最後に一言

一度こういう本にも触れておくのは大事だと思った。気候変動をめぐる、自分自身の立ち位置を再確認できる。

本記事は、あくまで私がポイントだなと思った部分のみ書き出しまとめているだけです。この概要記事がきっかけとなり、この本に興味を持っていただけたら幸いに思います。


併せて、他の記事もご覧いただけたら幸いに思います。


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