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雪解けの大地が映し出す「心」のほぐれ⑥

雪解けが進みはじめる、4月の北の大地。
この地に足を踏み入れるのは、前職の出張以来となる6年ぶりだった。
今年の札幌は記録的積雪で、道や線路の脇に名残と、風の冷たさが頬に触れる。
もうすぐ芽吹き始めるだろう木々たちを眺めながら、旅の目的地まで心が先へ先へと急いでいるのを感じる。

待ち受けていたのは、期待を遥かに超える、気づきと変容だった。

1話2話3話4話5話はリンクから


17.キッチンドランカー

「冬物を片付けてたから、ごめん、今日は何も用意していません!作りながら飲もう!」

一方的に押しかけた私に対して、謝罪することなんてこと一切必要ないのに。ぽーりーは無意識に発しているのかもしれない。

ふと、一緒に北海道に来た仲間の一人、れいちゃんの顔が思い浮かんだ。
彼女も、北海道出身。開口一番は大体「ごめんなさいね・・・」という。

北海道の広大な土地と反比例して、繊細な人が多いのかな?
そんな推測が頭をよぎる。

「もちろん、何かお手伝いさせてよ!」

と、私が答える。
牧場と家は、目と鼻の先だった。あっという間に到着する。
素敵な二世帯住宅のお家にお邪魔すると、目に入ってきたのは、素敵なワインクーラー。シャンパン、白ワイン、赤ワイン、デザートワイン、それぞれに合わせたグラスが吊るされていた。

「旦那さんもお酒好きなの?」

綺麗に2つずつのグラスが揃っていたから、普段から晩酌の時間を楽しく過ごしているんだろうな。
微笑ましい光景を思い浮かべて、尋ねる。

「そうなの、私よりもお酒強いし、好きなんだよね!」

それは・・・よっぽどだ・・・
まずは、ビール用の”うすはり”で、今の時期限定 ”サッポロクラシック-春の薫り-” で、高らかに乾杯する。

手際よく、おつまみが出来上がっていく。どれも、飲兵衛にはたまらないものばかりだ。さすが、よく分かっているなと、感心してしまう。
キッチンドランカーはよくやっていたなと、懐かしくなる。

夫が飲まないので、その機会すら減ってしまったけど。
一人暮らしの土曜日の昼、男子ごはんを見ながら、料理してワインを嗜んでいた。

会話は尽きない。
割と頻繁に顔を合わせているものの、お互いにプライベートでも仕事でも変化が大きく、キャッチアップしきれないのだ。

ぽーりーは、昨年からアーティスト活動を始めた。
5月には、東京で個展を開く予定だ。
彼女が描く、柔らかい世界、色合いは、観る人の心を掴む。
繊細な想いを持ちながらも、言葉にならないインプットをキャンバスに表現していく。自己対話し、葛藤する姿からも、感じるものが多い。

2021年11月グループ展の様子

彼女との会話は、はたから見ると、理解できないと思う。

お互いに、言語では表しきれない感覚を絶妙に表現していく。体感した人にしか分からないだろう感覚を、擬音語も巧みに使って。
気にしすぎ、深読みしすぎ、と言われればそれまでだが、人や場が放つオーラなるものを感じ取ってしまう。空気を読みながら、何をすればいいか、正解を導くのが得意なのだ。

国語が得意なのがよく現れる特性だ。
文脈から想像し、解釈していく。出題者の意図も、著者の意図も簡単に汲み取れるので、呼吸をするように解けてしまう。読解力が高い。

最近の漠然とした悩みも、受け取ってしまったネガティブな感情も、やるせない悲しい感情も、彼女にはツラツラ語ってしまう。

気軽に相談し、言葉数少なくとも、全部を理解して受け取ってくれる人がいることが、ここまで救われるとは。
もっと頼っていいんだよ。もっと言っていいんだよ。
お互いに話を聞きながら、この言葉を掛け合う。相思相愛だ。

ピロン♪

スマホが鳴った。目を向けると、ぽーりーと、私の共通の友人「みっちー」からの通知だった。

多摩川土手に生える「つくし」

18.直感を信じる

「みっちーから、つくしの写真が送られてきた!」

そう伝えると、ぽーりーが呼応する。

「私のところにも、みっちーから来ている!すごいタイミングじゃない!?」

みっちーの第六感が、二人が一緒にいることをキャッチしたのだろうか。
二人でみっちーに連絡をいれ、急いでZoomを繋ぐ。

即興でのZoom飲みが始まった。

キッチンに立つ、ぽーりー。
東京でくつろぐ、みっちー。
おもてなしを受ける、私。

早速、断捨離の話で盛り上がる。

「自分探しをしている人たちに告げたい。騙されたと思って、断捨離してみ?って」

みっちーは、この数か月間で、家の中を何周も断捨離して自分の選択軸を研ぎ澄ませているそうだ。何度もモノを通じて、自分自身と向き合っている。
まだ手放せないかな、と渋っていたものも、何周かすると価値観がクリアになっているから、迷わずに判断できるそうだ。

私も、友人の協力を得て、部屋の中も、デスク周りも「こんまり」しているので、その感覚はよく分かる。

手放せないのには、何かしら理由がある。
果たしてそれが何なのか、それは己と対話しないことには見えてこない。
未来への不安か、過去への執着か、ほとんどはこの二つに大別できる。

自分探しをしている人は、ついつい外の刺激に目を向けがちだ。でも、本当に必要なのは今自分の手元にあるものを見つめ直すことだ。

これは勝手な推測だが、みっちーの直感力は断捨離を進めるほど高まってるのではないか。
彼女とは、ちょこちょこメッセージを送り合う仲。
ふと感じたことや、綺麗な風景を見つけると、送ってしまう。私にしては、とても珍しく、貴重な存在。

一見、意味の無いやり取りに見えて、本質では深く深く自分と繋がり戻る感覚がある。
つくしの写真もそうだが、必要なタイミングに、メッセージが届くような気がしている。

だから、みっちーからの通知が来ると「何のメッセージがあるんだろう。」と、文面には書かれていない背景を妄想する。
テキストコミュニケーションにもかかわらず、非言語で感じさせる彼女は凄いの一言だ。

みっちーには、Zoomを繋ぐまで話していたアレコレを簡単にまとめて話す。
普段から、ぽーりーと私と、それぞれが相談している内容だから、きっと目新しいものはない。

「だーかーらー、2人には、いつも言ってるじゃん。傷つけられる必要なんてないんだよ。2人を傷つける奴らには、私が言いに行きたいくらいだよ!」

そう、ぽーりーも、私も、人から強い口調で言われたり、マウンティングされても中々「NO」と言えない性格だ。

自己犠牲

その言葉が頭をよぎる。
また、このテーマか。
一年近く取り組んでいる、自分の特性。
無意識的に「自己犠牲」しながら、学んでいる。
いつから、このやり方を選んでいるかも記憶がない。
そもそも、自己犠牲なんて考えたこともなかった。

何かトラブルがあると、まずは自分に責任があるのでは、と考えていく自責思考。

自分が悪くないのに、相手に攻撃されて、傷つきながら周りを守る自己犠牲。

ああ、また、これか・・・
注がれた、ワインをクッと飲む。

次回へ続く。


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