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雪解けの大地が映し出す「心」のほぐれ⑤

雪解けが進みはじめる、4月の北の大地。
この地に足を踏み入れるのは、前職の出張以来となる6年ぶりだった。
今年の札幌は記録的積雪で、道や線路の脇に名残と、風の冷たさが頬に触れる。
もうすぐ芽吹き始めるだろう木々たちを眺めながら、旅の目的地まで心が先へ先へと急いでいるのを感じる。

待ち受けていたのは、期待を遥かに超える、気づきと変容だった。

1話2話3話4話はリンクから


14.思考モード

「ここからは人間だけの時間です。事前課題を深めていきます。」

事前課題とは、「最近起きた、困難な対話シーン」を提出するというものだった。
嫌なことが起こると、必ず振り返って内省するようにしているから、鮮明にやりとりを覚えている。
どのネタにするか迷うほどだった。

あるシーンが、頭をよぎった。
私が提供しているセッションに来てくれたクライアントとの対話シーンだ。なんとなく感じているモヤモヤを出したい。
内省する中で見えていた、相手によって投影された「エゴイスティックな自我」。この主観も含めて、この仲間に開示して、対話で何が生まれるか、純粋な興味があった。

「誰か、やりたい人?」

一目散に、手を挙げる。
みんなの問いが、助けが、欲しかった。

「大切なのは、聞く力と、問う力です。決めつけるのではなく、オープンクエスチョンを心がけてね。」

情景を思い浮かべながら、細かく描写を語る。
うんうん、頷きながら、耳を傾けてくれる仲間たち。

ある日のセッション「軽くなりたい」と来てくれたクライアント。
対話する中で論理武装がなかなか解れない。ハートで話す感覚を恐れている感じがする。非言語の圧を感じて、息苦しくなる。
「自己犠牲」という土台が見えてきているけど、引き出せない。拒否している感じがある。
終わった後、モヤモヤするも、意外と相手からの評価は高い。身体は拒否しているのがわかった。ジャッジされている感じがあるのか、危険信号が出ていた。攻撃を喰らっているように思えたようだった。
もしかすると昔の自分に近い人だったから、OLD MEとの対峙かも・・・
この一件から、一緒にいたい仲間は、感覚感性を信じてその世界へ飛び込もうとしてくれる人といたいと思うようになった。

ざっと主観を中心に話して、事実も聞かれながら、深掘りをしていく。

相手の視点・自分の視点、過去・未来、「if」仮説、感情・思考、さまざまな角度から問いが立てられる。

30分くらいダイアローグした頃だっただろうか

「相手は満足していて、えすみんはモヤモヤを抱いた。何がそうさせたんだろうね?」

愛さんから、問いを立てられる。
そこで出てきたのは・・・

「私が、私のモノサシで彼女をジャッジしていたのか・・・ジャッジされたと思ったのは私。でも実際にジャッジしたのは私。相手は鏡ですね。」

そうか、それでだったのか。
ひとつ腑に落ちる。でもまだ少しだけモヤモヤが残っている。この正体は?
タイムアップ!
あとは、もう少し寝かせて向き合ってみることになった。

この時を振り返ると、完全に思考優位だった。
感情や感覚を、少し偽っていた感じ。本質に触れようとすると少し防御する。
まだ、ここでは自己開示ができなかったのだ。
何を守ろうとしているのだろう。ちゃんと伝えようとするあまり、感情ではなく論理で説明しようとしてしまうのが、癖なのかもしれない。
はたまた、感情を出すのが恐いと思っているのかもしれない。

感性をひらく

この2年間意識してきたつもりだったけど、まだまだ防御姿勢なのか。
そんな悶々も抱えながら、次の人へとバトンが繋がれる。

癒しの猫ちゃん

15.自己開示

「次は誰がやる?」

いつものように、互いに遠慮する、お見合いの空気が流れる。

「・・・事前課題とは別のテーマでやってもいいですか?」

あきぽんが、口を開いた。
細かくは書かないが、このテーマを開示するのには、ものすごい勇気が必要だっただろう。
彼女の自己開示によって、明らかに私たちの中に流れる変な「遠慮」がなくなった。
プログラムが始まって、2日目が終わろうとする夕暮れ時。
初めて「涙」が流れた。

堰き止めていた想いが溢れる。
彼女が抱えてこんできた感情が、私たちの中に入っていく。みんなの心が一つになっていくようだった。

「あきぽん、自分の長所はなんだと思う?」

優しく、Amiiさんが問いかける。

「・・・体力があるところ。あとは・・・あとは・・・・・・ない。」

そうか。そうだったんだね。
問いの時間が終わり、みんなでフィードバックをし合う。

私は、彼女を抱きしめたくなった。
子どもを抱きしめるように、優しく、たっぷりの愛情をもって、彼女をハグしたかった。
聴く側に立っていた4人は、同じ気持ちだったのではないかと思う。

彼女に何ができるだろう。
主観で感じたことが、喉のところまであがってきた。
その言葉を、必死に飲み込もうとした。
聴いてあげること、抱きしめることが一番良いかもしれない。
言葉は時に冷たく、愛を持って伝えても傷つけることがあるから。
迷いに迷った。
勇気を出して、確認する。

「主観なのですが、一つだけフィードバックしてもいいですか?」

もちろん、と、あきぽんとAmiiさんが言う。

「周りに気にかけてほしい・・・と言った、あきぽんの言葉は、あきぽん自身に言っているような言葉に聞こえました。相手に向けて放つ言葉は、常に自分にも語りかけることになると思っているので。」

言ってしまった。主観でしかない。
でも、どうしてもその言葉を飲み込むことができなかった。必要だと思った。あきぽんを信じて、伝えてみる。私にとっても勇気のいる発言だった。

ここでタイムアップ。

それぞれが、たくさんの問いを持って、モヤモヤを持ち帰ることになった。
私が発した、あの言葉、適切だったのだろうか。不安も大きい。
各々が何かしら大きなものと向き合っているような、鋭い目つきだった。
それぞれが見つめる先には何があるのだろう。

クラブハウスの一角

16.札幌で会いたかった人

2日目が終わり、牧場で他の仲間とは別れ、私はひとり迎えを待つ。

どうしても会いたい人が、この土地にいた。
昨年出会った、心の通う友「ぽーりー」だ。
大人になってから友だちになるという、貴重な存在。

4/5日の夜。

「ぽーりー、ご無沙汰!すっごいピンポイントなんだけど、4日後の夜の予定空いていません?急遽札幌に行くことになって。急だし、無理なら全然大丈夫!」

急に送る一通の誘い。私が、誰かを誘うということ自体、非常に珍しい。基本は一人行動が好きなのに、それでも、どうしても会いたかった。

「えすみん、連絡ありがとう!嬉しい!まだ夫には言ってないけど、多分大丈夫!」

この軽い感じも大好きだ。
自宅でお酒とカニを用意して、おもてなしをしてくれるということで、甘えることにした。
なんと牧場まで、車で15分という近さ。迎えもお願いした。


彼女との出会いは、2021年8月の松本だった。

同じコミュニティに属していて、初めて顔を合わせた松本合宿。
親しく話す機会に恵まれたのは、二次会の時だった。
松本城の麓の公園で、コンビニで買った500缶のビールを開ける。
お堀に映る松本城を眺めながら、二人きりでしっぽりと飲む。

「私、色々と違和感を感じていて・・・」

お酒の力に頼って、人間関係の悩みを相談した。
初対面にも関わらず、深刻な思いを伝える。
この人になら、本当の気持ちを言っても大丈夫な気がした。

「ああ、えすみん、わかるよ。えすみんは繊細な人なんだね。」

驚くワードだった。
「繊細」ですと?

既出の通り、大雑把で、豪快で、目的思考・最短思考の特性を持つ。
繊細なんて、生まれてから、一度だって言われたことがなかった。
もちろん、自覚もない。

彼女の目から見た”えすみん”は、言語だけでなく非言語なものをたくさん受け取って、人を信頼するのに慎重になっているように映るのだという。
なぜなら”私の姿”が、そのまま”彼女の姿”を映し出すようだから。

類は友を呼ぶ

彼女は、普段は繊細に、周りに目を配り、常にアンテナを立てる。
その場におけるベストは何か、常に気を張って過ごす。
秘書の経験が長いから、呼吸をするように、周りを観察し気を配るのだ。
いつも周りを優先するから、お酒を飲んだ時しか、本音が言えない愛らしいところがある。

ああ、確かに似ている。
私も、これまで、たくさんお酒に逃げることがあった。
出産してからは減ったものの、私にとっては大切なリラックスアイテムだ。

繊細なのか・・・

初めて気がつく自分の特性に、驚きを隠せなかったが、彼女が言うことだからと受け止めた。
この時はピンときていなかったが、このあと秋冬に何度か人間関係トラブルが起こり、痛感することになる。

超繊細さんだったと。HSP、エンパス、両方の特性が当てはまると。
最初に、私の特性を教えてくれた、かけがえのない恩人だ。

思い出の松本城

出逢った思い出を振り返りながら、彼女を待つ。
なんか、今、絶対合わなきゃいけない気がした。
理由はないけど、そんな気がする。

白いフォルクスワーゲンが、颯爽と、私の前に現れた。

「ごめんごめん、お待たせ〜!」

窓から覗き込む笑顔の「ぽーりー」と、牧場前で見つめ合う。

次回へ続く・・・


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