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雪解けの大地が映し出す「心」のほぐれ①

雪解けが進みはじめる、4月の北の大地。
この地に足を踏み入れるのは、前職の出張以来となる6年ぶりだった。
今年の札幌は記録的積雪で、道や線路の脇に名残と、風の冷たさが頬に触れる。
もうすぐ芽吹き始めるだろう木々たちを眺めながら、旅の目的地まで心が先へ先へと急いでいるを感じる。

待ち受けていたのは、期待を遥かに超える、気づきと変容だった。


0.友からの一通のメッセージ

「急なんだけど、4月の前半に北海道でホースコーチング受ける仲間探しているんだけど興味ある?」

3月終わりの夜に一通の連絡が入っていた。
翌朝、眠気まなこに映った「ホースコーチング」という言葉。
一気に目が覚め、「あるある」と二つ返事。後先考えず、直観的に飛びついた。

ホースコーチングという言葉を聞いたことがあるだろうか?

スタンフォード大学医学部やスイスのIMDビジネススクールなどで実績のある、馬をコーチとする自己内省・行動変容のためのプログラムです。このプログラムを日本で提供するのが、札幌市内の小さな隠れ家「ピリカの丘牧場」。チームメンバー、上司部下、家族などとの関係性に課題感のある方。自分のありようを問い直したい方。組織のあるべき姿を模索したい方。あらゆる課題感を持つ方々に、究極の内省を通じた課題解決をご提供します。

COAS:https://www.coashp.com/

存在は知っていた。なぜなら、声をかけてくれた友人と昨年から「いつか一緒に行きたいね!」と話していたのだから。

自分と出会い直す旅は、出産した2018年から始まっていた。
それにまつわる体験は、何よりも優先して選んできた。そして今回も、受けたいと思っていたチャンスが目の前に現れたのだから、思考する間も無く、掴み取る。

とはいえ、もう時間がない。まずは、寝かしつけには私の存在が欠かせない3歳の息子との調整が待ち受けていた。

「ホースコーチングは、”今”Comma Labのためにも、私のためにも絶対に必要なチャンスなんだ。」

何が得られるかは行ってみないとわからない。
言葉では明確に説明できないけど、身体が、心が行けと叫ぶから、行かせてくれと夫に掛け合う。
気迫に負けたのだろう。

「土日ならなんとかする」

と背中を押してくれた。
思えば、夫とのコミュニケーションはいつもこんな感じだ。言語ではなく、非言語も駆使して、本気度を伝える。
退職するときも、起業するときも、いつも理屈ではない本能を精一杯表現してきた。それを全力で受け止める夫には、頭が上がらない。

次に待っていたのは、先約の調整。運転手という重要な役割もある約束だったが、どうしても今こちらを優先したいという想いを伝える。

「優先順位がはっきりしているなら良いじゃないの。言っておいで。」

本気の想いは、拙い言葉でも、テキストでも伝わるのだ。
そして、この言葉で気がついた大切なことは、私なりに物事の優先順位と向き合っていたということ。

家族がいるから、友達と先約があるから、お金がかかるから・・・何かの言い訳をすれば、簡単に行かないという選択もできたのに。
無理をしてまで掴み取ろうとした、未知の体験。
頭ではなく心の声に従ってみる、それを人に説明するのはとても難しいけど、無理なことではないと知ることができたのだ。

そう、旅立つ前から、私の変容の準備は始まっていたのだ。

1.子どもに戻るような体験

好奇心を抑えられずに、眠れなくなるのは、いつぶりだっただろうか。
珍しく、旅立つ数日も前から準備を始めた。誰の目から見ても、心が躍っている様子が見てとれる。

遠足の前日
受験の前日
試合の前日
発表会の前日

子ども頃は、定期的にあったワクワクで眠れない夜。
最近だと、出産前はこんな感覚だったのかもしれないと、頭をよぎる。

比較的、新しいことはなんでも体験するのだが、ここまで心が落ち着かないのは久方ぶりだった。
心はもうわかっている。
人生のターニングポイントになるような素晴らしい体験が待っていると。

目覚ましよりも早く起き、支度をして、予定よりも2本早い電車に乗った。
ホッと一息ついたと思うと、車内アナウンスが流れる・・・

「小動物との接触により運転間隔が詰まっています。
これからさらに遅延する可能性があります。」

まずいな・・・一駅行ったところですぐに降りた。幸い新幹線が止まる駅だったこともあり、大きな荷物を抱えて乗り換え口まで走る。
羽田空港まで、かなり余裕があったが、今回ばかりは遅れるわけにはいかない。
何の躊躇もなく、身体が動いた。アニマルスピリッツとはこのことだ。

平日朝の羽田は閑散としていた。出張も旅行も、巷で聞くよりも戻ってきていないことを感じる。
真っ先に向かったのは、佐藤水産のおにぎりコーナー。
羽田で必ず最初に行うルーティンだ。
朝だから、無事にイクラのおにぎりを手に取る。

「いつも、何時頃に売り切れますか?」
「その時によって違うので何とも言えませんが・・・」

こんなやり取りをしながら、誇らしげに手荷物検査場に向かうなか、ふと気がつく。これから北海道に行くのだったと・・・

ルーティンの脅威を感じる。
それでも、買うことができたということ自体が、私にとっては勲章のようなものだから、それでいい。

2.ソワソワの正体

新幹線という便利な乗り物のおかげで、間を持つことができた。
ラウンジという名の精神と時の部屋に入り、3日間を心置きなく過ごせるようにパソコンと向き合う。

早めにパソコンを閉じて、ゲートに近づく。
どんな行動においても、いつもより10分以上早く行動に移すのは、期待なのか、不安なのか。
機内案内のアナウンスが鳴り、高鳴る鼓動。
いよいよフライトが迫ってきた。深呼吸して機内に乗り込む。

空いていれば、翼よりも前の窓側を選ぶのが癖だ。
窓の外は、遮るものが何もなく、外の世界に溶け込んだような気分になる。センス・オブ・ワンダー
子どもの頃から変わらない移動の楽しみは、外を見ることだ。
スマホの登場と共に、そんなことすら忘れてしまっている現代病。

フライトは西か南に向かうことが多いこともあり、関東平野の広さや、雪山の連なりに感動する。
ソワソワが落ち着かない原因の一つは「予習禁止」ということ。

事前情報収集から、その場を想定して、仮説を立てて臨むスタイルが染み付いているから、落ち着かないのは当然だ。
具体的な目的すら持つことが難しい。先に着いた仲間と連絡をとりながら、目的地までの道中をシミュレーションすることくらいしか出来ない。

期待も不安も、入り混じった状態が、この感覚なのだろう。
大人になってから、いや、正確には社会人になってから、こういう感覚は味わっていない。好奇心ドリブンで生きているからこそ、心地よさも感じる。

いつからだろう。
期待値や目的を設定して、その想定内か外かでジャッジするようになったのは。
口癖が「想定内」となっていったのは。
「想定」を確かめる行動が増えたのは。

こちらの思考を見透かされたように、事前に伝えられたのは、他の人の体験談を読まないこと!というものだった。
「想定」すらも手放すように言われるとは。
これまでの経験値からホースコーチングへの期待が高まっていく。
子どもの頃のように、純粋に、その瞬間を楽しむ!それだけだ。

そして、今、この仲間と、3日間体験する意味は何だろうかという答え合わせは、終わってからのお楽しみ。

思考をぐるぐると巡らせていたら、あっという間に着陸してしまった。
ソワソワの心と頭に気を取られて、景色は見ているようで、見逃していた。
思考の弊害が・・・これも私らしさだな。

3.口数が表す心模様

着陸と共に足速に地下鉄に向かう。
3日間のうち、ほとんどの時間をピリカの丘牧場で過ごす。
魅力的な空港からの誘いは振り切って、よそ見をせずに猪突猛進だ。

仲間とは5号車で落ちあう約束になっていた。姿を見付け、駆け寄ると、一人の女性が隣の席を譲ってくれた。感謝を示し、友の横に座る。
大阪、東京、群馬と各地から集まった感動に浸る余裕がない私。

雪解けの北の大地を眺めながら、いろんな想いが渦めく。
話したいことがまとまらない、目的が見えない、不安がある。言葉にならない心模様は、言語的コミュニケーションでは限界があった。
行きは、聞く専門。

札幌駅からタクシーに乗り換える。ここでも、自分の胸中は話さない。
いや、話すことができなかった。
まとまらない気持ちは、何も伝えることなく飲み込むのが癖になっていたんだ。

これもいつからだったのだろうか・・・

「何を言いたいか分からない」

この呪いは、幼少期から数えきれないほどの人に掛けられた言葉だった。
そう、起業してからも。
想いを伝えても空回る。言葉を尽くしても、伝わらない。理解されない。

いつからだろう・・・
伝わらない言葉を見つけるために、たくさんの本を読んだ。
表現するために、言語化するために、武装してきた論理的思考、構造化、単語や表現のバリエーション。
躍起になって、34歳まで全力で駆け抜けた日々。
感性と理性とのバランスはいつしか崩れていた。
悶々と沈黙していると、クネクネした舗装していない道を揺られ、目的地に着いた。

ピリカの丘牧場

笑顔で出迎えてくれた、Amiiさん。今回のファシリテーターをしてくれるという。
玄関に一歩入ると、お香のかおりが漂う。

「いい香り・・・」

可愛い革のスリッパが並べられていた。
ブラウン、グリーンをベースに、落ち着いたアースカラー。玄関口から、こだわりが伝わってくる。

少しずつ、体感覚に身を委ねる感覚は、きっと設計されているのだろうな。
いかんいかん、また思考してしまった、なんてことを繰り返し、一歩ずつクラブハウスの中に入っていく。

中には、ゲストを迎える心配りがたくさん詰まっていた。
大好きな哲学的な本、アートの本、あらゆるオブジェも馬関連で揃っている。

いよいよ始まる3日間。自己紹介でも、この期待感は、うまく言葉にできないでいた。

「おうちに来るようにリラックスしてほしい。思考ではなく感じてほしい。」

そうAmiiさんが言ってくれた。でも、リラックスって本当に難しい。
マッサージを受けていても、温泉に入っていても、心からリラックスしたことなんて人生で数えるほど。
胸を張って「リラックスできない人」と言えるほど。
いつも緊張感を抱えているのだから。

その心境も、正直に話す。
そうか、とメモをとるAmiiさん。

リラックスできないと、口数は減る。
言語化できないと、口数は減る。
その分、思考は猛スピードに回転している。
そんな私が、リラックスして、感じるままにいられるだろうか。
一抹の不安がよぎる。

そうして始まった、自分と出会い直すホースコーチングの旅。

どんな変容が待ち受けているか・・・それは次回。

2話目はこちら↓↓


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