大逆転!人生・感動物語。vol.3
結婚を意識しはじめた矢先。
「出産は諦めた方がいい」と医師からの宣告。
悩み苦しんだ彼女は、彼に伝えた。
「他の女性と結婚して」と。
ーー膠原病の女性と難聴の男性が
歩んできたドラマ
突然彼女を襲った不幸。
常に明るくはじける笑顔の彼女の頬に、
流れる涙。
心が引き裂かれるような痛み。
俺がおまえを守るから!
そう伝えた彼の頬にも涙が流れた。
彼は彼女との結婚を求めた。
彼の強い愛に、違う涙が頬を伝う。
しかし、父は結婚に反対した。
若い2人は何度も足を運んだ。
生まれながら難聴の彼は、
必死に言葉を紡ぎ出しながら訴えた。
「何があっても自分が彼女を守ります」
彼女の頬が涙でぬれた。
父は娘の涙の向こうにある清らかな何かに
突き動かされ、小さな声でこう言った。
「がんばれ」
結婚後、待望の長男を出産。
しかし、生後間もなく
難聴であることが分かった。
幼稚園に入った長男は、
両耳の補聴器を理解できない。
ある日、補聴器を父に投げつけて叫んだ。
「ぼくはお父さんと一緒じゃなくて、
お母さんの耳がよか!」
彼女ははじめて息子に手を上げた。
ほっぺたを押さえて泣く息子と、
だまって抱き寄せる夫の姿に
胸が張り裂けるようだった。
間もなく夫は、リストラで仕事を失った。
家のローン、養育費が生活を圧迫させた。
彼女は誓った。
「どんなことがあっても私はついていきます」
新たな職場を見つけた夫は、
家族を守るため不慣れな工場で、
血のにじむような苦労をしながら働き続けた。
試練はそれでは終わらなかった。
次に産まれた長女も難聴だったのだ。
父は自分の持って生まれた宿命を呪った。
申し訳ない…
涙をみせない代わりに、
自分を責めることで将来悩み苦しむだろう
我が子の痛みを焼き付けるような気持ちだった。
生まれたばかりの妹に、
補聴器を父に投げつけた息子が言った。
「大丈夫だよ、お母さん。
僕が妹を守るから」
悲しみを小さな体で分かち合おうとしている
のが痛いほど伝わった。
小学4年の春、
息子が友達にからかわれ不登校になった。
そのあと、特別支援学校に転校。
彼女は、悩み続けた。
妻として、母として、家族に対して、
何もできない無力感を何度も突きつけられた。結婚の話を切り出したときの
父の言葉が思い出された。
「苦労すると知りながら
どうしてその道を選ぶのか」
ある日、目にした言葉が胸にささった。
「たとえどんなことがあっても、
どんと構えるんだよ」
言語障害や知的障害のある子を持つ母親を
励ます言葉だった。
「どんと構えるんだ」
そう決めた。
笑顔を忘れてはならないと決めた。
やがて気付いた。
耳が聞こえなくても、
心がとらわれない限り自由なんだと。
一昨年の冬。
息子の描いた絵が、ある絵画展に選ばれた。
生まれたばかりの息子が、
父と母に囲まれている絵だった。
そこにはこんなメッセージが書かれていた。
「お父さん、お母さん、
産んでくれてありがとう」
今までずっと人にも言えず、夫にも言えず
にいたひとつの問いがあった。
それは本当に出産してよかったのかと。
その傷穴を埋めてくれた息子のメッセージ。
涙がとめどなく流れた。
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