見出し画像

万能感のメリットとデメリット

前々回では、万能感の定義と目的について前回は、万能感の裏側にある無力感について説明しました。後編の今回は、万能感のメリットとデメリットについて解説します。まだご覧になっていらっしゃらない方はそちらを先にお読みくだいませ。本編に入る前に、前のコラムの内容を軽くおさらいしておきましょう。

(読了時間:約7分)

万能感は、全知全能で無制限、すなわち何でも知っているし、何でもできるし、何をしても許されるという感覚のことです。この万能感によって、自分は他の人とは比べものにならないくらい価値がある、つまり優れていて特別に感じます。加えて、他者を思い通りに動かせると考えます。

これに対して、無力感は、万能感とは正反対の特徴を持っています。つまり無知無能で不自由、すなわち何も知らないし、何もできないし、何もしてはいけないという感覚です。

無力感によって、自分は他の人とは比べものにならないくらい劣っている、あるいは全く価値がない、平凡で人と違うところが全くない、自分は悪者で他者から嫌われて迫害される、という感じの少なくとも1つを持ちます。自分は何もできないと考えているため、自分の意志で行動するよりも、他者の意志に従い行動する方が多くなります。

これらを踏まえた上で、万能感のメリットとデメリットを説明しましょう。

万能感のメリット

万能感のメリットは、特に理由はなくても自分を肯定できるところです。万能感は無条件の自己肯定の源です。なぜなら、万能感から生まれる自己肯定感情には、根拠がないからです。現実世界において、自分の万能感を証明することは叶いません。なぜなら、全知全能で無制限の人間は存在しえないからです。

しかしながら、逆にいえば、万能感さえあれば根拠がなくても、つまり現実に即してなくても自分を肯定することができるわけです。無条件に自分を肯定できるならば、それを他者に分け与えることもできるでしょう。そのため、万能感は無償の愛の源でもあります。

万能感のデメリット

万能感のデメリットは3つあります。

万能感は脆く、失えば無力感にさいなまれる

1つ目は、そもそも万能感が脆い感覚だということです。なぜなら、万能感には現実に即しておらず、根拠がないためです。何でもできると思って挑戦した結果、失敗すれば、万能感を失う危機に陥ります。

——実は、万能感は失っても大丈夫な感覚なのです。なぜなら、万能感がなくても、一般的な自己効力感、つまり、自分は(何でもはできないけれど)○○ができるという感じがあれば、自尊心(=自己肯定的感情)を保ち続けられるからです。無限の効力感を失っても、有限の効力感があればいいのです。

しかし、万能感を失い自己効力感も持てない場合があります。そこに待っているのは、無力感です。万能感を介して自尊心を保っている人は、逆説的に万能感を用いてしか、それを保てないことになります。今まで説明したように、無力感はとてもネガティブな感情です。打ちのめされる抑うつ的なものです。そのため、万能感を失うことはどうしても回避しようとするのです。どうやってでしょうか? この手段が2つ目のデメリットです。

自分に権力があると思う

権力があるとは、他者が自分の思い通りに動くということことです。これは、言い換えると他者を自分の一部のように捉えているということです。万能感を持つ人は、他者を自分自身の欲求を満たすためのもの、つまり道具として扱うことになります。自分の身体や所有物が自分の欲求を満たしてくれるのと同じように、他者もまた自分の感情を満たしてくれるはずだと考えています。

1つ目の説明に出てきたように、万能感を失い、自己否定で心がいっぱいになっても、周りの人たちが褒めて肯定してくれれば、少しはマシになります。ただし、万能感は脆い、つまり失われやすいため、自分を肯定し"続ける"必要が出てきます。頻繁に、そして継続的に肯定し続けてもらおうとします。このような欲求は、承認欲求として有名ですね。

承認欲求が強いというだけでなく、万能感を持っている人は、他者を自分の一部だと思っているので、人を人とも思わない横柄で非共感的な態度を、周りの人たちに取りがちです。あるいは「○○しないと××するぞ」という脅迫的なものになるのかもしれません。脅迫は、他者を操る方法の1つです。

どちらにせよ、これらは他者からすれば不本意で、肯定しがたいものです。もう少しなじみある言い方をすると、彼らはウザくて面倒くさいのです。たとえば、ナルシストやイキリストと呼ばれる人たちが、なぜ嫌われるのかというと、彼らの自尊心が万能感に支えられているからです。根拠もないのに承認を求める……他者を鏡(道具)にして、万能感を保とうとしているのです。

したがって、万能感が強い人は、対等な人間関係では嫌われます。それどころか距離を置かれることすらあるでしょう。なぜなら、彼らは支配的で強圧的、非共感的と評価されるからです。

だから、上下関係以外を構築しにくく、そもそも人間関係自体が長続きしません。もしも周りに人が残ったとしても、不満という名の爆弾を抱えた人間と無知または盲目的な信者だけ……なんてことになります。危ないですね。

権力を持つデメリットは他者に対して害を与えがちな点だけではありません。自分自身にも不利益を起こします。これが、万能感の3つ目のデメリットです。

自他境界があいまいになる

他者を自分の一部と思っているため、自他境界(自分と他人の境目)があいまいになります。すると、周りに影響を与えやすい反面、周りからの影響を受けやすくなります。

自他境界があいまいになると、自分自身の自己評価、つまり自己肯定的感情もまた他者に左右されやすくなります。なぜなら、他者の自分に対する評価と自分が定める自身への評価を完全に同じものだと見なすからです。

他者から承認を得られるか得られないかによって、自分の評価がコロコロ変わるため、自己イメージ(自分ってこんな人、こんな価値があるというイメージ)が、不安定になっていきます。万能感と無力感の行き来が激しくなり、本人も周りにいる人も精神的に疲労します。「俺ってハンパなくすごいんだぜ!」と言っていた人が、次の日には「俺は生きている意味がないんだ……」と言い出せば、その人とどう接すればいいか混乱してしまいますよね。

その他のデメリットは、リンク先のコラムをお読みください。

まとめ

万能感のメリット

・無条件の自己肯定ができる。

万能感のデメリット

・万能感は脆く、失えば無力感にさいなまれる。
・自分に権力があると思うため、他者に嫌われやすい。
・自他境界があいまいになり、自己評価が不安定になる。

おわりに

万能感について、3つに渡りコラムを書いてきました。万能感を持ち続けるのは、メリットよりデメリットの方が大きいのです。この「万能感とは」の3つのコラムには、解決編である「万能感(と無力感)の手放し方」が残っています。解決編は、後日投稿予定です。頭の中でまとまるまでしばしお待ちくださいませ。

よろしければ、スキを押していただけましたら幸いです。今回は、デメリットの部分を何度も書き直した難作だったので、応援のつもりでぜひお願いいたします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?