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■大河ドラマ『光る君へ』第22話「越前の出会い」感想ー一目見んとぞただにいそげる

大河ドラマ『光る君へ』第22話ラスト、ご覧になりましたか? おそらく見ていた方の大半がこう突っ込みましたよね。

「ちょっ……おまっ……日本語しゃべれたんかい!」

そもそも立ち位置的に、周明さんからは「直秀み」がじわじわっと滲んでいたのですが。あの第22話最後の場面にダダ漏れた「直秀み」が、せつない懐かしさを呼び起こさせた上に、今後のワクワク感も爆上げしてきて。

20話を超えても、ドキワク要素をこれでもかとブチ込んでくるあたり、今年の大河ドラマ『光る君へ』はほんとうに油断なりません

というわけで、番組開始20分経っても続く越前の場面におろおろし、「都の貴族さま方がたいへんに恋しいですぅ(;A;)」と少々泣き言の入っていた中関白家激推しアカウントはこちらです♡

いやもぅ、このまま周明とまひろっちの逃避行が始まり、【ふたりの宋国大冒険!】に物語がシフトしたら、それはそれで面白そうですが(笑)

でも、そうなると、公任さまが…定子さまが…と全私が泣き暮らす未来しか見えませんので、そのあたりはご勘弁いただきまして。

そんなこんなな想像をしつつ、「黒束帯ズ」な公任さまと実資さまによる、すてき場面に癒されながら、無事に第22話を視聴し終えたのでした。

そうして、そんな都の貴族さま方大好き中関白家激推しなワタクシの先週第21話の感想はこちらです。

というわけで、今回も中関白家を全力で推して参る第22話の感想に行ってみましょう🎵


■今日の中関白家

■伊周さまは泣くしかなくて

みちのくの母のいのちを一目見ん一目みんとぞただにいそげる

斎藤茂吉の短歌です。病床にある母に会いたい一心で、家に帰る道中を過ごす心境を詠んだ歌であり、中学校の教科書で見たことのある方も多いのではないでしょうか。

もちろん、伊周さまの母貴子さまは都にいらっしゃいますから、伊周さまが向かうのは「みちのく」ではありません。それでも、あの場面の伊周さまを見ていると、どうしてもこの歌を思い出さずにはいられませんでした。

一目でいいから、母に会いたい。ただその一心で、後先のことなどいっさい考えることもせず、大宰府へ向かう道から一転して、都に舞い戻った伊周さま

伊周さまの心のなかの、幼子の部分は母を失うことへのおそれでいっぱいになっていたでしょうし。また、少しだけ大人になっている部分は、きっと自分を責める言葉で傷だらけになっていたことでしょう。

罪悪感と絶望感と。恐怖と孤独感と。

以前の伊周さまは、父である道隆さまに負けず劣らず「きらっきらな殿御」でした。誰からも注目され、一目置かれるのが当たり前で、ちやほやされることがデフォ。また、それに応えるべく成長された伊周さまは、まるで大きな羽を背負ったトップスターさんのようなたたずまいで、宮中を闊歩なさっていたのです。

そんな日々がこれからも続くはずだったのに。

あの場面では、直衣も乱れ、無精ひげもそのままに、御髪さえもぼさぼさの状態で……その憔悴しきったお姿からは、艶気とか色気とかが存分に滲み出し、全世界に拡散されているように感じるのはやはり中関白家の血のなせる業でしょうか……(錯乱)

とまぁそれはともかくとして(ゲフンゲフン)

伊周さまが幼い頃から暮らしていらっしゃったのは、父上と母上ががっつりと守り固めた、いわば「夢の世界」だったのだろうと思うのです。そうして、これまではそこに安住し、自由気ままに生きているだけでよかった。それだけで、みなが自分を褒め、安心させてくれた。

駄菓子菓子。

父の死を境に、「夢の世界」の住人であった伊周さまはいきなり「現実世界」に放り出されてしまった。しかも、何の装備もないままひとりぼっちで。

妹である定子さまは、生まれたときから帝に嫁ぐことを宿命づけられていました。ですから、魑魅魍魎がうずまく世界で生き延びることを前提に育てられています。また、隆家さまは、おそらく三郎=道長どんと同じく、無意識のうちに生き延びるパワーが全開で備わっている末っ子です。

そう考えると。本流を継がねばならないという宿命を持ち、ある意味で蝶よ花よと育てられてしまった「長子」であったことが、伊周さまのいちばんの不幸だったのかもしれません。

この後、大宰府に送られた伊周さまは、約半年後、恩赦により許され、翌997年12月に都へ戻られます。が、もうそのときには、伊周さまに宮廷での居場所はなかったのでした。

■定子さまは前を向く

鈍色のお姿がほんとうにいたわしくて(´;ω;`)ウッ……でも、その御目に宿る力は以前よりもずっと強くいらっしゃいました。今はまだお腹にいるこの子だけは絶対に守り抜くのだと……その決意が絶望のどん底に沈んだ定子さまに前を向かせたのでしょう。

そうして、既に父も母も亡く、兄も弟も遠くへやられてしまった今、定子さまに頼れる身内はいません。母方の家系(高階家)は中流貴族ですし、史実で見ると、彼らの中には伊周さまたちに様々な嫌疑がかけられた段階で、定子さまたちに背を向ける者さえ出てきます。

また、夫は天皇の御位にいる。帝自身、定子さまに対して気持ちを強く残しているのは重々感じているけれど、でもその気持ちにすがることなど、できるはずもない。

だからこそ、定子さまはここでものっそい現実的な手段に出ます。そう、時の権力者であり、叔父である道長どんに救いを求めるのです。私はどうなってもいいから、この子だけは救ってほしと……

栄誉も栄達も帝位も何も望まない。夢見たところで叶うものではないし、そんなものを望んでしまえば、「平穏な人生」なるものは絶対に手に入らない。そのことは、自分たち兄弟を見ていれば一目瞭然。ならば、この子が男子であろうと、女子であろうと、一貴族として平穏で平凡な人生を送れるよう取り計らってほしい。そう願うのです。

このあたりの場面を見ながら、定子さまって基本的にめちゃくちゃ現実的な思考をされているのだなと感じました。うん。夢見がちな男子どもとは格が違うですよ。

考えてみれば、定子さまはあの詮子さまと対等にやり合い、宮中の噂好きな女房たちのなかを生き延びた方です。また、母である貴子さまは円融天皇のもとで内侍を務めていた、いわばバリキャリですから、後宮における処世術などは徹底的に教え込まれていることでしょう。

それらを踏まえると、道長どんを退路を断つかのように呼び出し、まっすぐに要望を伝えたときにあった定子さまの、今まで見せることはなかったしたたかさにも頷けるというものです。

この年の12月、定子さまは一条天皇の第一皇女である脩子内親王をご出産になります。そうして、このことがまた一条天皇の、定子さまへの恋情をさらに燃え上がらせることになるのです。

■うるわし男子列伝

■公任さまが現世でも検非違使長官に…?

先日、京都を歩いていたときに、こちらのポスターに呼び止められました(え)

公任さまが、現世の検非違使なお衣装を身に付けられ、紙上とはいえ、町に目を光らせていらっしゃる……‼  あまりにもうれしくて、思わず一枚お写真を撮ってしまいましたとさ。(ガラス越しでの撮影でしたので、画質はアレですが…💦)

そんな公任さまは第22話では、実資さまに代わり検非違使別当に。『光る君へ』始まって以来、最大限長い時間、ご出演なさっていらっしゃったのです。

嗚呼、検非違使別当万歳(/・ω・)/

■官職ごとにアクスタをください(土下座)

というわけで、今回は陣定に出られるときの黒い束帯の姿もあり、また、検非違使別当としてのお務めを果たす際の武官束帯もあり。このときは緌まで付けていらっしゃって‼ 

とりあえず、平時の直衣姿と武官束帯と、あと以前の頭中将の装束のアクスタをください(土下座)

また、伊周さまに対して「ならぬ。」とおっしゃったときにダダ漏れたあれやこれや……思わずテレビの前で呻いてしまったことですよ……一言だけで、テレビの前に陣取る下々の民を悩殺できるとは、公任さまはどこまでも罪深いお方でございます(感涙)

それにしても。

セリフ一つひとつの細やかな息づかいや、目線の在り様で、公任さまのなかにある葛藤や正義感を伝えていらっしゃるのが、ほんとうにすてきで。

しかも、その葛藤や正義感はこれまでの公任さまの人生のなかで、何度も何度も思考され、感情のなかで醸成された、とてもとても濃密なものであることが言外に伝わるんです。

道長どんに対する態度や、伊周さまへかけた深い情を拝見しながら、そこに込められた公任さまの時間を思って、少しだけ泣きそうになったのでした。

■アーニャ、わくわく。

宋の商人たちから贈られた鸚鵡さんが話している言葉は、学問に精通している実資さまと公任さまでさえ知らないものでした。そう考えると、その言葉ー宋の言葉を理解できる為時パパりんの非凡さって、実はえげつないレベルなのだな、と。

また、新たな言葉(「不可解」/笑)を教え込もうとしている実資さまと、いろいろ裏を探ろうとする名探偵公任さまの違いが、なかなかにかわいらしく♡

鸚鵡さんの声とも相俟って、おふたりとも表情が「アーニャ、わくわく」ってなってるのがとても好きでした(笑)

■会いたくて会いたくてふるえる帝

定子さまがご懐妊になっていることを知った一言目が「今から高階の家に行く」だった一条天皇。

いや……あなたが内裏を出るなんていうのは、世の中的には一大行事(行幸)になってしまうわけで……どんだけ大掛かりなことになるか、わかっていらっしゃる??

と、テレビの前の私でも突っ込めるほど、一条天皇は思考がおバグりなさっておられました。それくらいうれしかったし、それくらい会いたくてふるえてたのですよね、帝は……その気持ちを思うと、やはり涙腺が緩みそうになります。

「恋しい人に会いたい」

彼がふつうの10代の青年であれば、当たり前に叶えられた願いは、生まれた場所が「帝の位」であったばかりに、絶対に叶えられることのない「夢物語」になってしまいます。それでもと強引に自分の希望を押し切ってしまえば、世が乱れることになる。

民の幸せを願っている。それが自分の最大の使命だと理解しているし、日々そのように努力もしている。でも、同じだけ自分の幸せを願うこと、それを叶えることは―もちろん、それができるだけの力はあるのだけれど―彼は賢帝であるがゆえに、許されないのです。そして、それはほんとうに……かなしいことだなと思うのです。

だからこそ、清少納言姉さまは『枕草子』で定子さまと一条天皇の仲睦まじいご様子をこれでもかとうつくしく書き綴り、後世にまで伝えたのかもしれません。

■まとめにかえて

そんなこんなで、第22話でした。

「越前編? …なにそれ、おいしいの?」な感想になっていますが(笑)、越前でのお話もたいへん興味深く見ていました。

教科書の字面でしか知らなかった「国司」って、実態はこんなふうだったんだなぁとしみじみ。だからこそ、地方から政治が崩れて院政期になだれこむのだなと妙に説得されたりもして。

・ ・ ・

早いもので、そろそろ物語の折り返しが見えてきています。見ている私たちも時の速さに驚くほどですから、演じていらっしゃるみなさまにはもっと早く感じられていることでしょう。

1話ずつを大切にしながら。
第23話もご一緒に楽しめたら、とても嬉しいです。

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