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記憶のかけらを連れてくる―くどうれいん『桃を煮るひと』

「食べることは生きること」
「体は食べたもので出来上がる」
「何を食べるかより、誰と食べるか」

「食べる」ことって、生活のなかでも大きな一部を成していますから、十人十色、みんながさまざまなことばで言い表そうとします。

そのことばには、その人の積み重ねた時間や食卓が色濃く表れていて、理解できたりできなかったり、噛み合ったり、その実、噛み合っていなかったりして、それが諸々面白いところでもあります。

先日参加した読書会で、クッキーをご提供くださった方がおっしゃっていたことがとても強く印象に残っています。

農家の方たちがそれぞれ丹精込めて、手間暇かけて、心を砕いて作られた素材たち。それらをそれ以上の熱量を込めて、みなさんにお届けするのが私の仕事です。それは点と点をつなぐ線のような役割を持つのです。

細かい言葉遣いは異なりますが、大意はこんな感じでした。そして、「調理」という仕事をこれほどすてきに言い表したことばもないと思ったのです。

農家さんたちがこしらえた素材という「点」を、いただく私たちという「点」につなげる「線」としての調理。

それはきっと、その方がゆたかな思いを込めてクッキーや焼き菓子をつくっていらっしゃるから湧きあがってくる気持ちなのだろうと思うのです。そして、今日ご紹介する本は、そんな作り手の気持ちを料理から、素材からみっちりじんわり受け取りながら食べる方のエッセイです。

■『桃を煮るひと』について

■くどうれいん 著
■ミシマ社
■2023年6月
■1600円+tax

くどうれいん、
5年ぶりの食エッセイ集。

家事なんかしてる暇ないくらい忙しい自分と、
いきいきと夕飯を作る時分をどうしても両方やりたい。

■食べる前も後も

「食べる時間」って、ひとりであろうと、誰かといようと、食べる前から始まってます。

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