ヨットハーバーで、こぼれ落ちたもの
短編映画集「江ノ島シネマ」。監督・脚本家・アドバイザーが、プロジェクト参画における想いなどを綴るシリーズです。
第4回は【江ノ島駅】の監督・脚本を担当している山本美穂(やまもとみほ)さんの寄稿です。
「99転び100起き」とレディーガガ
いきなりですが、転ぶことがわりと多い人生です。
最初にコケた記憶は、小学校で1人だけ「心臓病のお知らせ」をもらったとき。
大学では「パパ活」をしている子が、成績優秀なために先生に褒められ、純粋な私が怒られるなど(笑)理不尽な思いはたくさんしてきましたが、なんと理不尽なことは、年齢と共にパワーアップしたものがやってくることが多いです。
特に結婚している女性は、頑張れば頑張るほど、お決まりのパターンがやってくるのも事実。
一般に「子どもが学校でいじめられた」「誠実な夫が不倫していた」「子どもが隣家の30万円のフェンスを壊した」などなど、予期せぬ事件が次々と降りかかります。
自分のことではない「他者のために」、苦手なことに立ち向かって解決せねばならず、多大な心のパワーを要し、メンタルを崩す友人は周りにたくさんいます。
内田春菊さんも講義で「女性クリエイターは『頑張れば頑張るほど、夫の妨害が必ず起きる』」ようなことを言ってたので、この説は定かだと思います(笑)。
私の場合、ピンチ時は「悠長に脚本」、とクリエイティブな脳になんかならず、想像の世界に入りこむまでのメンタル復活には何ヶ月もかかる。
さらに脚本家はコンテストや企画に落ちることが続くため、一般に「自己肯定感が下がる」と言われています。
私にも年齢なりのさまざまなアクシデントが起こり、ようやく調子が上向きになった頃に顔を出した「江ノ島シネマ」のワークショップで、高橋先生に出会います。
「まあ、一度映画を撮っちゃえば良いんじゃないですか」
穏やかな先生は、さも簡単におっしゃいました。
翌週もまた、おっしゃいました。
長年、一歩を踏み出せずにいましたが、高橋先生のこのラフで突き放した、愛がある言葉で動き出すことになります。
子どもの学校生活ですら、規則や押さえこまれた様子を見聞きすると息ができなくなり、憂鬱になる私。
幼い頃から過ごしてきた湘南で、自由な雰囲気で、自分たちの考えで、自分たちの手でゼロから立ち上げる「江ノ島シネマ」を「お手伝いしたい!」と、水を得た魚のように熱意が湧いたのは当然のこと。
ちょうどレディ・ガガが、アカデミー賞を受賞した際のスピーチが、話題となったニュースが流れていた頃です(後記)
さて。
映画撮影が始まると、即コケました。
撮影後は「監督やめるべ(湘南弁・藤沢弁です)」と、ひっそり暮らすこと2週間。
重い身体と心で、鎌倉駅チーム「東京に眠る」の撮影の手伝いに参加しました。
代表の安田ちひろが監督として、しんとした境内で、声をかけるのをためらうほど静かにじっと考えこんでいる。
聞こえるのはウグイスの声。ノーメイクで、めがねをかけて、真剣に取り組んでいる様子を目の当たりにして帰宅。
すると、撮影前に私が、独り奔走していた時のことが浮かんだのです。
江ノ島のヨットハーバーにあるカフェ。
ヨットの練習に来た健康的な若者たち。
暗さのかけらもない、眩しい朝に、撮影日の変更を各所にお詫びしなければならず、平日の朝っぱらから途方にくれていた私。
—そこへ、店内に大きな音で流れてきた、アカデミー賞を受賞したレディ・ガガのバラード「Shallow」。
あのガガが、ワナワナと震えてハアハアと胸を押さえ、涙を流しながらしたスピーチが、脳内で再生。
「賞そのものではなく、私が何年も努力してきたことを知ってほしい。
何回拒絶されたかはどうでもいい。倒れようが倒されようが、関係ない。
重要なのは、何回でも立ち上がり、勇気を持って前に進み続けられることなのです」
爽やかなヨットハーバーで、グワッとこみあげ、ぽとぽと落ちた涙。
あやしさ全開です。
そうだ私、絶対やらなくちゃ!
地元の大好きな江ノ島を、映画にしなくちゃ!
江島神社で、大吉ひいたじゃん?
—サンドイッチに、ポトポトこぼれ落ちた涙は「強い意志」「創りたい情熱」そのものでした。
女性クリエイターをとりまくプロブレム
女性監督やクリエイターは増えていますが、ハリウッドでの女性監督の起用はわずか1.9%、とのニュースが話題になると、次いでカンヌでも同じ問題が起きている、との記事が出ました。
「おもしろい」「売れる」という商業的な目線ではなく、女性に共感を得られそうな作品を描いても、それを選ぶ立場にあるプロデューサー陣が男性である現場が、まだ圧倒的に多いのが現状です。
最近の日本では、医学部への女子の入学が、長年抑えられていた問題も、記憶に新しいです。
でもこれ、チャンス!
選挙権すらなかった曾祖母たちのように「あきらめざるを得なかった昔の女性たち」を思い起こすと、99転びどころか、1000回も転べる機会を与えられている私は、メチャ幸せ!
鼻歌を歌っていたら、
息子に「撮影が忙しすぎて、撮影日の夜は、買ったお弁当になったじゃん!」と、ドアをバチーン!と閉められました。
え....ごめんなさい..
うまくバランスをとりながら、1ミリでも前に進められたら、と思います。
今回、脚本監修の小林先生が、丁寧に脚本を読みこんでくださいました。先生のご提案のなんと的確なこと。
また未経験の私に、小島カメラマンが一緒に細部まで考えてくださいましたが、撮影してくださったラストの映像は特に宝物。
上映後、映画館の支配人さんが涙ぐまれていたこと、など同じ方向を向いた方々と、時を過ごせること自体がとても幸せです。
冒頭に書いた、よく転ぶ件。
それは飛びこんでチャレンジする回数が、多いからでしょうか。
「転ぶのは勲章!誇り!」と自分を暗示しておきます。
江ノ島駅の作品「新月のトンボロ」について。
女性の生き方の断片をちらりと示すことで、観た方の人生に肯定感が芽生えるきっかけとなれたら、との思いで描きました。
江ノ島の東洋的な雰囲気と、湘南の西洋的な雰囲気とのミックス感を背景に、少女のアンニュイ感、思春期のアンビバレンス感などを通して
プロっぽくない、今しか作れないアンバランスな感じがでたら良いなあ、と思いましたが、あまりにも課題ばかり。
今回は青春ものですが、私自身は「寅さん」大好きですし、文学やアート寄りの作品も好きです。後日、自分のnoteにでも。
経歴
絵本をアレンジした独り芝居や素話、人形劇の声優を8年間務めた後、ラブストーリークリエイタースクール(監督養成)終了。
日本放送作家協会脚本スクールなどで学んだのち、放送作家や脚本家のもと、企画出しや脚本作成。今回初監督作品となる。茅ヶ崎在住。
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