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阿川佐和子『グダグダの種』(毎日読書メモ(349))

先日の『バイバイバブリー』に続き、また父の本棚から阿川佐和子『グダグダの種』(だいわ文庫)を拝借してきた。先日も書いたけれど、なんで、肩の凝らないエッセイをさーっと読むだけなのに、各ページにびっしりと傍線が引いてあるのだ。電車の中とかで読んでいて、周囲の人に、そんなにためになることが書いてあるのか、と思われそうで情けないというか恥ずかしいというか。父の着眼点ってなんだろう、と思いながら読む。

単行本が出たのが2007年、文庫本が出たのが2010年。あまり世相を反映させる話題がないので、ある意味普遍的。生活態度のみみっちさを自らネタにして書いているが、育ちのよさ、父阿川弘之を介した交流の豊かさ、つましく暮らすと言いながら、相応の収入に裏打ちされた消費生活のゴージャスさを無邪気に披露している感じ。若い頃、花嫁修業的習い事に身を投じ、お見合いを繰り返し、でも気持ちがそこに付いて行っていなかったんじゃないかな、と、振り返るようなエッセイを読んでいてそう感じる。

結婚披露宴をテーマにしたエッセイで、父との会話が紹介されている。

「(前略)お色直しなんて、あんなバカバカしいことを、どうしてもしなきゃならないってことになったら、嫌がらせに、俺も色直しをしてやろうじゃないか。俺は海軍軍人の制服を着て、軍歌を伴奏に出て行ってやる!」
この突飛な思い付きを父は自分でいたく気に入ったらしい。その後、会う人ごとに吹聴してまわるうち、賛同者が続々現れた。
「じゃ、僕はスペインの闘牛士の格好で、新婦父親のうしろに続いてあげましょう」と言い出したのは遠藤周作氏。「僕は佐和子ちゃんの結婚式に阪神タイガースのユニフォームで出たいです」とおっしゃったのが北杜夫氏。「ふんふん、そりゃ面白そうだ。俺はなんだろうね。着流しでどうかね」というのは吉行淳之介さん。
冗談じゃない。私が主役のはずの披露宴が、これではまるで文士の仮装行列になりかねない。
「やめてくださいよ。どうしてもやるっていうのなら、私はウェディングドレス着たまま受付に立って、来賓の皆様から観覧料、集めますからね」

pp.135-136

書き写しながら号泣しそうになる。このエッセイ発表時には既に遠藤周作と吉行淳之介は鬼籍に入っており、その後阿川佐和子さんが結婚した時点ではもう、父阿川弘之も北杜夫もこの世にはいなかったのだ。

無邪気な育ちのよさを、未婚というディスアドバンテージ(本人の価値観の中で)で引き締めて書いていく、という流儀が、たぶん父には好ましく見えたのだろうな、と思いながら読む。
ちょっとしたせせこましさとか、つましさとか、かと思うとえーいという踏ん切りの良さとか、共感するところも多々あり、読んでいて心地よいところも多いが、でも、マーカーや油性マジックで傍線を引きながら読んでいた父の心境には未だ到達できない。
実家を探せば、結婚後のエッセイとかもあるのかな。また探して読んでみるよ。

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