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阿川佐和子『バイバイバブリー』(毎日読書メモ(341))

久しぶりに父の本棚シリーズ。実家に来て、棚に挿してあった阿川佐和子『バイバイバブリー』(文春文庫)を読んだ。2013年から2016年にかけて雑誌「GOLD」に連載され、2017年に『バブルノタシナミ』というタイトルで単行本になり、2021年4月に改題されて文庫本になった本。
父には、本を読みながらマジックペンで線を引く、という悪癖があった。阿川佐和子の肩の凝らないエッセイを読むのに、何故いちいち、裏までしみるような濃いマジックペンで傍線を引く必要があるのだ? 鬱陶しい傍線を必死で無視しながら読んでいて、ふと気づいたら、途中で線がなくなっていた。父が亡くなったのが昨年の6月だった。もしかして、本を読み切る前に死んじゃったの? 途中でページを置くような本じゃなかったけれど、何冊か並行して読書していて、たまたま読み切らないまま亡くなっちゃったのかな? 最後まで来て文庫版あとがきを読もうとしたら、あとがきにはぎちぎちに線が引いてあった。お父さん、あとがきから読む人だったのね…。

アベノミクスで見せかけの好景気に沸いた時期に創刊されたファッション雑誌に、ちょっとバブルの時代を思い起こさせるようなエッセイ、というコンセプトでエッセイの依頼が来て、いや、わたしは別にバブルの恩恵は受けていないし、と思いながら、昔のことを思い出したり、自分の消費行動を分析したりしているエッセイ。
気難しそうな頑固な小説家を父に持ち、厳格に育てられた両家の子女、大学を出て織物職人を目指して試行錯誤している途中で親の七光り的にテレビのリポーターを頼まれたのをきっかけにマスコミの世界に入り、インタビューしたり講演したりエッセイや小説を書いたりするようになった人だが、確かにタイトルに「バブル」と入っていても、イケイケな要素は殆どない。買った服は気に入ったら何年でも着るし、口紅の色の流行が昔使っていた色に戻ってきたら引き出しにあった古い口紅を引っ張り出す(化粧品会社勤務の友人によると、口紅はどんなに長くても半年程度で使い切るか、使い切らなくても廃棄すべし、とのことだが、わたしも20年選手の口紅とか引き出しにあって、最近流石に処分した。1本1000円くらいの口紅とかまで10本位あって、自分で自分が嫌になった)。
色気のなさを露呈したり、人の言動を見て「勿体ない」と思ってしまう吝嗇ぶりを披露したり、わたしより年上でそれなりに華やかな業界にいる分、お金を使うところには使っているという感じは伺えるが、等身大の感覚で驚いたり喜んだり呆れたり悔しがったりしている感じには親近感が持てる(というかあまりに近すぎる感じがするから、これまで阿川さんの本を読もうと思ったことがなかったんだろうとも思う)。

雑誌「GOLD」は、彼女がエッセイを連載していた時期だけ月刊誌として刊行されていたが、雑誌不況のあおりをうけてか、不定期刊行のMOOKになってしまったらしい。アベノミクスの徒花的な雑誌だったのか。そんな雑誌の中で、淡々と日常を描いていて、バブルでもなんでもなかった阿川さんの生活は、野辺の小さな花のような感じだったのだろうか。

織物作家を目指していた、という経歴について詳しくは知らないのだが、巻末近く、マフラーとかストールとかパシュミナとかについて書いている項で、自分で紡いで染めた糸で織ったホームスパンのマフラーの話が出てきたのが印象的。織物の話を読んでみたいなぁ。

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