上間陽子『海をあげる』『裸足で逃げる』(毎日読書メモ(545))
「Yahoo!ニュース|本屋大賞2021 ノンフィクション本大賞」や、第14回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞を受賞して話題になった、上間陽子『海をあげる』(筑摩書房)を読み、娘との生活の中で発見した物事をきっかけに、それまでに出逢ってきた人々との交流について考察する様子に感銘を受ける。あわせて、彼女にとっての研究対象であると同時に、寄り添うということについて、深く考えさせるきっかけを提示してくれている、沖縄で若年出産した少女たちからの聞き取りをまとめた、2017年刊行の『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』(太田出版)も読む。
そのちょっと前に中村淳彦『東京貧困女子 彼女たちはなぜ躓いたのか』(東洋経済新報社)を読んでいたこともあり、様々なきっかけから「貧困」の世界におちていく女性たちの境遇に戦慄していたのだが、『裸足で逃げる』も、『東京貧困女子』も、多くの場合、機能不全家庭の不幸の連鎖が、彼女たちを極限状況に追い込んでいっていた。
貧困の中にもさらにランクがあり、桐野夏生『燕は戻ってこない』を読んだとき、主人公リキの貧困は、借金を抱えていない分、まだ極限状況ではないのだ(例えばリキの友人テルは、大学時代に限度額まで奨学金を借り、それを両親が生活費として使いきり、テルには返済義務だけが残っていた)、と語られ、「持たない」ということのなかにも、追い詰められ加減が色々あることを知る。色々な負の連鎖から抜け出せない人たちの中には、抜け出すための知識の不足により、その場所から別の場所に行くことが出来ない人も多い。そこに橋をかける活動をしているのが、上間陽子さんだ。
まず東京で未成年少女たちの支援と研究に取り組み、自らの出身地である沖縄で職を得て、その活動の場を沖縄に移した上間さんは、聞き取りの過程で、小さい子どもを育てる多くの若い女性たちに寄り添い、彼女たちのSOSにアンテナを張り、踏み込みすぎず、求められたときに手を差し伸べる活動をしている。頭が下がる。自らの育った土地であるだけに、基地問題、環境問題、家族の在り方についての独自の価値観等、沖縄の特徴についても理解し、少女たちの救済とあわせて、沖縄独自の問題をどう解決していくべきなのかについても考える。
『裸足で逃げる』を読んでいて、「将来」について考えることなく、今自分が大切にしたいことに突き進んだ結果、困った状況に陥っている少女たちが多く、でも、そういう生き方を非難したとて現状の打開にはならないから、彼女たちの状況が改善するために何をしてあげられるか、というか、このままにしていたら更に悪い状況になることを回避するために何ができるかを考える様子が描かれる。
どんなに小さくても、突破口はあるのだ、という、ささやかな救いが、この本を明るく照らしている。
『海をあげる』は、自分自身の過去を振り返り、沖縄に来て生まれた娘を育てる過程で目を開かされたことについて語り、自分自身の家族関係も直視する。そして、これまでに出逢った少女たち少年たちから聞いた物語を考察して語る。出てくる人たちは、上間さん本人(にも、苦悩の時期があった)も含め、とても力強い。生まれつきの強さではなく、後天的に得る強さ。そうした力強さを誰もが備えることによって、置かれた境遇が改善されるであろうことを、願う。過去を忘れるのでも、踏みつけにするのでもない、新たな乗り越え方が、誰にでもある、ということが示唆されている。
一人一人の少女たちの未来に幸いを。そして、沖縄の構造的な問題点が少しでも解決改善に進みますように。
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