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箱根駅伝小説2 額賀澪『タスキメシ 箱根』(小学館)

しばらく前に、自分の読んだ箱根駅伝に関する小説のまとめみたいなことをしたが、その時にまだ読めていなかった額賀澪『タスキメシ 箱根』(小学館)を読んだ。

前作に続けての栄養科学的アプローチから見る箱根駅伝。前作では、故障中に同級生の都から料理の手ほどきを受け、走るためのエネルギーを作る食事を強く意識するようになった眞家早馬が、走ることを諦めないまま栄養科学の道をより強く意識し、箱根駅伝の世界に戻ってきたのがこの『タスキメシ 箱根』だ。舞台は、早馬の通っていた日本農業大学でも、弟春馬の通っていた藤澤大学でもなく、体育学科のある国立大学(モデルもろばれ)の紫峰大学。駅伝部の寮の調理人が怪我して以来、きちんとした食事が出なくなっていた寮に住み込みながら、紫峰大学の大学院で運動栄養学を学ぶことになった早馬。反発する新4年生の仙波千早との絡みを中心に、紫峰大学の1年間が語られる。並行して、前作の登場人物たちがMGCに挑む様子、そして巻末では東京オリンピックのマラソン競技の応援のエピソードが出てきて、2019年11月に刊行されたこの本が、2020年の箱根駅伝とオリンピックを舞台にした小説であることがわかるが、箱根駅伝は普通に開催されたのに、マラソンの舞台は東京でなくなり更に、オリンピック自体が延期(なのだろうか、今の時点ではそれさえわからない)になった、運命の激変を感じずにいられない読書となった。

練習のシーンはいつも息苦しい。自分の限界まで走って、故障するのではないかという恐怖を、読んでいるわたしの方が抱いてしまう。それに対し、料理のシーンはいつも幸せだ。寮生たちが交代で調理当番をしながら、自分たちの身体によく、なおかつ少しでも安価な食事が出来ていく様子が微笑ましく、子どもが高校生だった頃、学校の中で夏合宿をする際に、マネージャーさんが献立を考えた食事を、保護者が作りに行った時のことを思い出したりする(あれが毎日続くのか、と思うとくらくらするが、それを志したのが早馬だ)。

これまで、学連選抜に学生を1名送り出すのがやっとだった紫峰大学の、どうせ無理だし、的な気持ちはどのスイッチを押せば箱根駅伝予選会通過につながるのか、そして、襷はどうやってつながっていくのか。リザルトそのものが小説のテーマではない。人の気持ちはどうやって変わっていくのかが、運動に適した料理の数々と共に描かれ、1年が過ぎる。箱根駅伝には、指導者がいて、選手が10人(控えも入れれば15人か)いるので、どうしても登場人物が多くなり、まとめきれない(というかまとめようとしていない)小説が多くなるが、『タスキメシ 箱根』はいい感じに4年生たちをフォーカスし、他の選手たちも名無しにならないように群像劇を構成できているところに好感が持てた。


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