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つわり、急襲。

つわりの重さは、人によるという。なかには、出産までほとんどつわりがない…なんてケースもあるようだ。そこでいうと僕の妻は、限りなく重い方だった。日によって体調は変わるものの、ソファの上から一歩も動くことができないことも、珍しい話ではなかった。

妊娠が発覚してからというもの、料理をはじめ洗濯や掃除はすべて僕の役割となった。しかも、折しも引っ越したばかり。妻に手伝ってもらえない分、開梱作業も進まない。もともと僕はキレイ好きではないのだけれど、さすがにダンボールや中途半端に開梱された荷物に囲まれて生活をしていると、どうやら人の気持ちは荒んでいくものらしい。この時期、僕は大いに病んだ。

僕を悩ませた原因のひとつは、つわりによる"食の好み"の変化だった。妻はつわりによって「肉(ささみ除く)」「油もの」が基本的に食べられなくなった。魚はまだ大丈夫なものの、刺し身は食べさせてはいけないし、干物などはきちんと調理しないと生臭くていけないらしい。なので、日々献立を考えることが何よりの問題だった。世の主婦が「献立を考えることが大変」とのたまうことに、これほど強く共感したことはない。もともと料理は嫌いではなかったけれど、「困ったら肉野菜炒め」という手を封じられたため、どうにも弱ってしまった。ちなみに、これが当時つくっていた僕の料理。

また、妻はいわゆる食べづわりというやつで、空腹になると吐き気を催してしまう。そのため、妻が仕事に行く際には仕事中にこっそり食べるためのおにぎりや果物を、お弁当にして持っていきたいと要望された。妻が家を出るのは7時15分くらい。それまでには持っていける状態にしなくてはいけないし、妻の朝ごはんも用意する必要がある。そのため、このときは毎日6時起きだった。妻は土日祝にも仕事がある場合が多いので、僕の仕事が休みのときでも、そのサイクルは続いた。

そして皆さま、覚えているだろうか。僕は社畜であり、会社はグレー企業である。扱う仕事が短納期案件ばかりということもあり、常に仕事をしていないと回らないような状態でもあった。

そのため、日々このようなタイムスケジュールで1日が進んだ。

6:00/起床。朝ごはんとお弁当をつくる。
8:00/仕事を始める。
18:30/一旦仕事をやめ、晩ごはんづくり。
21:00/晩ごはんを済ませ。再び仕事へ。
25:00/仕事を終える。
26:00/就寝。

上記の合間でちょいちょい掃除や洗濯をするようなイメージである。このときばかりは、在宅勤務で良かったと心から思った。でなければ確実にスケジュールが崩壊していただろう。

一方、在宅勤務だからこそ、メンタルを病み始めたということもある。なにせ、誰にも相談ができないのだ。まだ安定期にはほど遠かったので仲のいい同僚などにも言えないし、上司に相談して仕事量を調整してもらうわけにもいかない。ましてや、家事すべてと激務を両立する苦労を、誰かに愚痴ることもできなかった。タバコをやめたこともあってイライラしやすくなり、仕事のストレスと重なるときには叫び出したい衝動に駆られた。

そしてリビングを見ると、ソファに寝そべりテレビを見て元気そうに笑う妻がいる。

このときほど、妻を憎らしく感じたことはなかったし、今後もないだろう。


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