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納豆の辛子のはなし

もうこんな時間か。
やけに身体が重くて、時計を見ても動じないくらいには起きる気も失せていた。
このまましばらくは居たかったが、1時間も経たないうちに空腹に耐えかね、ひどく寝癖のついた髪をくくりながら部屋を出る。

布団に未練があるせいで、不本意に顔を洗い、歯を磨いた。

ここでやっと人間としての朝を迎え、欲求を満たしにリビングへ出かける。
我が家の冷蔵庫事情は、ヨーグルトと納豆だけは絶対に切らしてはならないという掟があり、主である母は忠実にそれを守っているが故、わたしのご飯は一定の水準を保てている。
ありがたい。

ヨーグルトを食べてから他のものを食べるようテレビ番組で勧められてから従っていて、その文化は家族にまで浸透しつつある。前菜の様なものだ。ベジファーストの様なものだ。あっという間に平らげた。

続け様に納豆をかき混ぜる。備え付けの醤油、辛子を袋からきっちり絞り出してまたかき混ぜる。亡くなった祖父から混ぜた分だけ美味しくなると教わってから従っている。
わたしの生活は人から与えられた情報の集大成というわけだ。

実は今日は納豆にまつわるはなしをしたい。
わたしの味覚は先日突然変異を遂げ、ずっとその魅力に気づかなかった辛子のはなしだ。

それから1ヶ月も経っていない気がする。いつものように納豆をかき混ぜていると、当たり前のように弾いていた辛子の袋を見てなんとなく入れてみたくなった。
本当になんとなくだった。わたしが辛子を入れるのに特別な理由などはなく、あったのはほんの少しの好奇心くらいだった。

緊張しながらも雑穀米の上にたっぷりとのせて味わうと、もう何百回、何千回と食べているその納豆に今更感動してしまったんだ。
脇役サイズの袋の中でくすんだ黄色のあの辛子は今まさしく主役で、わたしは今まで何を食べていたのかわからなくなりそうだった。

納豆の辛子事変と名付けられる衝撃の出来事だった。

毎日代わり映えのない生活をしているようで、どんな日もかけがえのない1日なのかもしれないと、辛子をきっかけにそんなことまで考えていた。
この1日がなければ、わたしは辛子の魅力に気づかなかったか、もっと遅かったかも知らないし、しかしこうしてわたしの納豆人生はより豊かになったのだから。

わたしはこれから蕎麦屋で薬味を楽んだり、仕事後にビールを飲んだりなんかして、いつの間にか色んな味を占めては本当の美味しさを感じることで大人になっていくのだろうか。

朝から降り続いている雨のせいで空がずっと暗い。
ああ、だから今日が長く感じるのか。

こんな日もあって素敵なのだ。

2020/06/13 雨
昨日は二日酔いという脳みそが溶ける病気になってしまい、投稿ができずにショックだ。
3日ぶりにギターを弾いたらドーパミンが出ていい音が出た。その後にミスチルを聴いたら、この音は凄い音なんだなと、ミスチルをそんな目で聴いたのは初めてのことだった。

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