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インナーカラーのはなし

昔から身に纏うものは冒険しない種類の人だ。つまらないと言われればそれまでだが、わたしは普通を好き好んでいる。
もちろんカラフルな髪の人をみても少しもときめかなかったわたしだが、何を隠そう、今わたしの耳周りのほんの少しの量の髪がピンクの色をしているのだ。
今日は初めてのインナーカラーのはなしをする。

まだ汚れ知らずで伸びたての真っ黒な地毛が河童のお皿みたいで鏡を見ては焦ったかった。明日、美容院の予約がやっとのことで希望の時間で取れ、普通を好んでいるとはいえど、平凡な日常に痺れを切らし、一発かましてやろうと意気込んでいた。本日特売日と2日に1回の高頻度で暖簾を出している薬局で買ったブリーチ剤をいとこの「みっちゃん」にやってと依頼した。

わたしが大学に通い始め、覚えたての酒を飲み、記憶をなくしては脚にアザを作るのに夢中だった頃、血縁関係も含めてどんな友人よりも近いに存在だったみっちゃんは突然アメリカへと引っ越して行った。みっちゃんは日本に置きざりの書類作業を始めとするやるべきことをそのままわたしに丸投げしたが、わたしはそれに取り組むのが心地よかった。こういう類の仕業は今に始まったことでなく、わたしより半年あとになってみっちゃんがこの世に生を受けてからわたしたちはずっとこうなのだ。

学生の長い休みを利用しては何回かアメリカまで会いに行ったが、最後に会いに行った際、家のソファに2人並んで時間を過ごしていると唐突に「カリスマってなんだと思う?わたしはカリスマになりたい」と言い放って、またいつものように内容が飛び飛びの話をしてくるものだから、わたしはいつものように流しながら適当に返事していたんだ。

わたしの中ではみっちゃんは幼い頃から既にカリスマで、もし当時その言葉を知っていたらみっちゃんをカリスマとあだ名に呼んでいたのかもしれない。

わたしの髪にみっちゃんがブリーチ材を塗る。

珍しく何も話さずに真顔のみっちゃんとの時間が止まったような2人きりのその空間で、わたしはみっちゃんのカリスマ発言を思い出していた。「ここは?ここは?ここまでいれる?」とやっと口を開いた彼女の質問全てに適当に返事をするように「うん」としか答えなかった。

翌日美容師さんが仕上がった髪を見せながら「これ家でブリーチしてきてくれたからインナーカラーが入ってお洒落になったね」と言われたので、わたしがカリスマに適当な返事をしたことは正解なのだ。

2020/06/11 雨
スタバのギフト券をもらったので用事を作って行った。700円までのドリンク1杯と交換できたのでなるべく高いものを選ぼうと思ったが、結局飲みたいものを飲まなくてはと普通のラテを頼んで、セコい私は大きいサイズにして欲張った。

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