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三人で撮った写真|SFショートショート

彼、彼の親友、彼女。

彼らは仲良し三人組。
いつも一緒にいた。

いつの日からか、彼は彼女に恋愛感情を抱くようになった。

彼は思い立ったらすぐ行動する男。
彼女に告白をした。

彼女ははじめ、戸惑いを感じながらも彼を受け入れた。

彼の親友は二人を心から祝福する。


二人が付き合い始めてしばらくした後、彼は子どもの頃からの夢であった『宇宙飛行士』になった。

恋人である彼女と彼の親友に支えられながら、必死に技術を学んでいく。


宇宙飛行士の経験を積んで何年かした頃、彼は大きなミッションを任されることとなった。

彼のチーム全員で、ある惑星に遠征した後、探査船で彼一人が長時間の作業をする、というミッションだ。

彼女は不安を感じていた。

そんな彼女の気を知ってか、彼は彼女に言った。

「必ず帰る。
 戻ってきたら結婚しよう。
 それまで俺を待っていてくれないか?」

彼女は頷く。

彼の目からは彼女の不安は払拭されたように見えた。

彼は安心して地球を後にする。


彼のチームが出発してから1ヶ月以上が経過。

予定より大幅に長引いた遠征期間を終え、不穏な空気を纏いながら彼のチームは帰ってきた。

彼の姿が見えない。

彼のチームメイトは彼女に重要な話をしなければならなかった。

ミッション中の事故により彼の行方が分からなくなってしまったという事を。

彼女は話を聞いた瞬間、その場で泣き崩れてしまった。


彼女は彼を待ち続けた。

帰ってきてから始まる結婚生活と、また三人で楽しく過ごせる日を夢見て。

そう思いながら、彼が居なくなる直前に三人で撮った写真を眺める。

彼を待つ間、彼女のそばには彼の親友が寄り添っていてくれた。

彼のチームメイト達も、諦めずに広い宇宙の中を何度も何度も探索してくれた。


ー そして、彼が戻らなくなってからちょうど10年が経過

彼の親友はその日を待っていたかのように彼女に言った。

「ずっと好きだった。」

彼女は驚いた。

そして彼の親友の真面目な表情に気付く。

彼女は真剣に話を聞いた。

「あいつはもう戻らない。
 君が哀しむ姿をもうこれ以上見たくない。
 僕と一緒になってくれないか?」

彼女は彼を裏切る事はできないと断った。

しかし、彼の親友はその後も繰り返しプロポーズをし続けた。

彼女はその強い愛情に心を打たれ、最後は彼の親友を受け入れる事に決めた。


ー 時は、彼が事故に合った直後まで遡る

彼は誰にも見付けられない場所で一命を取り留めていた。

彼の探査船にスペースデブリが衝突した後、その衝撃で遠くまで飛ばされ、重い惑星の重力に掴まってしまっていたのだ。

彼はそこを抜けられないかと、何度もエンジン噴射を試みた。

ある瞬間、奇跡的に惑星の重力を振り切る事ができた。

しかしこの時既に通信機は故障しており、母船も見えなくなってしまっていた。


彼は一旦落ち着き、どうやってこの探査船で帰還できるかを考えた。

ここから地球への距離は約50光年。
宇宙コンパスのおかげで、方向は分かる。

母船には『ワープ航行機能』があり、それを使用すれば数日で帰還可能だが、この探査船にはついていない。
つまり、通常航行で進むしかない。

今の宇宙航行技術では探査船でも光速の99.99%まで速度を出す事ができるが、宇宙航空法によれば光速の50%を越える航行速度は出してはいけない事になっている。

これは、ウラシマ効果による『地球との時間のズレ』を抑えるためだ。

しかし、この探査船での生命維持機能は最大でも1年ほどしか動作しない。

それを光速の50%の速度で丸々100年かけて進んでいたら、命もこの探査船も持たないのは明白だ。

彼はここで『生きて帰る選択』をする事に決めた。

それは、『光速の99.99%の速度で探査船を進める』という選択だ。


彼は長い旅路を終え、ついに生きて地球に帰還する事ができた。

真っ先に彼女の元へ行く。

地球上の時間では、彼が戻らなくなってから50年が経過していた。

しかし、彼の見た目は25歳のまま。

一方、彼女は75歳のおばあちゃん。
彼の親友と結婚し、子どももいる。

もちろん、誰一人として待ちきれなかった彼女を責めようと思う者はいない。

でも、出会った瞬間彼女は

自分だけが老いてしまったこと
約束を守れなかった申し訳なさ
そして
なぜ帰ってきてくれなかったのか
という無念さで、その場で泣き崩れてしまった。

彼女の夫である彼の親友は言った。

「よくも今更、顔を出せたな!」

親友は彼を殴り、彼を地面に倒した。

老体の親友の拳から伝わってきた痛みはそれほど強いものでは無かった。

しかし、彼の心は奥底まで抉られるような虚しさを感じた。


彼に救いはあるのだろうか?

否。

過ぎ去ってしまった時間の溝は決して埋める事はできない。

そのあと彼は黙って立ち去り、誰にも住む場所を伝えず人里離れた家で過ごした。


彼の残りの人生は孤独そのものであった。

それは、50年もの期間、彼が彼女に寄り添ってあげられなかった事に対する罰を自分に科したかのように。


そして最期。

何も無い殺風景な部屋の中、
彼は誰にも看取られず一生を終えた。

後に彼の亡骸が発見された時、彼はまるで生きているかのように眼を開けたままの状態で見付かった。

その表情は悲しみの中にもどこか優しさを感じる。

彼の視線が向けられた先には、若き日の三人で撮った写真だけが置いてあった。



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