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1995年自転車の旅|04|海の道

 1995年(平成7年)秋。一人の青年が東京から鹿児島まで自転車で旅した記憶と記録です。


【前回のあらすじ】
 東京から鹿児島に向かう自転車旅の2日目。
 秋空にそびえる富士山を横目に、御殿場から沼津まで長いダウンヒル。その後、大型トラックが列をなす国道1号を西へ。富士川を渡り、突然の雨に雨宿りし、由比では旧東海道の宿場町に立ち寄ったりしながら、清水港へ。三保半島の先端部に位置するキャンプ場にテントを張る。

 いま振り返ってみて思うのは、旅の最中、ずいぶん先を急ぎすぎたな、ということ。
 この日も、せっかく三保の松原の近くに泊まったのだから、古来名高い浜辺の景色をきちんと目に焼き付けておけばよかった、と。日本平や久能山の東照宮にだって寄り道を。
 ただ、スケジュールに定めはないといっても、まだ始まったばかりの旅。自分が一日でどれくらい走れるのか試してみたい欲と焦りがあった。ペダルを漕げば漕ぐほど、走行距離が伸びて行く面白さがあった。
 もしこれが徒歩の旅なら、全然違うスタイルになっていたと思う。当然といえば当然だけど。自転車は、精神を前へ前へと押し出す器械なのだ。

 朝食後、テントを張らせてくれたキャンプ場の主にお礼の気持ちを伝え、出発。すぐに静岡市に入る(現在は静岡市清水区と駿河区の境界)。

 太平洋を左手に、国道150号をひたすら走り続ける。平坦で真っ直ぐな道が心地よい。

 安倍川を渡ったところで県道に逸れ、しばらく海沿いのクネクネ道を行く。崩落が多発する難所として有名な大崩おおくずれ海岸。

 峠道を下り終えると焼津港。

 再び国道150号に戻り、大井川を越す。
「越すに越されぬ大井川」も、クルマほどではないが、あっという間に。

富士見橋の中程から山側を望む。
写真とGoogleストリートビューを突合することで、当時走ったおおよそのルートが割り出せる。

 さあ、本日いちばんの目標としている御前埼おまえざき灯台へ。
 渚に沿うかたちでサイクリングロードが整備されていて、青空の下、海風を浴びながらの自転車旅に、気分はますます盛り上がる。
 ぼくはこういうとき、誰かに傍にいて欲しいとは思わないタイプ。ひりひりするような一人ぼっちの時間を過ごせる贅沢に、こらえきれない愉悦を覚える。
 寂しさを感じないわけではない。だが、寂しさはときに、心の澱を濾過する働きも果たしてくれる。裏口で自由と繋がっている。

 御前埼灯台では、日本一周を終えて東京に向かうサイクリストと行き会った。何を話したかは、残念ながらメモに残されていない。お互いの目的地を伝えて、反対の方角に走り出したのだろうか。

 磐田市に近づいた辺りでだいぶ疲れを感じた。
 地図で「国民宿舎ふくで荘」の名前を見つけ、遠州灘方面に進路を変える。
 薄暮に包まれた景色のそこかしこにマスクメロンの看板。名産品らしい。周囲に広がる畑地はメロン畑なのか。
「ふくで荘」では、旅に出て初めての風呂をいただく。タイル貼りの広い浴場だったと記憶している。常連客と思われる方々がのんびり湯浴みしていた。
 昭和に隆盛を誇った国民宿舎は、行政改革の波や市場ニーズの変化に伴って閉業が相次ぎ、ここ「ふくで荘」も2006年(平成18年)に営業休止、建物は解体されたとのこと。設置自治体である福田町も、その前年に磐田市と合併している。「メロン風呂」で有名だったそうだが、自分が浸かったお湯にメロンが浮いていたかは…うーん、どうだったっけ?
 さて、今夜も当たり前のように野宿。前の二夜の経験で、それがベストの選択に思えてきた。順応性のよさに自分でも呆れながら、「ふくで荘」からちょっとだけ離れた海浜の松林にテントを張る。
 今日もしっかり走った!

「国民宿舎」といわれても、若い読者の方には「???」かもしれません。高度成長期以降の昭和の時代、国民休暇村・国民宿舎・グリーンピア・かんぽの宿といった、比較的安価に利用できる公的保養施設が全国各地に建設され、日本国民を慰撫しておりました。その後、平成の中ごろまでには多くが民営化されたり、あるいは廃止されたりして、現在に至っています(いまも残っている国民宿舎は、指定管理者制度で運営しているところが多いようです。元から民営の国民宿舎もあるみたい)。昔は「三公社五現業」(←気になる人は調べてみてください)も存在しましたから、かなりたくさんの仕事が国や地方自治体のお金と管轄下で動いていたんですね~。


【旅の3日目】
1995年10月12日(木)
静岡県清水市三保(現在は静岡市清水区)→ 静岡県福田町豊浜(現在は磐田市)
走行距離(当日)104.32km
走行距離(累計)318.50km
出費(当日)1,372円
出費(累計)3,548円


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