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教員対談シリーズ 「評価について考える 2」

「教育について語ろう!」と題して、メルボルン大学大学院で教育評価について学び、現在オーストラリアで働くアセスメントデザイナーの髙木俊輔氏と現役教員の勝田浩次氏が対談。
今回は、専門家である髙木氏に聞く「評価について」全3回のシリーズの第2回目を紹介する。


「学習目標と達成基準」

前回の対談では、「評価」には「診断的評価」「形成的評価」「総括的評価」という 3つの評価があることを紹介した。髙木氏は、それぞれの評価の目的を考えることも大切だが、その評価がどのような授業や学習活動で行われているのか、またそれがどのようなゴール設定をして行われているのか、ということが大切だと話す。

中間テストや期末テストなど、その学期に学んだことを総合的に評価する「総括的評価」では、「自分にどのような力が付いているのか」といったことを細かく測りづらい。テストの数日前から勉強を始め、終わった瞬間に全てを忘れていくという学生も多いのではないだろうか。そのような学生が多いのは何故なのか、またそれに対処するにはどうしたら良いのかを考えるべきではないか、と髙木氏は言う。

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髙木俊輔 先生

髙木氏「例えば学期ごとに『こういうところまで連れて行きたい』 『こんなふうになってほしい』という姿や到達してほしいラインのことを『学習目標』と言います。簡単には達成できないけれど、授業での学びを通して達成してほしいライン、というのが学習目標としては適切だと思います。「教科書の何ページまで終わらせる」というのは学習目標にはなり得ません。

一方で、学習目標が本当に達成できているのかを測るためには、さまざまな基準も必要です。一番上に学習目標があり、その学習目標の達成度を測るための基準を『達成基準』と言います」

勝田氏「これはどういうスパンで見ていくと良いのでしょうか。1年間の終わりに学習目標があるというイメージでしょうか」

髙木氏「学期ごとでも良いと思います。1年間の終わりに学習目標があったら、そこに到達するまでの1学期の学習目標が存在しますよね。1学期はここまでいってほしい、みたいな。同じように2学期も3学期もありますよね。ただ大切なのは、その目標が明示的に示されていることです」


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勝田浩次 先生


目標を明示的に示す

「ここを目指そう」というゴールが見えない状態で走り続けることはとても辛い。これと同様に、実際の現場においても、授業一つ一つを大切にしているものの、それを日々重ねているだけで、どこを目指しているのか、どこに到達しているのかが明確になっていないまま、曖昧な状態で終わっているということはないだろうか。

「例えば、霧がかかった森の中を想像してみてください。歩けと言われて歩きますか?それに対して、山の頂上が見えていて、そこを目指して登ろうと示されたら、目標と自分の距離や、どこを目指していけばいいのかがわかりますよね」と髙木氏は続ける。

目標に適度なチャレンジを含める

髙木氏は、渡豪前の自身の教員時代の経験から、「先生は学習目標を頭の中で設定していても、それを学習者に適切な形で伝えられているかというと、できていない人も多いのではないか、自分自身もやっているつもりだったが、できていなかったのではないか」と話す。
そして、例えば1学期の学習目標が明日達成できてしまったらつまらないので、ちょっと頑張らないと達成できないような、適度なチャレンジを含めておくことがポイントだと言う。

学習目標と評価課題の一致

次に、授業で行っている指導や学習活動など様々な評価課題が、学習目標にマッチしていることが大切だと髙木氏は語る。

髙木氏「例えば、抽象的ですが、国語の古典を読めるようになるという学習目標があったとします。その評価課題が『マラソンを走り切ること』だとしたら、違いますよね。これは極端な例ですが、妥当性が必要なんです」

勝田氏「自分が考えていることをいかに子どもたちに妥当性を持って伝えられるか、というところがポイントになってきそうですね」


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他の文脈での転用や応用

もう一つ大切なこととして、学習目標として身につけてほしいスキルを、他の文脈でも転用したり応用したりできることが一番良いと髙木氏は述べる。

髙木氏「例えば、何か意見を言うときに、データで裏付けながら自分の意見を述べるようになるという学習目標があるとします。これは社会でも、理科でも、情報の授業でもできます。自分の意見に対して、適切なデータを選択して、それを適切な形で示しながら筋を立てて述べるというスキルは、他の文脈でも使えるので、学習目標としての例としては、そのようなイメージです」

勝田氏「なるほど。本当にその子につけさせたい力というか、その教科だけにとどまっているのではなく、本当にその子の成長として、人間として生きていくときに、そういう視点もあると、(学習目標が)もっと豊かな表現になると思います」


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目標から考える学習デザイン:逆向き設計


最後に、話題は授業のデザインに及んだ。例えば、勝田氏が毎日とても忙しく、常に自転車操業で授業を展開しているとする。これは一見、柔軟に対応しているようだが、授業のデザインとして考えたときに、行き先が見えないとも言える。これに対して髙木氏は、「逆向き設計」というワードを挙げ、「まず学習活動ありきで考えるのではなくて、その先にある到達してほしい姿や目標から考える学習デザインというのが逆向き設計です」と説明する。

授業の内容を考えるとき、本来は目指す姿である学習目標があるはずなのだが、まず何をやるのか、という学習活動を考える傾向が強い。髙木氏によると、逆向き設計というのは、学習目標から逆算して考える、という意味の逆向きだと言う。
例えば「こんなふうになってほしい」とか「こんなスキルを身につけてほしい」という、「目指すべき姿=学習目標」を示すとする。すると、その目標がどの程度達成されているのか、ということを測るための基準が必要になる。

髙木氏「先ほどの例で言うと、古典の文章が読めるようになるために、その達成を測るためのエビデンスがマラソンであってはいけないはずなので、本当に学習目標が達成できているのかを測るためのエビデンスが、どんなエビデンスだったら認められるのか?ということをまず考えるわけです。例えば、古典を読めるというのが、どんなスキルの集合体なのかを考える」

勝田氏「ということは、そのエビデンスが得られるような活動をするということですね」

髙木氏「そういうことです。そのエビデンスを収集できていないといけないので、そのために、そのエビデンスが収集できる学習活動を考えます」

何を達成したいのかが不明瞭な状態で学習活動をデザインしても、行き当たりばったりになってしまう。グループワークや探究的な活動など、どのような手法であっても、学習目標から逆算し、それはどのような「容認できるエビデンス=達成基準」のもとに測られるのかを明確にした上で、「そのために何を行うのか=学習活動」を考える。そうでなければ、フィードバックのしようがない、と髙木氏は語る。

勝田氏は次のように言う。「まずは子どもたちに『どんな姿になって欲しいのか』というところからスタートして、その姿に近づいているんだよということを伝える。その姿に近づいているということを測るためには、どのようなエビデンスがあった方がいいのかを考え、そのエビデンスを得られるためにはどのような活動をしたら良いのか、というように逆向き設計で考えていく。すると、学習目標に近づいて行きやすくなったり、実感があったり、子どもたちにとっても良い影響があるのではないでしょうか」

今回紹介した「学習目標と達成基準」の内容を踏まえて、次回はいよいよ、「診断的評価」「形成的評価」「総括的評価」について焦点を当てていく。
評価について考える3 前編はこちら



教育評価研修のご紹介

教育評価について学ぶことができる「評価を使って学びを支援!ゼロから学ぶ評価理論と実践」は、教育評価についての基本的な考え方と、学習者の学びを評価を使って支援するための方法を、講義とワークショップを通じて学ぶことができる研修です。教育評価の専門家である髙木氏が講師を務め、教育評価の理論を分かりやすく、実際の教室での実践に結びつけやすい形で学ぶことができると、多くの現職教員から好評をいただいています。

教育評価研修「評価を使って学びを支援!ゼロから学ぶ評価理論と実践」導入事例をご紹介

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