見出し画像

マダムの夢~佐賀県をフェアトレードタウンに~

半世紀にわたり国際ボランティアを続けるマダム
服づくりに生きる作家さん
自己破産のち南阿蘇に移り再起したそば打ち職人
所属しているNPO法人みなくるSAGAのメンバーも
70代の人が中心になって活動している。

ふだん年齢はあまり気にしないけれど、最近何かと縁があるのは、なぜか「75歳」の人たちで、面白いなあと思う。

わたしが30年後、何かにこれほどの情熱を注いでいられるだろうか…?と想像する指針にもなっている。

中でも、お世話になっているNさんの紹介で印刷物をお手伝いするようになってから「ほっとけない」存在になりつつあるマダム

「佐賀県をフェアトレードタウンにしたい」

という夢をお持ちのようだ。

編集の仕事を進めていくうち、もっとイメージを膨らませる必要があると思い、マダムが理事長を務めるNPO法人「愛未来」が主催するイベントに、ピンポイントで参加するようになった。

SDGsとフェアトレードについての新境地

フェアトレードフィルムフォーラム at アバンセ

まずは2021年12月のフェアトレードフィルムフォーラム。映画「ザ・トゥルー・コスト~ファストファッション 真の代償~」を鑑賞した。リーズナブルに短いサイクルで売買されるファストファッションについて、実際にその服はどんな国でどんな人たちが作っているかを映し出したドキュメンタリー。安い服を作る人たちにはその労働に見合った対価が支払われるはずもなく、劣悪な環境で危険にさらされながら仕事を続けている。フェアトレードブランドのピープルツリー代表がファストファッションのブランド経営陣に問題提起する場面もあった。

宮田慶彦さんのnoteには映画の内容や当日のフォーラムの様子が詳しく書かれている。

鑑賞後は佐賀大学の岩本諭先生のお話。わたしは常々疑問に思っていた「企業がSDGsを推進することの是非」について質問した。ビジネスとしてSDGsを推進することに少し違和感がある。でも、割り切って社会的な問題に取り組んでいる会社も多いのでは、とわたしは仮定する。「やらない偽善よりやる偽善」というような意味で。企業にとってはイメージアップ、ビジネスチャンスも期待できる、そういう動機でも実際に社会のために動くなら(長い目で見てもエシカルかどうか十分に検討した上で)、SDGsを利用してもいいんじゃないかと考える。

岩本教授は、企業の話よりも社会の矛盾についてお話ししてくださった。SDGs以前にフェアトレードの運動がずっと続いてきたにもかかわらず、認知や改善につながらないという現状。企業や個人がいくら頑張っても達成とはならない。国としてシステムを変えるなり、もっと本気で取り組むなりすれば状況は変わるはず。だが、国はそれをしない。そこに問題が潜んでいるのだ、と。わたしは、国が本気でSDGsに取り組んで、世の中の構造を変えていこうとはしない政治的な理由があるのだと理解した。

キャンプ場でスリランカカリー作り

2022年3月、佐賀市富士町の「むおんきゃんぷ」でスリランカカリーを作る会に参加した。青空の下で寒くもなく、みんなで野外で調理。A班とB班に分かれて、手際のいいグループとそうでないグループの差が出たり、初めての人同士でも少し話しているうちに打ち解けたり。スリランカ人女性も参加し、作り方をレクチャーしてくれた。「ちょっとめんどくさい」体験でもやってみるととても楽しい。

「キャンプ場でスリランカカリーを作ろう!」のチラシ
制作:編集工房edico
カリーはチキンカリー(辛め)とかぼちゃのカリー(甘め)、トマトサンバル(サラダ)。
ターメリックご飯を計量カップに入れてひっくり返して盛り付けた。
食事の後はフェアトレードのお話とフェアトレード製品のバザー。
真ん中で割烹着を着ている人がわたしがマダムと密かに呼ぶ竹下敦子さん、
その横(向かって右側)にいらっしゃるのが明石祥子さん。

当日は熊本から明石祥子さんも駆けつけて一緒に参加された。フェアトレードシティくまもと推進委員会の代表理事。熊本市は「フェアトレードタウン」に認定された最初の都市で、明石さんも「愛未来」代表の竹下敦子さんに多くのアドバイスをするほか、愛未来が佐賀県内10市で3ヶ月にわたり開いたイベントにそれぞれ出向き講話して回られた。

わたしの中での「フェアトレード元年」

この楽しい料理会に参加したことで、印刷物の編集の仕方も少し変わってきたように思う。それまでわたしは「フェアトレード」に漠然としたイメージを持っていたが、マダムに依頼された「佐賀県内のフェアトレードマップ」「フェアトレードタウンパンフレット」「フェアトレードハンドブック」を編集する際には、イメージをさらに自分の中に落とし込むことができた。

佐賀フェアトレードマップ 表面。
フェアトレードハンドブック用に書かれた文章を編集しながら、一からレイアウト。
佐賀フェアトレードマップ 裏面。
イラストは松浦市の知人Iさんに初めてお願いした。


そしてもう一つ変化が。マダムがほぼ一人で無謀ながら、夢を描いて行動を起こそうとしている姿に不思議と興味がわいてきた。2013年秋、佐賀市産業支援室の創業支援セミナー(起業を考え始めたきっかけ)に参加した時くらいのワクワクした気持ちが芽生えた。

最初は印刷物の制作だけのはずが、だんだん「ほっとけない」という感じに。お誘いを受け、佐賀県の一ノ瀬裕子議員訪問に同行する。コーディネーターは佐賀県内のSDGsでの連携を推進する地球市民の会大野博之さん。「竹下組に入ったんですね」と言われたけれど、NPOの会員でもないわたしが今は少し余裕があるためお手伝いをしているくらいのスタンスでいた。

その数日後、佐賀市の産業支援室(!)で中小企業診断士の先生への相談にも同行。土屋先生・伊豆先生とこの活動を事業化するための方法を探りながら、面白みを感じてしまい、また参加することになった。

佐賀市産業支援室では、フェアトレードタウンを目指すことになった経緯を整理し
必要事項や問題点をまとめてくださった。
マダムの50年前のインド旅行、そこから国際ボランティア活動を続け、今に至る。

先日はお昼も摂らず4時間ほど国際交流プラザで今後の計画を話し合った。電話で話すことも多くなった。「佐賀をフェアトレードタウンへ」プロジェクトのお手伝いの幅がじわじわと広がっている。
2022年はわたしの中でフェアトレード元年のような気持ちでいる。

SDGsをテーマにした仕事との関連性

そもそも、わたしがフェアトレードに関心を持つようになったのは、過去に、SDGsをテーマにした仕事をいくつか経験してきたことがきっかけだと思う。
始まりは2018年。市民向けのSDGs関連の講座のチラシを依頼いただいた。

「2030SDGsって、なんだろう?」の講座のチラシを作った2018年当時は
まったく知識がなく、本当に「なんだろう」という感じだった。

2019年から2020年にかけて、わたしは地球市民の会が発行する『SDGsアクションブックさが』の編集に携わり、さらに2021年にも同法人が立ち上げに関わる佐賀SDGs官民連携円卓フォーラムのサイト制作のお手伝いをするなど、SDGsについての接点が増えた。

『SDGsアクションブックさが』(地球市民の会発行)では
SDGsの各ゴールに結びつけて、県内事業者のさまざまな事例を取材。
龍谷中学校・高校の生徒たちと一緒に佐賀県知事にインタビューもした。


ふと、思い出した。2014年秋、編集工房edicoとして、佐賀大学のフェアトレード団体Sharearthの広報物制作にも関わったことを。A4の紙1枚でつくる切り込みを入れて本のように折って製作するミニパンフレットだった。

彼らの活動は代々受け継がれ、今でも続いていることがすばらしいと思う。
このように「SDGs」というワードが出てくる以前から、社会への問題意識を持って活動している団体や企業は多い。

SDGsからフェアトレードへ

2021年7月、生クリームについて書いたように、「食べ物はどこから来ているか?」について、わたしはもともと関心があった。体に入れるもの、身に着けるもの、使うものなど、なるべく純粋なものがいい。

それに加え、できる限り環境に負担がかからない、見えないだれかが苦しんでいないものを、と思うと、自然と「遠い国から運ばれてくるアボカド」は大好きだったけど、少しにしようという発想になる。
「一人ひとり通販でモノを買うのって便利だけど、環境や人にかかる負荷を考えるなら、Amazonで買うより街の書店だな」「100円のものをたくさん買うより、適正な金額で必要なものを少量ずつ買うようにしよう」とか。

「1.貧困をなくそう」「10.人や国の不平等をなくそう」
。国際交流や支援に関わる人は、これらのゴールをめざすと思う。わたしは「16.平和と公正をすべての人に」を推したい。SDGsに関わるようになってからなんとなく注目していた。改めて今、この目標が、SDGsのあらゆるゴール達成に連動していると思える。戦争で人の命が脅かされることがあってはならない。同じように、先進国との不公平な取引で労働者が苦しんでいるなら、その人たちの命が消費されているも同然。この辺りをもっと意識して追究していきたい。

自分なりの経験や問題意識をもった上で聞いた2021年末の岩本教授のお話は、これまで関わってきたSDGsの話とは別のところに視点をおいたもので、非常に興味深かった。「佐賀県がフェアトレードタウンになるのは難しいのでは」とおっしゃっていたのを覚えている。その時は、自分がこの活動にタッチするとは想像もしなかった。

フェアトレードタウンになるメリットとデメリット

佐賀県がフェアトレードタウンになる道のりは遠い。6つの基準をクリアしなければならず、特に地元議会による決議と首長による意思表明、市民への浸透など高いハードルが待ち受けている。

仮にフェアトレードタウンになった場合のメリットとしては、フェアトレード商品が入手しやすくなる国際的な問題に取り組む意識が高まる県として認知度・イメージアップが期待できるなどがあると思う。
でも本質的な目標としてフェアトレード活動を通して貧困問題を改善することが何より一番。そして単に国際的な取引に限らず、規模の大きさにかかわらず、地元の農家も、小売業も、製造業も、経済が健全であるか、地域の消費を見直すきっかけになればいい。

フェアトレードタウンになった場合のデメリットが今のところ思い浮かばない。下請けの企業に負担をかけすぎている大企業などにとっては、こういう取り組みは厄介かもしれないけれど。

マダムは「フェアトレードは実際に公正な貿易をするという意味ではあるが、今は広い意味で捉えられている」とおっしゃる。フェアトレード製品を買ったり、フェアトレードについて知識を深めたりすることもフェアトレードなのだ、と。「フェアトレード製品を選ぶことは私たちにできる国際貢献」これが合言葉になって印刷物でも使われている。

問題はいろいろとあるけれど、マダムの「佐賀県をフェアトレードタウンにしたい」という無垢で素朴な願望に、なんとなく楽しそうな夢だなあ、と感じて片足を突っ込んでいるわたし。「楽しそう」は、どこから来るんだろう?まず、「フェアトレードタウン」という「まちづくり」にワクワクする。その過程で「民間のレベルから社会の仕組みをちょっとずつ変えていくことができるかもしれない」という期待感もある。
一部の人が不利益を受けることなく、誰もが生きていきやすい世の中になれば、
というわたしの夢とフェアトレード活動が重なる。

今後の活動

人とのコミュニケーションがあまり得意でなく、マイペースに個人プレイを常とするわたしが、「いま応援しようとしている取り組みがある、何か一緒にできないか?」と少しずつ周りの人に話をしている。
自分にできることの一つが書くこと。まずは「フェアトレード」および「フェアトレードタウン」についての情報を発信して、意見交換していくことを考えている。
マダムは前年度のイベントで思うように活動ができず、フェアトレードのチョコレートの在庫を300枚ほど抱えてしまわれた。こちらもなんとか力になれれば、と「edicoよみかき室」でもチョコレートを販売し始めたところ。支援してもいいとおっしゃる方にはマダムとともにお話をしに伺いたい。そしてこの取り組み自体に対する意見も広く求めていきたい。

edicoよみかき室 フェアトレードチョコレート販売中
people tree大810円、小380円、第3世界ショップ460円(税込 ※当店の価格)
その他販売可能な場所をあたったり、イベントを企画しようとしている。
TEL 070-5419-8683

参考:NPO法人愛未来のウェブサイト


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?