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架空紀行

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旅についてのあることないことを、思い出したり思いついたりする限りに書いていく、まことしやかな旅の思い出です。
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2020年6月の記事一覧

第5話 羊の街

第5話 羊の街

 犬は人間の友だちだっていうけれど、あの街では羊が親友だった。私がホームステイでお世話になったお宅で飼われてたのも、もちろん羊だった。空港の到着ロビーまで迎えに来てくれた、まだ名前の発音も覚束ないようなホストマザーの後ろをさ、ベージュの巻き毛のなかに真っ黒い顔が突き出した羊が、とことこ追いかけて来ててね。そりゃ予備知識としては知っていたことだけど、でも異様だなって思っちゃったよね。そのあたりで見か

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第4話 靴の街

第4話 靴の街

 形見分けでね、祖母の靴をもらったのよ。若い時に履いてた靴だっていうお話だったんだけど、それにしてはキレイなままで、試しに足を入れてみると、息を呑んじゃうくらい柔らかくて軽くてさ。自然と足が遠くに出ちゃうくらい歩きやすいの。ものすごく淡い水色の素材でできてるんだけど、その正体が分からなくってね。いいものだって聞いていたし、さすがの高級感もあったから、なんとかして手入れの方法を探さなきゃって、焦りみ

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第3話 星の街

第3話 星の街

 めっちゃキレイだった。帰ってきたばっかりだけど、今からまた行きたい。お金ができたらすぐ行くわ。あ、でも死ぬほど寒いから、やっぱり真夏がいい。寒いのは変わらないんだけど、せめてお日さまはあった方が気分が明るくなるしね。なんだかんだで環境が過酷だしさ、元気なうちじゃないとツラいから、行けるときに行ったほうがいいよ、ほんと。なんなら来年あたり一緒に行こうか。標高が高いからさ、空気は薄いし、食べ物も水も

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第2話 古い街

第2話 古い街

 友だちが夫婦が新婚旅行でイギリスに行ったんだけどさ、旅先で喧嘩したらしいの。ありがちだよね。旦那さん、拗ねちゃって。ホテルから出たくないって、いい歳こいてダダを捏ねるもんだから、友だちは面倒くさくなっちゃって、じゃあ一人で遊んでくるからって港に行ったんだって。そしたら、ちょうどアヴァロン行の船が出るところだっていうから、これが乗りかかった船かなんて思って、飛び乗ったんだって。
 肝心のアヴァロン

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第1話 傾いた街

第1話 傾いた街

 少し前の出張先、観光資源なんてなんにもない、ほんの小さな街だったんだけど、一つだけおもしろいのが地形だった。街がまるごと傾いてるの。山の中にある街ってさ、山肌を削って段々畑みたいにして、平らな土地を作って、そこに建物を造って広がっていくものじゃないですか。この街はそんなのナシで、傾いた土地に傾いた家を建てるの。二階なんて作っちゃったら、地震とかがあったときに危ないし、だからほとんど平屋建て。私み

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