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読書記録:経験済みなキミと、 経験ゼロなオレが、 お付き合いする話。その6 (ファンタジア文庫) 著 長岡マキ子

【大人になった僕達は、夢を抱えて自分の道を往く】


【あらすじ】

月愛と共に身も心も結ばれて、幸せな未来へと歩み始める覚悟を決める龍斗。
卒業式のあとで、二人で制服のリボンとネクタイを交換し合った。
その二人の月日がいきなり三年過ぎ去った現在。

名門私立大学の大学生になった龍斗。
アパレル業界に就職して、社会人として働き始めた月愛。
彼女に送ったメッセージはいまだに既読にならない。
アクセスが途絶えて、少しナーバスにもなるが。
きっと、月愛も忙しいのだと自分に言い聞かせる。

仲間達もそれぞれが、それぞれの夢や事情を伴いながら。
年齢を重ねて、大人になれたり、子供の部分がまだ残っていたりする。

高校生活という若さの節目を終えて、 龍斗達は大人として社会に羽ばたいていく。

あらすじ要約
作中の仲間達と眺める花火のシーン

時は三年後になり、大学生になった龍斗、アパレル社員として働く月愛。海愛、笑流、祐輔、蓮、朱璃、柊吾。各々が別の進路を歩みながら、再び相まみえる物語。


学生の頃の甘美な思い出を、心のよすがとしながらも、大人になった龍斗達は日々のこなすべきタスクに忙殺されていた。
つい先日までは学生らしい青春を謳歌していたのに。
高校を卒業すれば、一気に大人の仲間入り。
それぞれが掲げた理想と現実のギャップ。
綺麗事では無い社会の洗礼。
若さ故のドリーミングな大志を抱いていた龍斗は、その青臭さを、暗い眼をした大人達に見破られて、とことん打ちのめされる。
陽気で楽しかった月愛とかけがえのない、ノスタルジーな日々は、大人の仲間入りをする事で。
過去の遺物となり、忙しさにかまけて。
高校生の頃のように簡単に会う事さえ出来なくなった。
疎遠になり、すれ違っていく月愛と龍斗。
高校生の頃に体感する事のなかった、世間の厳しい荒波を身を持って実感していく。

月愛や朱璃や笑流も、カースト上位で周囲から持て囃されていた、己の立ち位置も。
現実社会の「手に職」がついた渡世はそんなに甘くないものである事を、まざまざと思い知らされていた。
高校生活三年間のスクールカーストよりも、その先の就職なり進学で生じる格差の方が、自分達の人生にとってリアルなんだと気が付かされる。

大学生活での課題や個別指導塾での勉学に追われる龍斗。
高校時代に仲が良かったいつものメンバーもそれぞれの道を歩み始めた事でバラバラになってしまった。
しかし、海愛と偶然の再会を果たす龍斗。
このままつまらない大人になりたくないと、海愛に紹介してもらって、編集部のアルバイトを始める事になる。
紆余曲折を経て、朱璃と付き合う事になった祐輔。
蓮は北海道の医大に合格した柊吾と破局した笑流と付き合い始めた。
永らく、光の当たらない陰の生活を甘んじていた二人にもようやく春が訪れていた。

ただ、進学や就職などで離れ離れの遠距離恋愛をする事は、男女交際に於いて大きなネックである事は変わりない。
大切なその人の人生を歩む道に、自身の道が重なっていない事の不安や葛藤も当然あった。
このまま、離れ離れのまま自然消滅してしまうのではないかと、心の中に危惧を抱えていた。

どんなに仲が良くても、進路が違えば、必然的に会う回数が減って、縁が切れてしまうケースも実際に目の当たりにしてきた。
大切に想っているだけでは、上手くいかないのが恋愛であるから、その難しさに時として辟易してしまう。

一方で月愛は、異母妹の世話をするというヤングケアラーもどきな家庭事情を抱えていたし、仕事での福岡行きの栄転話を持ちかけられていた。
そんな気苦労が絶えないが、いち早く社会に出て活躍の場を広げている月愛に対して。

高校生の頃から、他人の行動を触媒にして、自らの動きを決めていく、受動的な生き方しか出来ない自分に対して、劣等感を持つ龍斗。
大学生と社会人であるからこそ、お互いのリズムを合わせる事がより難しくなっていた。
どんなに理解し合った気になって、近しい間柄であったとしても。

他人が、100%自分の思い通りになる事なんてあり得ない。
だから、もしも他人に自分が言われたい言葉があるならば、それを相手に贈ってあげる。
相手を信じてあげる事しか出来ない。
愛情をただただ、自分から与え続ける事しか出来ない。

不器用でも、そんな風にするしかないのである。
互いに互いを想い合って、信じていれば、きっとどこかのタイミングで道が交わる筈だと信じる。
こんなにも、現実に打ちのめされながらも、自らの夢を頑張って、邁進しているのだ。
そんな自分達が幸せに報われなければ、嘘である。

子供から大人に成長して、いつまでも夢ばかり見てはいられない事を痛感した。
大人になる時間は待ってはくれない。
自らの意志で、これから先の将来で自分がどうしたいのか考える必要がある。
理想と現実の折り合いをつけて、今その時の自分にとってのベストな選択を手探りで探すしかない。

人生は常に選択の連続であるから。
自らのifを想像したり、過去を振り返ってばかりでは、次の選択肢を見逃してしまう。
もうあの頃には戻れないから。
昔を懐かしんでばかりではいられない。
今よりもより良い道を歩みたいのなら、前を見据えるしかない。

正解は今はまだ分からない。
ただ、せめて出来るだけ後悔のない選択が出来るように。
人生の岐路に立たされながら、それだけを願う。
大人になる為には必要な別れもあって、惜しむ気持ちがあっても歩みを止めてはならない。

バリバリと頭角を現した月愛が、その実力が認められて、福岡へと転勤を持ちかけられたとしても。
そんな彼女の活躍は、彼氏として本来は祝福してあげるべきである。
龍斗はようやくその境地に辿り着いて、どんな月愛でも、それこそ何処にいようと愛し続ける事を誓う。
その誓いを果たす為に、月愛にプロポーズする龍斗。

その想いとは裏腹に、月愛は新しく出来た妹の世話や、現実を知って、新たに生まれた本当の夢を語る。
その夢は離れ離れになるはずだった二人の恋を再び、繋げていく。
そうやって、二人は自分達の問題に一区切りをつけて、かつての仲間達と共に空に打ち上げる花火を眺める。

ただ、三年という月日が経っても、まだ最後の一線を踏み越えられない龍斗と月愛。
大人へと変わりゆく中で、相思相愛の彼らにまだ足りないものとは一体何なのか。

大人になっても、もどかしい恋愛を繰り広げる二人は、最終的にどんなゴールを見据えようとするのだろうか?










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