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読書記録:ステラ・ステップ (MF文庫J) 著 林星悟

【朽ちかけた砂の世界で、愛と希望の歌が慈雨のように降り注ぐ】


【あらすじ】

少女たちが強いられたのは〈道具〉として、――ただ歌う事。

突如飛来した隕石により地上は荒廃する。
新しい国家を建てても、人々は闘争や略奪を繰り返していた。
そこで、戦争の新たな手段として「暴力」と置き換えられたのが、少女たち「アイドル」だ。

砂漠で覆われた「砂の国」に、国民からは崇められ、少女たちからは恐れられているアイドルがいた。

技術を高める事だけに関心を持ち、感情が希薄な少女・レイン。

最強を誇る彼女の無敗記録はずっと続く予定だった。

だが、感情豊かに歌う少女・ハナによって、その記録は止められる。

このハナとの出会いは、レインの胸に今まで、知らなかった感情を芽生えさせる――。

あらすじ要約

飛来した隕石により、荒廃した世界で戦争の手段として利用されるアイドルが、世界に彩りを与える物語。


アイドルとは、理想的な偶像であり、人々の心をいつでも照らし出す星でなくてはならない。
しかし、汚い大人達によってその神聖さは野蛮な戦争の道具として利用され、いつしか歌う事も踊る事も感情を摩耗させた。
無敗記録を続けるアイドルとして国民からは崇められながらも、プロデューサーから活動停止を宣告された理由をずっと考えていたレイン。
感情を失った無敗記録のレインと対象的に、感情のままに歌うハナとが出逢い、非情な現実に慈雨が降り注ぎ、心に潤いを与える。

隕石の落下により荒廃した世界。
その隕石の断片から、「人の感情に反応してエネルギーを発する」という未確認物質が発見され、〝共心石(シンパシウム)”と名付けられる。
偶然、見つかった感情の揺さぶりによって大きな力を発揮する『共心石』によって世界は復興を果たそうとしていた。
その中で、人々により強い心の動きをもたらすアイドルの存在が世界を救ったが、それは国同士でのアイドルを使った戦争の始まりの火種となる。

滅びかけた世界の中で、人々に元気と希望をもたらす為に歌った「アイドル」の影響力に国が目をつけた。
共心石で作られた人形が観客となる舞台で、覇権を争うアイドル達は、力なき者は淘汰されて、コードネームでしか呼ばれない道具として、使い潰されていた。

道具として扱われて、人間ではない存在かのように仕立てあげられている姿は、現実世界での過度に神聖視されて、きらびやかなアイドルとも重ねって見える。
しかし、どれだけ浮世離れして華やかに見えようが、アイドルである以前に、同じ人間であるからこそ。
当然、人としての喜怒哀楽といった、当たり前の感情を併せ持つ。

感情をすり減らしたレインは、思うがままに行動するハナとの出逢いによって、失った感情を思い出す。
自分には無い物を確かに彼女は持っていた。
それは今まで彼女が失ってきた物で。
勝ちたい、知りたい、人として当たり前の感情を思い出していく。

そんな彼女達の足掻きを嘲笑うような、資源の争奪の為に、アイドルがただ歌い踊って、勝つ事だけを求められた世界。 
ステージの盛り上がりで勝敗が決まって、勝者の所属国が資源や土地を相手国から奪う事が出来るといい仕組み。
戦部隊では血が流れない。
アイドルが歌って踊るだけで誰も死なない。
それでもアイドルとは、消耗品の世界で。
そんな非情な現実の中で、完璧なアイドルのレインと、誰かの為を想って、歌い踊るアイドルを目指すハナが出会った。

そこから、秘密の花園でハナの姉である一花と、母親である椿との出会いで、芽生えていた不穏の予感は、一気に芽吹き始める。
彼女が罹患した、アイドルに罹りやすい病、「星眩み」。
その病に隠された真実と繋がるのは、観客を務める共心石の人形との因果関係。
ハナの感情に感化されたレインは心を取り戻していくが。
そのハナの正体は病で心を失った一花を取り戻す為の人造人間であった。
彼女の明るい振る舞いは全て、外部の人間により調整されて作られた物だった。
皮肉にも、レインに感情を取り戻させて、人形のアイドルから人間へと戻したハナの真の正体は、共心石で動く人形であった。

皆の為に必死で歌って、踊るアイドルに待ち受けていたのは、あまりにも残酷で救いようのない現実。
かつて、皆から憧れて、夢と笑顔を届けてきたアイドルは。
今はメッセージを伝える事もなく、共心石に勝敗を決められて、燃料として投下される。
国家戦略の為に利用されたアイドルを更に貶めるかのような、ずる賢い大人達の思惑や陰謀が絡まり合う。

それでも、人間らしさとは、痛みに対してちゃんと悲しめる事。
受けた優しさに対して、ちゃんと喜べる事。
世界はかくも少女達に冷たく、真実は残酷に牙を剥くが。
そんな歪な世界を変える為には、誰かの夢を叶えてあげる事で。

幾度となく、心はかき乱され続けてきた。
それでも、知ってしまった彼女の輝きを手放す事はもう出来ない。
自国の意に反してユニットを組んで、たとえ国を裏切る形になったとしても。
ライバルである「鉄の国」のアイドル、フレアとのバトルの中で。
今まで溜めてきた鬱憤を晴らすかのように、世界に対して反旗を翻していく。

絶望したあやつり人形は、人間に戻る事が叶うのか?
本来在るべきはずのアイドルの理想を取り戻す事が出来るのか? 
暗闇の中で仄かに光る、夢の残骸といえる物を目指して。
愛と希望の歌を、朽ちかけた世界に振りまいて。
ハナとレインは果たして、周囲を照らし出す星の歩みとなれるのか?

残酷な世界でもいつか希望を灯せると信じて、少女達は足搔くのだ。


ステラ·ステップ





















































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