読書記録:六人の赤ずきんは今夜食べられる(ガガガ文庫) 著 氷桃 甘雪
【今宵は赤き月の元で、生き残る為の権謀術数を張り巡らせよ】
少女達の中から裏切り者を特定する物語。
人狼。
それは、裏切り者を糾弾する究極の心理戦。
童話のような世界観の中で、多種多様な秘薬を作り出す事に長けた個性的な赤ずきん達。
過去、騎兵隊だった頃に犯した罪の贖罪を求めて、旅する猟師がようやく見つけた逗留すべき場所。
村長からの奇妙な警告を無視して、迫り来る狼から、彼女達の命を守り抜く決意を固める猟師。
森の外れの塔に逃げ込んだ彼らを襲う、戦慄の事実の数々。
狼だけを警戒していた最中で、赤ずきんの中にも裏切り者がいる事が発覚して。
外と中、両方に敵がいる状況で、どうやって彼女達を護るか、どうやって彼女達の中から、裏切り者を炙り出すのかを猟師は散々と葛藤して、苦悩する。
裏切り者は我々の中にいて、詐術と欺瞞を以てして。
壮絶な騙し合いが始まる。
息の詰まる攻防の果ての先で。
赤い月の夜が明けるまで、猟師はグロテクスな獣から大切な少女達を守り抜けるのか?
そして、赤ずきん達は理不尽に生贄にされる運命の輪から抜け出す事が出来るのか?
狼と猟師の壮絶な騙し合いと駆け引きを繰り広げる。
『赤ずきんの秘薬』という不思議な効果を持つアイテムの助けを借りて。
「場」と「知恵」と「あり合わせの物」を駆使して、その場を何とか切り抜けようと画策する。
赤い月、狼、ジェヴォーダンの獣、六人の赤ずきん、魔女と召使いといったメルヘン要素に、狼の皮を被った魔女を暴くミステリー要素が追加されて、独特のダークファンタジーを醸し出す。
『秘薬』を用いて、不思議な力を発揮できる赤ずきん達の特殊能力。
六人の赤ずきん達は外見も年齢も少しずつ違って、またそれぞれが異なる能力の秘薬を造る事が出来る。
その力で日々の生計を立て、それが村を潤す事から重宝されていた。
でありながらも、「獣」に対して大半の仕掛けた罠などの攻防手段が通用しなかった事から。
村人達からは半ば、見殺しにされている非情な現状。
彼女達の能力は、物の匂いを消す能力であったり、一時間だけ別の生物に変身させる能力であったり、物を透けさせる能力である。
そんな人知を越えた能力を以てしても。
怒れる牛よりも大きく、子を抱えた熊よりも凶暴で、人間よりも賢い狼に、容赦なく蹂躙される。
足音を消して、堀を水で埋めて、船すら使う狼の卓越した身体能力と狡獪な知性によって、辱めを受ける。
何故、狼は赤ずきんを狙うのか?
そして、赤ずきんに紛れた魔女の真の目的とは?
その謎の鍵を紐解く、召使いの手記に隠された真相。
それは、人身御供の乙女を救って娶る神話的伝承。
そんな歪な真実を発覚した後に、黒幕の魔女から提示されたある条件。
それは万華鏡のように、見る角度によって、いくらでもその様相を変えてしまう不確かな物で。
殺戮に囚われた裏で、秘薬の魅力に支配されてしまった魔女の哀しき恋物語が明かされる。
憎悪と執念に彩られたその物語を猟師は否定し、拒絶する。
自分の根幹にある義憤に基づく違和感は到底、彼女の在り方を受け入れる事は出来ない。
陰惨にして悪辣、得体の知れない狡猾な獣の悪巧みに晒された緊張感と裏切者が自分達の中に潜むスリルを乗り越えて。
張り巡らされた謎と血が飛び散る未来の先は、果たして彼にとって平穏なのか、絶望なのか?
不信を塗り固めた疑心暗鬼に陥るような真実を知った先で。
猟師はその結末に相応しい最善の選択をするのだ。
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