読書記録:友達の後ろで君とこっそり手を繋ぐ。誰にも言えない恋をする。3 (電撃文庫) 著 真代屋 秀晃
【誰もが無傷で大人にはなれない、傷付きながら導き出す答え】
親友達との友情を壊さない為に、恋愛関係を秘密にする純也と夜瑠。恋心を抱く新太郎。したたかな計画を企む火乃子。人知れず孤独になる青嵐。恋愛と友情に揺れる青春の物語。
恋は人を盲目にさせて、心に忍び込む毒である。
その毒に冒されながらも、子供だからこそ、あれもこれもと手を伸ばさずにはいられない。
自分の望みに忠実であり、素直でもあり、愚かでも欲しがってしまう。
諦念を抱いて、物事をやり過ごす大人のように、彼らはくたびれていないし。
黒い野望だとしても、それは彼らにとっては希望の選択肢なのである。
しかし、ゆめゆめ忘れてはいけない。
自分達のしている事が、普通の恋から外れた不純愛であるという事を。
いつか、支払う代償にビクビクと息を潜ませながらも、表では仲の良いグループを演じていく。
五人で居れば、何でも楽しくて最強だと思えた純也達。
変わらない友情を誓いながらも、胸の奥では濁った感情が渦巻く。
歪んだ形で大人になる己を見過ごせず、純粋な想いも秘めていて。
子供から大人へと転換する中で、誰かを信じて、誰かを裏切る。
抗えない思春期という名の濁流に呑まれながらも。
秋が過ぎて、季節は冬へと、恋人同士としての季節が巡って来ようとする中で。
夜瑠に恋心を抱く新太郎と彼女をくっつけようという計画が持ち上がり、純也はそれに曖昧な返事をする事しか出来ない。
「人間、理想だけを求めすぎると、必ず危うい方向に向かうんだ。それだけは覚えておけ」
その心を父親からの辛辣な言葉が突き刺していく。だけど、夜瑠との関係を手放せないと、必死に隠し通そうとする純也。
本当の自分を受け入れてくれた夜瑠の手だけは、離せない。
仲間にはいずれ話すつもりでいる。
自分達ならきっと大丈夫だと、自分の心に言い訳をして、どこか妄信にすがりながら、仲間達に対して、真実を隠し通す。
しかし、その不審な姿は、仲間達の目から見ても違和感があった。
その違和感がグループ全体に、徐々に広がっていく。
各々が、自分で選んだ行動を見せていく。
何となく気が付いていた火乃子は、新太郎の恋を利用するしたたかさを見せた。
純也に対して、さりげなさを装って、距離を詰める。
自分が愚者として踊らされている事も気付かず、新太郎は叶わない恋を求めた。
一つの恋を成就させる為に、別の愛を利用する自分本意なずる賢さを見せる仲間達。
着実に深まっていく仲間達の不穏に、青嵐もまた何かを感づいていく。
一度歪んでしまったのなら、崩壊への歩みは止まらない。
積み重ねた不穏から、察した予感の先で。
最悪な形で、とうとう決定的な証拠と共に、純也と夜瑠の関係は皆に露呈する。
恋の毒は全てを蝕み、偽りだったが温かな関係性だった彼らの心を、誰も寄り付かない廃墟へと変えていく。
いくら、友人を大切に思っていても、やっている事は最低最悪であり、裏切っている罪悪感は、純也にもあった。
しかし、肝心な事を言い出せないまま、仲間達は別々の恋の矢印を指し示して、互いに愛憎をぶつけ合う。
彼らはその若さにして、様々な感情を味わっている。
秘密の恋人関係、裏切りの恋慕、歪んだ愛情、無自覚の想い。
歪さは、ついに仲間達の関係に決定的な亀裂をもたらす。
クリスマスイブに、今の仲間達の関係を完全に壊す計画を立てる夜瑠と純也。
純也と夜瑠が秘密の関係を隠していた事を知ってから。
目をそらしたり先送りしていた、仲良し五人組が抱えていた闇と歪みが一気に浮き彫りとなる。
今まで大切にしてきた物が、あまりにもあっけなく砕け散る。
仲間達にあった確かな信頼という絆は音を立てて、崩れ去る。
もう、以前のように、何気ない会話をして、気軽に笑い合える間柄ではなくなってしまった。
火乃子の恋心を知りながら、夜瑠と関係を深めていく純也。
新太郎と火乃子も、彼らにバレない形で付き合
い始めた。
その曲がっていく関係を、遠くの方から俯瞰する青嵐。
本来、恋をする事はもっと楽しくて、気持ちが良くてシンプルで良いはずなのに。
まっすぐに相手を、思えば思うほどに、ややこしくて面倒臭くて、一緒にいると疲れ果ててしまう関係になってしまう。
そもそも、友情と愛情、どちらかを何故、選ばなきゃならないのか?
どちらかを切り捨てるのではなく、両方を掴みに行きたい。
それが、この歪で不貞な関係に終止符を打つ為の答え。
いつまでも、この五人のままで、馬鹿げた事をして笑い合いたいから。
不純愛の先には破滅的な未来しか待っていないから。
誰かが誰かを好きになって、それが猛毒のようにグループ全体を蝕んだとしても。
皆の事はけして嫌いにならない自分でいたいと純也は打ち明けた。
その告白を聞いて、静かに肩を震わせる者、動揺して泣き崩れる者、自分勝手だと胸ぐらを掴んで激怒する者、心中でその選択を祝福する者など。
仲間達は様々な反応を純也に見せた。
美しい気持ちも、醜い気持ちも余すことなく、ぶつけ合った五人。
若いうちの人生には、自分で決められる選択肢などほとんどないに等しい。
だけど、そんな儚い青春を送る者だけが、僅かな甘い理想を夢を見てもいいはず。
悩みながらも、答えに辿り着けたのなら、それがきっと彼らにとっての正解なのだから。
もう誰も責めない、喧嘩しあって、傷だらけになって、最後には涙を流して抱き締め合う。
彼らは、たくさん間違いを犯して、失敗をその身に刻みながら大人になっていく。
恥ずかしい黒歴史も、大人になれば、絶好の酒の肴だ。
みっともなく恋に狂った純也に、夜瑠はその病的な部分に、処方箋として友情を置いた事が正解だった。
男女の関係を繋ぐのは必ずしも、恋愛である必要はない。
性愛ばかりにとらわれる必要もない。
何でもない事を気楽に話し合って、心の重荷を少しでも軽くさせる事が、今の彼らには必要だった。
友情だって、一つの他人を思いやる立派な感情なのだから。
枷でしかないとばかり思われていた友情こそが、やはり彼らを繋ぐ鍵だった。
こうして、恋愛モンスターと友情モンスターの戦いは互いを満身創痍にした果てに。
辛うじて、愛情に友情がその強さを示した。
やっと、ややこしく絡まりあった五人の糸はほどけて、歪んだ形で、まっすぐな大人になった彼ら。
人と関わって、傷付いて、痛みを知っていなければ、真の円熟した大人にはなれない。
身勝手でも、傲慢でも、強欲だと謗られても構わない。
純也は切実に仲間達に想いを打ち明ける。
それは自分でも重々分かっているし、その言葉を受け止めなければならないほどの罪を、自分は犯したのだから。
それでも、夜瑠と築いてきた恋情だけは、なくせなかった。
仲間達と紡いできた友情も抱え持っていたかった。
この恋情も、この友情も、けして取りこぼす事なく守り抜くと誓うから。
そして、全ての秘密が明かされた先で。
仲間達はその誓いを、もう一度信じてくれた。
溜め続けた負債をちゃんと清算させた。
明かされた真実によって、今までの関係性は木っ端微塵に壊れて、更地となった。
彼らは、そのまっさらな状態からまたもう一度、改めて関係を積み上げていく。
愛情で咲いた花は真っ黒だった。
友情を磨いた石は何よりも重かった。
どちらを抱えて歩いて行くのも、しんどくて、面倒臭くて、辞めたくなる日もきっと訪れるだろう。
しかし、こんな厄介で癖のある仲間達と過ごす日常は、刺激的で楽しい日々が待っているに違いないから。
この素敵な関係を続かせていく為になら、いくらでもこの感情を背負ってみせよう。
歪な恋は、純粋な友情を汚しもしたが、繋いだ友情は、彷徨する愛にちゃんと答えを導いてくれた。
彼らの行き着く先は、過酷な茨道になるのか。
それとも、皆で笑い合えるハッピーエンドなるのか。
人の醜さを知って大人になった彼らは、その答えを持って、共に歩んで行くのだろう。
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