読書記録:経験済みなキミと、 経験ゼロなオレが、 お付き合いする話。 (ファンタジア文庫) 著 長岡 マキ子
【経験豊富な君の裏の顔は、純粋無垢な優しい心】
自称陰キャな少年がスクールカースト上位のギャルに告白する事で心を通わして行く物語。
昨今のラブコメのヒロインは、どれだけ奇抜な性格をしていても、男性経験は皆無な事がほとんどである。
憧れのヒロインには、清廉潔白でいて欲しいファンの無意識な願望が投影されている。
しかし、この物語のヒロイン、月愛は男性をとっかえひっかえ付き合って、簡単に身体を許す、魔性のヒロインとして描かれる。
誰にでも優しくて健気な月愛は、その見た目に反して、男子諸君を引き寄せる魅惑があった。
様々な男子達を、取っ換え引っ返えて、色っぽい噂が後を絶たない彼女だったが、龍斗にとっては太陽のような存在だった。
羨望と憧憬の眼差しで遠くから見つめる日々だったが、友人達の罰ゲームによって告白する事になる。太陽が明るく輝く程に、影は色濃く暗くなる事を自覚させながらも。
ギャルの常識と陰キャの持つ常識の隔たりを越えた、根っこの部分で互いの持つ優しい人間性に惹かれていく二人。
付き合う友達も興じる遊びも何もかも違う二人だったが、その違いこそが、ありきたりな日常に刺激を与える清涼剤となっていく。
月愛はけして軽い女ではなかった。
男性関係がコロコロと変わったのも、月愛のお目に叶う、見た目だけではなく、中身がちゃんとした男がいなかっただけ。
彼女の献身的な性格が災いとなって、悪い男が引き寄せられただけであった。
彼女を都合の良い女として利用する、クズな男達が近付いてきただけだった。
肉体的な経験は豊富であれど、心からの恋愛をした事がない彼女は、純粋無垢でウブな女の子だった。
龍斗は、素敵な月愛に見合う男になろうと、彼女の趣味嗜好を徹底的にリサーチして。
自分の守備範囲を広げる努力をしていく。
好きな人が好きな物を自分も理解したいから。
月愛を裏切ってきた今までの元カレのようには、自分は絶対にならない。
月愛の事が大切だからこそ、簡単には手を出さないし。
彼女に対して誠実であろうと、自分を真っ直ぐに変えていく。
経験豊富だけど、恋愛は最終的に行き着く果ては、肉体関係だと勘違いしている月愛の価値観をやんわりと指摘して、恋愛における、好きという感情の意味を教えていく。
龍斗は、月愛に肉体的に誘われても、頑なに断って貞操を守った後で、あとでもったいなかったと悶々と後悔するさまは、年相応の男子高校生らしい欲望も垣間見られて、そういった未成熟な弱さも好感が持てる。
そういった行為は、お互いをもっとよく知ってからするべきであるからこそ。
彼女の名誉と誇りを守る為なら、他人に何を言われても、何を思われても、絶対に月愛を守ってみせると覚悟を決める龍斗。
そうやって、駄目で情けない自分が相手と繋がっていく為に、オーバーラップして、愛を積み上げていく姿こそが、何よりも尊いのだろう。
上辺だけの色恋しか知らない少女と、まともな恋愛などした事もない少年が些細なきっかけを通じて、「愛する事、愛される事」とは何かを少しずつ知っていく。
月愛には、人として大切な事を思い出して欲しいし、自分をもっと大切にして欲しいから。
今までのろくでもない恋愛経験は、僕が忘れさせてあげるからと。
未経験の自分のバイタリティを使って、月愛にたくさんの初めてを与えてあげる。
お互いの違う日常を一つに重ね合わせ、学校や私生活から、相手を深く知る事で、いつの間にか傷付いてしまっていた心を癒やしていく。
徐々に月愛の心からの素朴な笑顔を取り戻す中で、彼女の姉妹であり、龍斗の過去にトラウマを植え付けた海愛が、良からぬ企みを抱えながら、龍斗に近付いてくる。
龍斗は、復讐を果たそうとする海愛から、初心で優しい心を持つ月愛を守れるのか?
そして、月愛と龍斗は純粋無垢な心から如何にして、本物の男女関係を築いてゆけるのだろうか?
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