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物語の中に、自分を見つけた時、それだけで馬鹿みたいに救われるのはどうしてかな。

小説を読んでて、「ここに、私がいる」、と震えた事がある。思わず叫びだしそうになった。叫ぶ言葉は見つからなかった。ただ呆然としてしまうような、奇跡に思えた。

どこからか見てたの?
私を知ってるの?親にも親友にも、自分でも知らないふりしてるようなことを。もちろん話したことすら無い、見たことも無いような作家さんの物語に、確かに自分を見付けた事がある。

叫びだしそうだった。だけど自分でも何を叫べばいいのかも解らない、伝えられない、何を伝えるのかも分からない。
次のページをめくって、物語を読み終わってしまう未来が勿体無いと思った。
同じ行を、丁寧に何度も読み直しながら読み進めた。
赤の他人の物語に、私が、確かにそこに居た。
それだけで、なんだか、叫び出したくなるなるし、ボロボロ泣きたくなるし、
極論、その「私」だった 人物が、不幸な死を遂げようが、
私は私と同じことを、
一欠片でも考えた人間が居たことを、知ってしまった。

その作者はもう、この世には居ないかも知れない。

だけど、私と同じことを考えた人間がこの世界に居たのだと、
手のひらに収まる小さな文庫本が教えてくれた。

別に、その文章には「きっといいことがある、諦めずファイトだ!」とか「いい事とは人生の後半戦にあるものです。」みたいな神のお言葉も仏のお言葉も、背中を叩いてくれるような言葉は特に無い。

だけど、誰にも言わなかったような、誰にも伝わらなかったような、伝えようともしなかったような、言葉にする程の事じゃないと閉ざしたことのような、口にすべきじゃないような、そんな、
そんなことを、
一欠片でも同じことを、
考えた人間が居たなんて。

なんだか、「変わり者だ」「変人だ」と言われ、自分でも「私は頭がおかしい」と思っている自分が、
独りじゃない気がした。
「どーせ私がおかしいんだ」、とへそを曲げてる自分の耳元で、「世の中誰でも他人から見りゃ頭はおかしいさ」なんて言われてるような気にすらなった。

吉本ばななさんの「キッチン」を読んだ時、主人公のカギ括弧の無い地の文が、まるでそのまんま自分の頭の中をなぞっているようで、見透かされてるというか、他の世界の自分はこの主人公と同じことを思うんじゃないかとか、うまく言えないけど、あまりに自分の頭の中の声と馴染む文章を 最初はただ、「読みやすい小説だな~」と思った。
次に、学校の授業で習った太宰治の「富嶽百景」を読んだ時、心の中で息を呑んだ。
自分の頭の中の考え事がそのまんま文字になってるみたいだった。
私の脳みその中身をうまーく綺麗に印刷して出来たみたいだった。
私は主人公と違いただ教室の椅子に座っていたけれど、主人公の思うこと、感じることは、物語の中、そのまま私の思うことだった。

主人公の性格の問題で無いと思う。
ただひたすらその物語達と私は、違う世界に生きていた自分のようだった。
自分だった。

この時の衝撃というか、激情を、まだ自分でも理解しきれてなくて、上手く説明出来ないけれど、
会ったことも無い人間が書いた物語に自分を見つけた時、お涙頂戴の展開や台詞など無くても、
なんだか、
馬鹿みたいに救われる事がある。

漫画やドラマ、映画の、たった一言の台詞やちょっとした行動でも、
このままだったら気に止めず、見て見ぬ振りして、忘れてしまうような激情が一気に呼び覚まされる事がある。

そうか、あの時あぁいう風に言えば良かったな。
あんなことしなきゃ良かったな。
あの時当たり前だったけど、今思えば、死ぬ程嬉しかったな。
そういえばあの時、本当は、死ぬ程悲しかったんだ。

物語の中に、自分を見つける。
大体主要キャラには感情移入しやすいタイプだけど、その人物の中に、自分を見つけた時。

やっぱりうまく言えないけど、なんだか今まで見ててくれたのかな、とか思ってしまう。
同じことを考えた、この作者も夜中の3時に冷凍ご飯チンして食べながら、1人泣いてたことがあるのかな、とか。
そこまでいかなくても、なんか、
独りぼっちじゃない気がして、
バカ泣きしたくなる。

だから、
私も創る人になりたいなぁ。
"そっち"の人になりたいなぁ。
私の創った物語に、私の行ったことない県に住んでいる存在さえ知らない中学生とかが、自分を見つけてくれたら。

聖人君子で無いので本とか出したらそりゃ売れてほしい。
でも誰か、1人でいいから、貴方と同じことを考えてる人がいるよって。
出来たら。いいなぁ。
だって私はたくさんの物語にそれをしてもらってきたから。
今でもそうしてもらっているから。

「死にたいなぁ」と本気で思った夕方のチャイムが鳴る平日のベッドの上。
「このまま眠って、2度と目が覚めなくていいのになぁ」とぼんやり思っていた嵐の夜。
楽な死に方を検索してた夜明け。
と、同じ人間が、「人生あと60年あっても足りない!やりたいことやりきれない!!」と本気で思った朝。

打たれ弱い臆病な若造です。
身体はボロボロだし、友達居ないし、嘘つきで悪いやつだし、
絵だって。
命と同じかそれ以上大事な絵だって、
よく白い紙すら視界に入れられなくなります。
ペンを持つのもマラソンして来いって言われるくらい億劫。持てなかったりね。
覚悟とか、無いのかも。
でも漫画家になりたいなぁ、っていうのを諦めきれないのは、意地と無駄に高いプライドとか、意地とか、
あとは私の絶望が何かになったらいいなぁ、なんて思っちゃうから。

今まで思ったことを何もせずに死んでしまうより、
誰か、私も、

自分と会いたい。




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