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おぼろげなこんせき

唐突ではあるが、個人的に恋愛を題材にした流行歌は苦手である。
具体的な理由を挙げると、恋愛は多様に存在し、必ずしも一つとは限らないからである。
要するに性格と同様、定義が存在しないからだ。

正しい恋愛も結婚も存在しない。
信じた者が結ばれれば、その先に言い訳などないに等しい。
また、言葉を並べれば並べるほど嘘と化す。
これらを集約すると偽善となる。

で、矛盾が重なるだろうが、恋愛と偽善が重なる映画を紹介したい。
滅多に邦題を褒める事がないのだが、この作品に関しては邦題が優れている♪
で、邦題『愛を読むひと』であーる☆

この作品は「かつて」と「いま」が交差する主人公のマイケルによる記録である。

「いま」のマイケルをレイフ・ファインズが演じ、「かつて」のマイケルをダフィット・クロスが演じる。

物語は「いま」から始まる。
自分を周囲に曝け出す事を嫌うマイケルは弁護士として勤める。
一見矛盾している様だが、感情が優先すると物事が大きく左右される。
それは事実から真実を通り越え、新事実となると物事は大きく偏る。

こういった事実が塗り替えられ、マイケルは「かつて」の自分と向き合いつつ、過去を振り返る。

「かつて」のマイケルは実年齢が15歳という事もあり未熟であった。
その頃マイケルは見ず知らずの女性と出逢う。
引き金となった理由は、バスに乗っていたマイケルは帰宅途中であった。
家路に着く前からマイケルは気分が悪かった。
途中下車したマイケルは雨が激しく叩きつける容赦ない空模様の中、雨宿りを兼ねて一軒の民家に身を委ねる。
すると気分が悪くなったマイケルは見慣れぬ場所で嘔吐する。

偶然その場に居合わせたハンナはマイケルを介抱する。
それから二人は具体的な言葉を交わす事なく、ごく自然と男女の関係へとなる。
因みにハンナを演じるのは、この作品でアカデミー賞・最優秀主演女優賞に選ばれたケイト・ウインスレットである。

この作品に関して、誰から異性関係を求めたかが重要ではなく、誰が「何」を求めたがが最大の要となる。

「かつて」のマイケルは未熟だった故に、単純に性行為を求めた。
一方のハンナだが、「かつて」のマイケルと比べ実年齢は二回り以上にかけ離れているせいか、恋人というよりも親子として見られるほど釣り合わない関係であった。

関係を結んだ間もない頃、マイケルは一冊の本を取り出すとハンナは興味を抱き、「読んで欲しい…」とせがむ。
ハンナの願いを断る事なくマイケルは淡々とした口調で手荷物から本を取り出し朗読する。
それからというもの、ハンナはマイケルに要求する。
「(肉体的な)関係を結ぶ前に本を朗読してほしい…」と。

回数を重ね「かつて」のマイケルは多くの書物を朗読する。
名作と呼ばれるものから、漫画や官能を刺激する書物までハンナが望む限り応えた。


やがて二人を囲むのに欠かせないものは書物となり、共通の言語となる。

書物に描かれる物語には必ず終わりがある様に、二人の関係にも終わりが訪れる。
具体的な理由がないままハンナは街から去る。
それは「かつて」のマイケルには唐突な出来事だったので、嵐が過ぎ去り、途中過程が省かれた結果論でしかなかった。

時が過ぎ去り、「かつて」のマイケルは少年から青年へと開花すると、大学へ進み法学部のゼミに通う。
研究の一環とし裁判の傍聴する機会を得る。
その内容とは、強制収容所でナチスの戦犯として女性看守の是非を論する内容であった。

ハンナと離れ8年という歳月が過ぎた今、まさか傍聴席で再会するとは考えていなかった。
複数人の女性看守は利己的な主張を述べるあまり、ハンナが中心人物であると複数の女性らは口を揃えるかのごく主張する。

裁判で問われている内容だが、アウシュビッツ収容場で多くのユダヤ人を教会に入れた後、外から鍵を閉めたのだが、不運にも事故が起こり火災に遭い、女性看守は人道的な見地が優先した挙句、ユダヤ人を助ける事なく教会内に残された全てを犠牲にした事を問う忌まわしい出来事である。

傍聴していた「かつて」のマイケルはハンナと過ごした貴重な時間を思い起こす。

すると、二人が共有した時間を考えた時、一方的に朗読はしたが、ハンナから朗読はおろか、読み書きした記憶は無であった。

そして、「かつて」と「いま」のマイケルはハンナは自分の名前さえ書く事ができないと知る。

だが、時すでに遅し。
その後に下された判決内容によると、他の女性看守は軽罪で済んだが、ハンナは重罪となり無期懲役となる。

重く受け入れた「いま」のマイケルは妻から離婚を強いられ、更に最愛なる娘との接触も限られていた。
「かつて」は愛するものが存在し、守るものがそばにいたが、「いま」は無力である事を痛感するマイケルである。

つぐないからなのか、「いま」のマイケルは自由を奪われたハンナに対し他愛のない恋文を送る。
読み書きができないハンナを想い、「かつて」読み聞かせた文学などを朗読したカセットテープに記録した物を、ハンナが拘留されている場所に届ける。

時が過ぎ、ハンナはマイケルの差し入れが元で僅かではあるが読み書きをを覚え、マイケルに手紙を書く事ができる様になる。
それだけに止まらず、本を読む事もできる様になる。

「かつて」と「いま」のマイケルの間にある青年と、分断された時間を改めて共有するかの如く、ハンナはお互い年老いた姿で再会する。

ここから先は予告編を通して本作を鑑賞するかをお決め下さい。

個人的な感想を述べると、レイフ・ファインズが演じる「いま」のマイケルが年老いたハンナを宥める光景が、この物語を描く意義が潜んでいると確信した。
そして主演を務めたケイト・ウインスレットの体を張った演技には脱帽である。


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