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かみさまへ

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2年前に書いた小説です。 加筆しながら改めて投稿してみようと思いました。
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かみさまへ

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かみさまへ

何かの本で かみさん  とか かあさん は 

太陽を表す言葉だと書いてあった。

かみさま。と かみさん。

なんとなく不思議なつながりを思う。

男女のかけらが子宮に辿り着き 気が遠くなるほどの数の分裂を繰り返す。子宮に護られ からだができるとそこに魂が宿り 子宮から産道を通って 
この世に人として生まれおちる。

生物である限り 誰にでも「かあさん」は在る。

「ヒトには自分と

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かみさまへ2

かみさまへ2

結婚して少ししてから買った中古物件の古い小さな家が私たちの棲み処。

子どもが生まれてからは 絶対に対面キッチンがいいと
智弘にリクエストして、リビングとキッチンはリフォームしたが
他の部屋や廊下などはなかなか年季の入った家で、
子どもの友達は遊びに来るとトイレまでの通路を
「迷路みたいー。」と面白がっている。

ハンバーグを食べながら

「やっぱりママのハンバーグはおいしいなー。」と瑞木が言う

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かみさまへ3

かみさまへ3

鞄の奥で携帯が震えた。

「もとちゃん、26日って何してる?」

従姉のミキからだった。一つ年下のミキは両親が共働きだったので、赤ちゃんの時からうちに預けられて お互いの父親の母であるトキばあちゃんが大事に育ててくれた。
 お母さんも専業主婦だったので家にいることはいたのだけど なんだかあの頃はいつもとげとげしていたし、忙しそうにしていたので、わたしたちは ばあちゃんのいる離れで遊ぶようにして

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かみさまへ4

かみさまへ4

 良く二人で遊んだうちの前を流れる川。
魚を追いかけたりダムを作ったりして。
水は冷たく澄み、魚が泳ぐのも見える。川底には丸い石がたくさん積み重なっていてはだしで歩いても痛くない。川遊びのあとには、川原の木陰でおにぎりやおやつを食べるのが日課で この木の下はわたしたちのお気に入りの場所のひとつだった。

 ある日のこと この川の水がどこからくるのかが気になり、二人でおやつを持って探検に出かけた。し

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かみさまへ5

かみさまへ5

幼い頃わたしたちはよくうたを歌っていた。
自分たちでうたをつくっては練習し、ばあちゃんの前で披露した。
わたしがつくる歌はふざけたものばかりで、歌っているとおかしくなって 途中で我慢しきれずに吹き出し、おなかが痛くなるまで笑ってしまっていつも最後まで歌えない。

ミキはふざけたわたしとは違い、小さな言葉たちを並べてうたをつくるのだった。響きの好きな言葉、素敵な意味の言葉、覚えたての言葉。それらを絶

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かみさまへ6

かみさまへ6

土曜日の今日もパートがある。子どもたちが休みの時はなるべく私も休むようにしているのだが 今月は売り出しがあるので 初日の今日は全員が出勤することになっている。

「じゃ行ってくるね。」

「いってらっしゃーい。頑張ってねー。」

朝食を作り、智弘とまだ布団の中にいる子どもたちに声を掛けて出掛ける。舞花が布団の中から返事をしてくれた。可愛いなぁと思う。

 土曜日だから道路が空いている。いつもは待た

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かみさまへ7

かみさまへ7

 5年生になった舞花は 学校ではしっかり者で通っているみたいだが 本当はとてもひょうきんで のんびりしていて我が娘ながらとても純朴な子だと思う。

 団体行動をするようになってからか どんなことも間違ってはいけない、失敗してはいけないと普段から凄く気を張るようになったようだけど、瑞木にだけは素の自分を出せてるように見える。そう言った意味で どんな時も揺らぐことなくマイペースな瑞木は 舞花にとっても

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かみさまへ8

かみさまへ8

「記憶なんて本当にあいまいなものだね。」智弘が言う。

「何?急に」

「んー例えばさ、一年生の時の担任の寺本先生について 覚えてることって何?」

「そうだなぁ。なんか怖かったかなぁ。声が大きくて はきはきしていて。でも結構好きだったのかも。先生のおうちに遊びに言った記憶があるもん。」

「俺は 面倒見のいいおせっかいなおばちゃんだなって感じ。でもこれはきっと一年生の俺が感じたことではなく 今の

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かみさまへ9

かみさまへ9

「あいつ何本気で歌ってんの?」

「おっかしいのー。」

 一年遅れで学校に入学したミキは クラスの中でも目立つ存在だった。

なぜかは知らないがらこのくらいの頃からミキはわたしのことを もとちゃんから もとこちゃんと呼ぶ様になった。

中途半端が嫌いな彼女は何事にも全力で挑む。曲がったことが嫌いで、遊びにも全開の力を使う。いつでも生きてることに真剣なのだ。
 
そんなミキをやっかみ、いろい

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かみさまへ10

かみさまへ10

 相変わらずきれいに整えられた庭。

 小さな花壇には季節ごとに花を咲かせる植物が植えられて 
洗濯物はそで口までパリッと気持ちよく干され、
窓はサッシまで磨かれている。

 お母さんの仕事はやっぱり隅々まで風通しがいいなぁと思う。
小さい頃から当たり前にあった風景。
 丁寧で角までしんとしていて 少し強くそして優しくて
見る人もしゃんとさせるこの風景を守るためにお母さんはどれだけの時間を使ってき

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かみさまへ11

かみさまへ11

夢を見て泣いた。

涙がこぼれたのに気付いて起きた。

真夜中。

なんて強烈な夢だったのだろう。

まだ鼓動が早い。

子どもたちが二人とも学校に上がっていなかった寒い夜。

私は死んだのだ。

もちろん実際には死んではいない。それくらい鮮明にリアルに自分が死んだ世界を体験したのだ。どんなふうに死んだのかはよく覚えていない。なにかの病気だったような気がする。

病院のベッド。
智弘と舞花と瑞木に

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かみさまへ12

かみさまへ12

かみさまへ

わたしは どうしたらやさしいにんげんでいられるでしょうか?

この世での いのちを終えて あの世に戻った魂たちは 

こぞって

「あの’切ない’って感情は何とも言えないね。」

「ここじゃ絶対に体験できない感情だ。」

「本当に。切ないってやつは最高だった。」

と 地球での切なさ体験が
どれだけ素晴らしいものだったかを語り合うそうですね。

わたしは 天国に還ったときに 
みんな

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かみさまへ13

かみさまへ13

 なかなか赤ちゃんを授からなかった智弘とわたしは、夫婦だけの毎日でも、仕事も遊びもそれなりに楽しくて問題なく過ごしていた。それに、あの頃のわたしはもう自分が妊娠するなんて想像もできなかったし 自分に子育てが出来るなんてふうに ちっとも思ってもいなかった。

 自分を労わるなんてこともしたくなかったし、肉体も精神も酷使してなんぼと思ってたし、人とうまくやることだけにエネルギーを使っていたので 妊娠し

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かみさまへ14

かみさまへ14

休みの日は家から出たくないと言い、
こたつに入りゴロゴロとしていた舞花に

「ママ、今週忙しくて二人とあまり一緒にいてあげられないね。さみしい?」
と聞いてみた。

「いつも、あんまりいないじゃん。」

ショックだった。
子どもたちとはなるべく一緒にいてあげようと思ってきたし、
仕事も遊びも子どものいる時間は避けるようにしてきたはずだった。

これじゃまるでお母さんと一緒だ。

同じ空間にいるのに

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