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【行政関係者に聞くシリーズ】政策プロセス毎のデータ活用の可能性(1)課題認識

EBPMに基づく自治体経営を推進するにあたり、データをどのように政策のプロセスごとに活用していけばいいのか、またデータの1つとしてのDS.INSIGHTの活用の考え方を政策プロセス毎のデータ活用の可能性と題してご紹介しました。

この記事から4回にわたり、各プロセスについて事例をご紹介したいと思います。
まずは第1のステップ、課題認識です。


課題認識過程におけるデータ活用のポイント

行政の抱える課題は少子高齢化対策や産業政策、インフラ関係の事業等多くが長期的な課題であり、長期計画に基づいています。しかし、行政の抱える課題の実態は常に変化をしているため、常に変化を把握し、見直しを行う必要があります。例えば新型コロナウィルスの感染拡大は、消費やサービス利用の動向を大きく変えましたが、その変化は一過性にとどまらない可能性があります。また、社会構造の変化に伴い新たな社会問題に対応する必要が生まれたり、首長の交代により、新たな課題に光をあてることもあるでしょう。

こうした課題を認識するため、主に次の2つの局面でデータを利活用します。

・現状分析
・課題の把握


現状分析

現状でも、各種公的統計や業界団体等ステークホルダーからの要望、日頃業務を通じての感触、そして報道等、手に入る定量及び定性データを活用し、現状の把握と分析が行われているかと思います。定量データの活用で代表的なツールは2015年から経済産業省と内閣官房(まち・ひと・しごと創生本部事務局)が提供している地域経済分析システムRESASでしょう。

公的統計だけでなく、POSデータによる消費の傾向、クレジットカードデータによる外国人の消費データ、免税利用状況や経路検索条件、モバイル空間統計等、民間企業が提供するデータも活用することができるのが大きな特徴です。データ分析支援機能や利用事例も充実し、他自治体との比較、ヒートマップへの落とし込み等、より直感的にデータを扱えるようになりました。もっとも、RESASのデータは更新頻度が年1回程度であるため、長期的な動向を把握するには適していますが、現状をタイムリーに確認するには課題があります。
利用方法については様々な情報がありますが、各自治体の産業の特徴を簡単に分析する動画がありますので、ぜひ参考にしてください。

より直近のニーズに応える定量データとしては、新型コロナウィルス感染症による地域への影響を可視化するという目的で、1週間おきに多くのデータが更新されるV-RESASが2020年6月30日に内閣府地方創生推進室と内閣官房(まち・ひと・しごと創生本部事務局)によって開始されました。DS.INSIGHTの検索データも一部V-RESASに提供しており、緊急対策を行うにあたり、現状分析を行うのに適したツールとなっています。

DS.INSIGHTは、こうした既存のツールを補完する定量データの1つです。DS.INSIGHT Peopleは検索データを軸とするデータのため、既存の統計では測りにくい市民の意識、特に観光など産業関連施策、あるいはライフスタイルに直結する現状分析に馴染みが良いのが特徴です。例えば国内向けの観光誘致やブランド産品の販売促進を継続して行っている場合、共起キーワード上昇キーワードランキングで自治体や観光地、特産品の名称や、「お取り寄せ」等関連ワードを検索することで、一緒に検索されているキーワードの内容や推移がわかります。どのような情報が検索されているのか、何が注目されているのか、そこに季節性はあるのか。あるいはそもそも検索すらされていないのか。現状をつぶさに把握することができます。

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もう一方のDS.INSIGHT Placeはアプリの位置情報を軸とするデータのため、過去から前日までの人流を把握することができるのが特徴です。滋賀県の事例では、新型コロナウィルス感染症の対策にあたり、県外からの訪問者数を推計することで人流の現状を可視化し、知事会見の場で「滋賀1/5ルール」への協力を依頼するための説明資料として用いられました。

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出典:滋賀県ホームページ 知事会見(令和2年度前半)


課題の把握

現状分析から踏み込み、課題を把握するにあたっては、統計やデータにまだ表れていない、人々の潜在意識から課題を見つけ出すことも重要です。こうした課題の一部は例えば「保活」「ヤングケアラー」など、名前が付けられることで可視化され、メディアに取り上げられ大きな社会現象になることもありますが、可視化されていないケースも多く、そうした場合には公聴機能では拾いにくいためです。

DS.INSIGHT Peopleで把握できる検索データは、こうした声にならない声を把握し、可視化する一助となります。現代社会ではインターネットに接続している市民は市民生活に関わるあらゆる事項を検索していると言っても過言ではありません。例えば子供が産まれる家庭は子育てに関する情報を。介護が必要になったときには、介護に関する情報を。検索キーワードは市民の潜在的な関心に直結しており、こうした検索の動向を量的に把握することで、ぼんやりとした課題に輪郭を与えるヒントが得られるのです。

以下の図は、アンケート、SNSデータ、検索データの位置付けを図示したものです。一般的に疑問や興味は、調べる、調査するという形で検索データに現れます。検索データの活用は、公聴の新しいやり方と言えます。

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具体的には、共起キーワードでよく一緒に検索されているキーワードを確認したり、時系列検索で関心の移り変わりを確認することで、課題のヒントを得ることができます。こうしたデータ活用の可能性について、特に防災分野での展開可能性について、高知県立大学の神原咲子特任教授にお話を伺っています。

また、育児に関しての親の悩みについて、検索データを活用した分析レポートを紹介します。

大手メディアで取り上げられる課題が自身の自治体にそのまま当てはまるとは限りません。地域の抱える事情により、課題の背景や優先度は様々ですが、例えば地域の状況を緊急的に把握するにあたって、アンケートやヒアリング調査といった実態調査を補完し、概観を掴むのに役立てることができます。

政策プロセス毎のデータ活用の可能性に関する記事一覧
(0)はじめに
(1)課題認識
(2)政策立案
(3)実施 
(4)評価


筆者プロフィール

ヘルマン 真実子(へるまん まみこ)

東京都庁、(株)電通パブリックリレーションズ勤務を経て2018年7月よりドイツ・ベルリン在住。フリーランスPRコンサルタントとして欧州における日本のクライアントの広報・PR実務に従事。官民双方の勤務経験を活かし、より良いパブリック・コミュニケーションの実現に取り組んでいる。独ロバート・ボッシュ財団主催Global Governance Futures 2035フェロー。国立市「まち・ひと・しごと創生懇話会」委員(2016~17年度)。


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