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セミナーレポート 高知県立大学神原教授からのメッセージ ~データ活用がコミュニティの防災を変える~ (2)

高知県立大学特任教授 神原咲子氏をお招きして、「データ活用がコミュニティの防災を変える」というタイトルで開催したセミナーの、レポート2本目になります。(1本目をご覧になりたい方はこちら)今回は、災害における公助はどうなるべきか?の問い以降を掲載します。※この記事はセミナー内容のごく一部をまとめたものです。
(文:ヤフー株式会社 坂能 恵美)

神原先生

写真. 神原教授近影 (研究者情報はコチラ

データが揃ってきた現代における災害時の公助とは、どうなっていくべきとお考えですか?

神原教授:普段の生活が災害時には全て脅かされる、病気になりやすい状況になるわけですが、公助をもって住民の方々を平等に支援する際に、一つの大きな声を救い上げることにしかならないケースがあります。多様な人たちに行き届かないと。例えば一部の大きな声に該当する量よりも、多様な人たちの状況の総和の方が多いときは、どちらがマジョリティかわからなくなりますよね。できるだけ多様性を含められる対策を置くために、できるだけ多様なシチュエーションが含められているデータ、多様な人々の行動が可視化されたデータを使い、その中に対策を置くことが大事なのではないでしょうか。そのことが、人々のセルフケア行動、あるいは共助の行動として動きやすい状況にもつながると思っています。それをいかに公助として支えられるか?ということに発想の転換もできるでしょう。
今後は、ひとりひとりの力をもって関わっていただくことが重要で、これをコミュニティエンゲージメント(コミュニティによる福祉のための組織への関与と参加)と言いますけれども、そういった働きかけや、ソーシャルキャピタル(人々の協調行動を活発にすることによって、社会の効率性を高めることのできる、「信頼」「規範」「ネットワーク」といった社会組織の特徴)の概念の活用によって、人々の総力戦というところを重視していく社会になっていくと言われているので、それもまた、公助へのヒントになるかと思います。

多様な状況をおさえる方法の1つとしての、アンケート調査については、どうお考えでしょうか?

神原教授:今までの疫学調査だとか、行政が行う意識調査だとか、アンケート調査はいろいろありますが、それらは定点観測として、同じ質問を定期的に繰り返す形が多かったと思います。出てくる結果や問題は、当然ですが質問に対する答えでしかないので、その奥にあった課題とは何だったのかを調べるために、さらにヒアリングするといったことが、公衆衛生の中で多用に努力されてきました。それが災害となると、いろいろなセクターの課題の、総合的な問題になるので、一つの大きな質問票にどうしてもなり、質問票が膨らんでいくことになりますし、アンケートを取るタイミングはいつがいいのか、取る相手は誰なのか?の検討も必要で、結果として作業量、作業時間が膨大になってしまいます。

一方で、私たちのようなフィールドワーカーが見ると、災害時に起こる多様な状況と、ビッグデータでクイックに可視化された結果がほぼ同じだよねと、データがエビデンスにつながった経験が多くあります。このように現場の感覚とうまく結び合ったときに、さらにそのデータの結果から質問を設計して対象者にアンケートをとることもあり得ますし、もしくはすぐさま政策に活かせることもあると思います。

これから不確実な時代だと言われていますし、いろいろなジェネレーションがいる多様な時代に、適切な質問を設計すること自体が難しいですよね。また、以前こう回答した方が、次の段階でどう回答するか?ということが時系列で繋がらないといけません。IDで繋がっていれば、もちろん匿名化統計化はするにせよ時系列でも変化が見られますよね。本当は人々の生活はずっとつながっているので、災害の前から、この問題はそもそもあったんですよ、ということがわからないと、災害直後の対策だけしても、非常に限界があると考えています。

多様な人々の行動が可視化されたデータによる調査例

司会(ヤフー 坂能):災害時に起こる多様な状況と、ビッグデータで可視化された結果に共通点があり、納得感を得たという感覚は、昨年7月の豪雨災害で先生と一緒に分散避難先を調査した際、私も経験させていただきました。先生から教えていただいた車中泊をしそうな方の傾向をもとにDS.INSIGHTの人流データを使って調査したわけですが、調査のなかで当時課題に感じていたツールの弱点が、その後改良されて次々とリリースされています。たとえば月平均の人流だけでなく、日時を指定し、かつ性年代も指定して、カスタムに登録されたエリアの推計人口推移を見るなど。このあたりの新機能については、いかがでしょうか。

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神原教授:災害時に避難した人はずっと避難所にいるだとか、もしくは家にいるかのように対策することがありますが、実際はそうではないんですよね。人は避難時でも、居住自治体を越えてでも頻繁に動き続けます。それを広いエリアで時間軸で見られるデータというのは、非常に活用できると思います。例えば私たち災害支援側が、こちらの都合で昼間の午前9時~午後5時に支援に行くと、避難所に誰もいないということがありましたし、私たちが帰って夜間になってから体調が悪くなった人が避難所に来て、救急車に運ばれるケースも多々あります。そこでやっと、病院の救急搬送の件数として初めてデータがあがってくるんです。それまでの過程(人流の時間軸の推移)というものは、今までデータで可視化されることがほとんどなかったと考えると、こういった取り組みにより今後もっと予防できることが増えていくと思います。

司会:ありがとうございます。セミナー冒頭で「検索はセルフケア行動の一種」とおっしゃられた通り、検索データからも先生はいろいろと気づきを見つけられたと思います。次はそのあたりをご紹介いただけますでしょうか?

車中泊を検索する人は防災を意識しているのか?

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神原教授:災害になると車中泊の話が出てきますよね。でも検索データを見ると、車中泊をキャンプと結びつけながらどんな車を買えばいいか探す様子だとか、地域を指定して車中泊できそうな場所を探しているかのようなワードが多く見られました。このことから、”キャンプをする人たち”が車中泊を検索しているように見えます。去年コロナ対応のため分散避難を呼びかけるなかで、エコノミークラス症候群に注意しながら車中泊は推奨してもいいという考え方が出て来たにも関わらず、住民の方々は車中泊を防災とはまだそれほど考えていないのかもしれません。では、こういったキャンプ目的で車中泊を検索している方々に、防災を逆に持ってきてはどうでしょうか?車中泊が得意な方、キャンプができそうな方をリーダーにして、車中泊の方法を教えてもらうでもいいですし、一辺倒に危ないから止めましょうではなく、危険な部分を理解した上で可能な人には車中泊をしてもらうことも、一つ提案になると思います。

災害対策や防災を検索した方が他にも関心を持つワードに、性別,年代による違いはあるのか?

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神原教授:“災害対策”を検索した方が、前後に検索したワードを、男性寄り、女性寄りで見てみると、傾向に男女差があることがわかります。男性寄りのワードだと「非常用発電機、ガソリン携行缶、家庭用蓄電池」といった燃料系、女性は「防災セット、備蓄品リスト、避難グッズ」のように備えに関するワードが多く並びます。
他にも、”防災”と一緒に検索されたワードを見ると、70代の方々で特徴的に多かったのは、防災系アプリのダウンロードでした。高齢者はアプリの中身の話だけではなくアプリ自体のダウンロードの仕方がわからず調べていると。20代30代の女性では防災といえば、防災頭巾とか赤ちゃん防災グッズとか。特に8月に検索されることが多く、夏休みの宿題として防災頭巾を調べられたのかなということが見えてきます。
このように、ジェンダー、ジェネレーションが違えば興味関心事が変わるので、それぞれにあった支援をすることや、それぞれの得意分野で活躍いただけるような場を作ることも非常に大切だと思います。

今後の「防災」における課題は、いろいろな人がいろいろな立場で関われる場を、いかに増やしていくかということ

司会:最後に、今後の「防災」はどのように変わっていくべきだとお考えでしょうか?
神原教授:「防災」に「看護」からアプローチしたらこういう話なのかということを、今日見ていただけたと思いますが、「看護」からだけではなく、ITの人だとか、データ分析の人、自主防の方、といったように、いろいろな方がいろいろな立場で「防災」に関われる場をいかに増やしていくかが大事だと思います。私たちの「災害看護」と呼ばれるところでも同じなのですが、多様な方々が関われる場を増やすようにしなければ、私たちは伝統的な方法でしか、人々をケアできないし守れないことになります。
多様な方々が関わるときの共通言語としてデータがあると思っています。さらに、データを見て事業に落とし込む方法や、多様な人々を巻き込む方法について、常々考えているところであります。

皆さん、長い時間本当にありがとうございました!

(おわり)

セミナーレポート 高知県立大学神原教授からのメッセージ
 ~データ活用がコミュニティの防災を変える~
(1)https://note.com/ds_yahoojp/n/n3f21a70dbd56/
(2)https://note.com/ds_yahoojp/n/nf25b26c902fd/
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