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【行政関係者に聞くシリーズ】政策プロセス毎のデータ活用の可能性(4)評価

EBPMに基づく自治体経営を推進するにあたり、データをどのように政策のプロセスごとに活用していけばいいのか、またデータの1つとしてのDS.INSIGHTの活用の考え方を政策プロセス毎のデータ活用の可能性と題してご紹介しました。各プロセスについて事例をご紹介する全4回の記事のうち、今回は最後のステップ、評価です。

評価過程におけるデータ活用のポイント

データの活用という観点では評価の過程が一番イメージがつきやすいかもしれません。主に次の2つの局面でデータを利活用します。

・アウトカムの確認(寄与度を確認する)
・ステークホルダーとのコミュニケーション

◆アウトカムの確認(寄与度を確認する)

(2)政策立案過程で、効果予測の段階でアウトプットとアウトカムの指標を立てておく、と記載しました。これを最終的に測定し、施策の効果を評価し、次年度へ向けて継続すべき点、改善すべき点を明らかにするのが(4)評価です。実務的には年度末に行うというよりも、年度途中でも次年度予算要求作業や議会質疑の過程で、事業を動かしつつ途中指標での評価を示さざるをえないケースも多く、最後の評価もこれを踏襲するケースも多いかもしれません。
特に年度途中で外に評価を出していく場合は、(1)の段階で立てたアウトプット指標・アウトカム指標だけでなく、(3)実施に関する記事で言及したモニタリング指標との関係も考慮する必要があります。それぞれの指標の関係性はおおむね次の通りです。

▼指標の整理

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行政における評価の難しさは、成果として「認知度」「経済効果」等大きな目標をアウトカム指標として立てがちで、実際の個別の事業の有効性や寄与度がわかりづらいことです。このため、アンケート結果で取ったアウトプット指標を並べてロジックを繋げたり、測定しやすいアンケート結果などをアウトカム指標として扱い、説明するということもあるのではないでしょうか。しかし、「測定できる結果」が本当に目指すゴールへのステップになっているかは注意が必要です。事業自体は好評でも、結局最終的な目標に対して効果的でなければ、残念ながら意味がありません。

よりピントの合ったアウトカムを測るための1つの方法として、大きなアウトカムをブレイクダウンした上で、事業の事前事後といった特定のタイミングで計り比較する、という方法があります。例えば認知度であれば、仮に全世代向けの施策だったとしても、あえて年齢性別等で区切った認知度へと分解。DS.INSIGHTであらかじめ検索データを確認し、それぞれのターゲット間の検索状況やボリューム、共起キーワード等を確認しておきます。この時点で横の比較もしておきます。その後事後に同様の確認を行い、同一グループ内の変化を把握します。これが一義的な評価となります。加えて、グループ間を比較し、特に効果が出ている、あるいは出ていないグループがあれば、更に評価を立体的に深めることができるのです。

▼ブレイクダウンの例

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測定のタイミングが決まっている統計と異なり、DS.INSIGHTでは人々の検索データと人流を希望するタイミングで取得することができるのが特徴です。

下表は、2021年8月における「観光 “地名”」の年代別の検索ボリューム上位20位のランキングですが、年代によって結果が異なることがわかります。また、このランキングは実際には400位くらいまで確認できるため、多くの地名が確認できます。
仮に若者向けのPRを行なった場合、10代や20代のランキングが60代、70代と比べて上がったのかを確認することで、アウトカムを可視化できます。

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この仕組みを活用しているのが、(一社)長崎国際観光コンベンション協会です。
同協会は、検索データを用いた長崎への観光推移を、他地域と比較し、活動の評価の参考としています。
(出典)マンスリーレポート 2021年8月号

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◆ステークホルダーとのコミュニケーション

最後に取り上げるのが、ステークホルダーとのコミュニケーションです。ステークホルダーは議員、地元団体、民間事業者、市民、そして役所の内部など行政に関わるあらゆる人を指しますが、行政がこうした関係者に向けて丁寧にコミュニケーションを行うことは、昨今特に強く求められている点です。

コミュニケーションにおけるデータ活用のポイントは、何故行政(担当者)がそのように考えるのか、結論ありきで「説得」「ご説明」のために都合の良いデータを使うのではなく、検討のプロセス、前提条件、そしてそこから導き出された結果を丁寧に「共有」し、同じ議論のテーブルに着くためにデータを使うことです。

これまで取り上げてきたプロセスでも、データを活用してコミュニケーションを行う事例ありました。(1)課題認識で取り上げた滋賀県知事による記者会見は市民に危機感を共有するためにデータを用いた最もわかりやすい事例ですし、(2)政策立案で取り上げた西宮市の日本酒振興関連事業では、データを民間事業者と共有することで市の目線を共有することで踏み込んだフィードバックを得て、新たな事業の着想を得ている様子がわかります。また、(3)実施で取り上げた神戸市建設局の下水道の普及啓発に関する事業では、データに基づいてチーム内で議論をすることで、企画がぶれなかった、という担当者のコメントがありました。評価のステップは、その総仕上げとなる段階です。

施策を実施したものの、共通認識が持てていないケースは往々にして生じます。立場や情報量が違えばなおさらです。新しい取組みの際には、これまでの蓄積がなく、どのように評価すればよいのかわからず議論が拡散してしまう、というケースもあるのではないでしょうか。アウトプット指標やアウトカム指標といった最終的なデータは勿論ですが、そのデータにたどり着くまでのプロセスをコミュニケーションすることで情報の非対称性を埋め、事業実施結果の共通認識を持つことで、政策のサイクルを閉じ、次のステップに向けた建設的な議論をすることができます。



以上、全4回にわたってデータの活用について連載させていただきました。ステップごとにDS.INSIGHTのデータの活用方法や事例もご紹介してきましたが、あくまでも主眼は行政がどのタイミングでどのようにデータを使えるのかという点であり、DS.INSIGHTは既存の統計や調査に加えて活用できるデータの1つです。データ、特に量的データは様々なことを示してくれる一方で、やみくもに分析してみても、結局よくわからない結果しか出ず、使い道がよくわかりません。この連載が、担当者の皆さまがデータの海に溺れず、適切なデータを適切なタイミングで用いるヒントになれば幸いです。


政策プロセス毎のデータ活用の可能性に関する記事一覧
(0)はじめに
(1)課題認識
(2)政策立案
(3)実施 
(4)評価


筆者プロフィール
ヘルマン 真実子(へるまん まみこ)

東京都庁、(株)電通パブリックリレーションズ勤務を経て2018年7月よりドイツ・ベルリン在住。フリーランスPRコンサルタントとして欧州における日本のクライアントの広報・PR実務に従事。官民双方の勤務経験を活かし、より良いパブリック・コミュニケーションの実現に取り組んでいる。独ロバート・ボッシュ財団主催Global Governance Futures 2035フェロー。国立市「まち・ひと・しごと創生懇話会」委員(2016~17年度)。


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