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【行政関係者に聞くシリーズ】政策プロセス毎のデータ活用の可能性(2)政策立案

EBPMに基づく自治体経営を推進するにあたり、データをどのように政策のプロセスごとに活用していけばいいのか、またデータの1つとしてのDS.INSIGHTの活用の考え方を政策プロセス毎のデータ活用の可能性と題してご紹介しました。

各プロセスについて事例をご紹介する全4回の記事のうち、今回は第2のステップ、政策立案です。


政策立案過程におけるデータ活用のポイント

政策立案過程では、現状分析の過程で明らかになった地域の実情をもとに、過去の経緯を踏まえつつ政策を制度や事業に落とし込んでいくことになります。事業であれば目的を達成するためにどのようなスキームを取るのか、施策ターゲットとなるのは誰か。施策のアウトプットは何で、アウトカムは何か、どのような効果検証を行うのか、といった点を予算要求の前にあらかじめ想定します。

このプロセスでは、データは主に次の3点で活用することができます。

・要因の分析と施策目的の整理
・施策ターゲット、事業スキームの検討
・効果予測(アウトプット、アウトカム)


要因の分析と施策目的の整理

現状でも政策を立案するにあたり、課題の背後にある地域の実情を明らかにすることで、何故そのような課題が生じるのか、何のためにその政策が必要なのか、要因の分析が行われていると思います。分析にあたっては、各種公的統計や業界団体等ステークホルダーからの要望、日頃業務を通じての感触、そして報道等、手に入る定量及び定性データを活用して行いますが、一方でデータ上の制約、また踏み込んだ分析をするには統計のスキルや時間及びコストがかかるといった課題もあります。加えて、仮にデータがあったとしても、複合的な課題に対して因果関係をクリアに断定することは非常に困難が伴うのが実情です。

その際取りうるアプローチの1つが、因果関係の仮説を立てた上でそれを検証する、という方法です。
例えば、災害時に取るべき行動について市民の認知を高めたい、という課題があったとします。その際に「災害時に市民が求める情報を提供できていないからではないか」「むしろ課題は認知されていないことではなく、年配層や小さなお子さんがいる家族は避難に不安があるのではないか」といった仮説を立てた上で、可能な限り政策の立案段階でこの仮説を検証することができれば、優先して対応すべき要因を探る助けになります。

こういったケースではDS.INSIGHTをデータの1つとして活用することができます。
例えばDS.INSIGHT Peopleで「災害対策」を検索している市民が他にどんな用語を検索しているか共起キーワードで確認することで、「災害時に市民が求める情報を提供できていないからではないか」という仮説は検証することができます。市民は思いもよらないキーワードを検索しており、行政はその情報ニーズに応えられていないかもしれません。また、本当は同じ内容を発信しているつもりでも、行政用語で発信をしていたり、PDFファイルで提供しているために思うように検索にかかっていないかもしれません。市民の知りたいことと行政の発信内容とのギャップがあるようであれば、行政の発信の改善が求められますし、逆にギャップがほとんどないのであれば、実は対応すべき課題は広報ではなく別にある可能性が高いと言えるでしょう。
実際に災害に関わるキーワードを検索し、防災情報が「伝わりにくい」理由をDS.INSIGHTを用いて考察したのがこちらの記事です。

同様に、新型コロナウイルス対策において住民が求めている情報や不安に感じていることを「コロナ」や「コロナ ワクチン」などのキーワードの共起ワード分析から把握しようと試みたのがこちらの記事です。

2つの事例からも伺えるように、DS.INSIGHTのメリットの1つは、従来は定性でしか扱えなかった内容を定量化できる可能性がある、という点にあります。例えば市民の関心や現状の認知は、特定のグループへのヒアリングの結果であれば、あくまでも限定されたサンプル数に基づく定性データであり、どうしても偏りもあります。しかし、DS.INSIGHT Peopleの時系列キーワードで可視化することによって、検索数、その推移、男女比など、検索データを基にした定量データとして把握できるため、データを相対的に理解することができるようになるのです。また、上昇キーワード共起キーワードといった機能を用いることで、若者や高齢者、小さな子ども持つ親世代など、アンケート調査やヒアリング調査だけでは拾いにくかったサイレントマジョリティの声を拾うことができます。現場の感覚にデータを組み合わせることで、より市民ニーズに寄り添った、効果的な施策目的を設定することができます。


施策ターゲット、事業スキームの検討
(兵庫県西宮市の事例)

次に、課題が明らかになった段階で、課題解決のための事業スキームを検討します。その際、行政の施策は公平性を念頭に置いていますが、個別に施策レベルに目線を向ければ、観光振興であれば県外の来訪者、福祉保健関係であれば高齢者や子育て世代をターゲットにした施策等、施策のターゲットが定まっているケースも多くあります。こうした施策ターゲットの立体的な把握と、ターゲットにあわせた事業スキームの検討に、従来のデータに加えてDS.INSIGHTを活用されたのが、西宮市の日本酒振興の取組みです。

西宮市のケースでは、日本酒の振興という施策目標は明確でしたが、施策ターゲットとして「女性」「若者」を意識しつつ、実際の事業実施結果(評価)を見ると果たしてきちんと訴求できているか効果が不透明な状況でした。そこで施策ターゲットは維持しつつ、DS.INSIGHTで取得したデータを用いた結果、新たな切り口や事業スキームのヒントを得たケースです。実際に行ったデータ活用の様子についてはこちらの記事でインタビューも交えながら詳しくお読みいただけます。

(4)で詳しく触れる「評価」にも関連しますが、西宮市のように、施策ターゲットを掲げはしているものの、実際に事業を行ってみたら想定と違っていた、ということは往々にして起こり得ます。特にイベント事業であれば、日程や場所等の物理的制約もあり、リーチできるターゲットがおのずと限定されることもあります。こうした際に事業の効果を最大化するため、(2)政策立案の段階に立ち戻り、より効果のある事業スキームを検討することは非常に重要な取組みです。一方で、それを論理的に立証し、多様なステークホルダー間で目線を揃えることは容易ではありません。DS.INSIGHTも決して万能ではありませんが、他のデータに併せて1つでも多くの客観的なデータがあることで、議論の重要な手がかりになることが西宮市の事例からも伺えます。


効果予測(アウトプット、アウトカム)

最後に効果予測ですが、政策を立案する段階で、この政策によってどのような効果が想定されるのか、目標を掲げます。多くの場合成果指標を定め、施策の効果を予め想定することで、施策としての有効性や費用対効果を考えます。

行政の場合は直接的な効果であるアウトプットに加え、アウトカムも重要な視点となります。例えば首都圏からの観光客を誘致する事業を行う際、イベントへの参加者数や観光情報HPへのアクセス数等はアウトプットですが、最終的には旅行者数や宿泊者数がアウトカムとなります。他方で、得てしてアウトカムは複数の事業や外部要因の結果であり、個別の事業の寄与度はなかなかピンポイントでは測れないことが課題です。

こうした際に、DS.INSIGHTのデータを事業実施の前に測っておき、事業実施後と比較することにより、アウトカムを測る手助けになることがあります。この点は具体的な方法を(4)の評価で取り上げたいと思います。

3つの観点からデータを活用することで、本質的な課題とターゲットに合った施策を立案することができ、結果的に政策の効果を高めることにつながります。

政策プロセス毎のデータ活用の可能性に関する記事一覧
(0)はじめに
(1)課題認識
(2)政策立案
(3)実施 
(4)評価


筆者プロフィール

ヘルマン 真実子(へるまん まみこ)

東京都庁、(株)電通パブリックリレーションズ勤務を経て2018年7月よりドイツ・ベルリン在住。フリーランスPRコンサルタントとして欧州における日本のクライアントの広報・PR実務に従事。官民双方の勤務経験を活かし、より良いパブリック・コミュニケーションの実現に取り組んでいる。独ロバート・ボッシュ財団主催Global Governance Futures 2035フェロー。国立市「まち・ひと・しごと創生懇話会」委員(2016~17年度)。


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