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【行政関係者に聞くシリーズ】政策プロセス毎のデータ活用の可能性(3)実施

EBPMに基づく自治体経営を推進するにあたり、データをどのように政策のプロセスごとに活用していけばいいのか、またデータの1つとしてのDS.INSIGHTの活用の考え方を政策プロセス毎のデータ活用の可能性と題してご紹介しました。各プロセスについて事例をご紹介する全4回の記事のうち、今回は第3のステップ、実施です。

実施過程におけるデータ活用のポイント

行政が取る手段は様々な形がありますが、事業の場合、外部委託を行わない場合には直接、外部委託をする施策であれば事業者と協力の上、事業を施行することになります。いずれの場合にも事業目的を達成するため年度を通じて執行管理を行い、必要に応じて施策の広報を行います。

このプロセスでは、データは主に次の3点で活用することができます。

・あらかじめ測定したデータを指標として定め、モニタリング指標として利
 用する
・広報にあたり、「相手が知りたいこと」を知る
・炎上時等、緊急対応が求められる際の状況把握に用いる


◆モニタリング指標として利用する

事業を実施する過程では円滑に運用することに意識が向きがちですが、大きなトラブルなく終わったからといって、実際に期待している効果が出ているとは限りません。事業が終わった後に「実は想定ほど効果が上がっていなかった」ということがわかっても、時すでに遅しです。このため、実は事業実施中にこそ、事業が事前に想定していたような効果を上げているかを確認することが必要です。
このために活用できるのがモニタリング指標です。

効果測定に用いる成果指標と異なり、モニタリング指標は成果に至るまでのプロセスにおける状況を明らかにするために用います。必ずしも公表する必要はありません。担当者が手元で確認し、事業執行の過程で指標が想定どおり動いていなければ、想定される原因を確認し、可能な範囲で対応する等、機動的に対応することで施策の効果を最大限に高めることができます。

全ての事業に馴染むわけではありませんが、DS.INSIGHTはモニタリング指標としても活用することができます。

例を挙げてみましょう。例えば、観光における地域の認知度を上げる施策を実施している場合に、「観光」という単語の検索ボリュームをモニタリング指標とするケースです。

下記は2021年8月の“(地域名)+観光”という検索ボリューム(人)を、多い順にソートしたものです。これらの検索ボリューム数や順位をモニタリングすることで、季節や新型コロナウイルスの状況・緊急事態宣言といった外部要因による変動、あるいはgo toキャンペーンや県民割など促進策の状況による変動を確認することができます。また、全国でなく隣県に絞った検索をすることで、近隣の大都市圏における関心に絞ってモニタリングすることも可能です。これにより施策が想定している効果を挙げていそうか、状況を確認することができます。


図1

同様の指標は特産品のブランド認知などにも活用できます。ベンチマークとなる他地域の動向も含めて比較することで、相対的な判断も可能となります。

また、新型コロナウイルス対策や商工・観光部門では、人流の定点観測もモニタリング指標とできるでしょう。下記2つのグラフは福岡市のPayPayドーム周辺エリアにおける2020年と2021年のそれぞれ8月の推計人口を比較したグラフと、2021年8月29日のPayPayドーム周辺エリアへの他地域(福岡市中央区以外)からの来訪者推計値です。

図1

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前者のグラフからは、そのエリアで昨年度比でどのような人流の変化があるのかを、後者のグラフからは、来訪者の居住地や性別、年齢などをモニタリングすることができます。例えば大きなイベントを実施したとして、狙った地域や年齢層の来訪者は来ているのか。施策の効果をこうしたモニタリング指標を利用してよりタイムリーに確認することで、昨年度との比較を通じ、狙った効果が出て良そうか、出ていないようであれば必要に応じて追加の手立てが打てるようになります。 


◆「相手が知りたいこと」を知る

施策を実施しても、施策を必要としている人に届かなければ意味がありません。このためには施策の広報が求められますが、その際、「自分たちが伝えたいこと」だけでなく、「相手が知りたいこと」を考慮し、伝える中身そして伝え方を工夫することが必要です。世の中は情報で溢れかえっていますから、例え広報紙やSNSで発信したとしても、単に発信するだけでは情報の海に流れて行ってしまうだけです。専門的に広告代理店やマーケティング会社に委託して行うこともできますが、DS.INSIGHTを活用することでその作業の一端を自分たちで行うこともできます。


神戸市役所の事例

◎取組の紹介と背景
神戸市建設局東水環境センターでは下水について学ぶことのできる「下水道の歩み館」を一般公開しています。しかし、コロナ禍による緊急事態宣言のため見学受け入れを一時停止。現在は再開しましたが、見学者自体が訪れにくい情勢が続いています。そこで、コロナ禍でも下水道に関する普及啓発を継続するため、YouTubeでPR動画を配信する試みを開始しました。

神戸市がアートに親しめる場所の提供やアーティストが活躍する「アートを活かしたまちづくり」を進めていること、またSDGs※を推進する立場から、アートやSDGsといった切り口を想定しており、どうすれば視聴者に関心を持ってもらえるかが課題でした。そこで動画を実際に制作するにあたり、「どんなことが知りたいだろうか?」「どんな動画にしたら見てもらえるだろうか?」と視聴者のニーズを把握し、コンテンツ制作の参考とするためにDS.INSIGHTを活用しました。

※「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標(国際連合広報センター

◎実際に行った作業
利用した機能はDS.INSIGHTのPeople機能による、関連キーワードの把握です。「下水道」を含むワードを月次で把握し、検索順にワードを確認の上、ランキングの分類を行いました。

図1

結果として、知識面でのニーズとしては下水道の仕組みや上水道と下水道の違い、下水道と臭い、下水道と詰まりといったキーワードを抽出。また、見学のニーズに繋がりそうな検索ワードとしては下水道アドベンチャーや下水道展といったキーワードを抽出し、動画の方向性を固めていきました。
同職員の岡野内晃代氏、武仲瞬也氏は、この制作過程について「データによる裏付けがあることでチームの意見がまとまりやすく、自信を持って企画を推進することができた」と述べています(記事詳細)。

◎完成した動画
「下水道×アート×SDGsプロジェクト」と題して9月時点で計14本の動画を制作。見学のニーズにダイレクトに応える「#1 おうちで下水道」「#3 地下神殿に侵入」といった動画を中心に、下水道の仕組みや普段は見ることができない映像を紹介。職員も出演の元、市が伝えたいことを伝えるだけでなく、視聴者の関心に寄り添い、親しみを持ってもらえるように工夫している様子が伺えます。

#1 おうちで下水道
神戸市のチャンネルkobecitychannelに計14本格納されている

YouTubeのハッシュタグには #見学 #下水道の仕組み などDS.INSIGHTでの結果から着想を得たキーワードを入れ込んでいます。


◆炎上時等、緊急対応が求められる際の状況把握に用いる

また、昨今ではSNSを端緒に「炎上」と呼ばれる状態になることがあります。SNS上で完結することもありますが、新聞やTVを含めたマスメディアで取り上げられるとその影響範囲は大きく、SNSを見た市民からの問い合わせに留まらず、メディアや議員からの問い合わせ等、所管課のみならず時には首長を巻き込んで緊急対応へと発展します。

この場合には、実際に何が起き、何が問題視されているのか、状況をいち早く正確に把握することが求められます。自治体の窓口へ直接接到する市民の声や、クリッピング等で把握できるマスメディアの情報に加え、SNSでの状況をリアルタイム検索を活用して把握することで、状況を俯瞰し、また定量的に状況を確認することができます。


政策プロセス毎のデータ活用の可能性に関する記事一覧
(0)はじめに
(1)課題認識
(2)政策立案
(3)実施
(4)評価


筆者プロフィール
ヘルマン 真実子(へるまん まみこ)

東京都庁、(株)電通パブリックリレーションズ勤務を経て2018年7月よりドイツ・ベルリン在住。フリーランスPRコンサルタントとして欧州における日本のクライアントの広報・PR実務に従事。官民双方の勤務経験を活かし、より良いパブリック・コミュニケーションの実現に取り組んでいる。独ロバート・ボッシュ財団主催Global Governance Futures 2035フェロー。国立市「まち・ひと・しごと創生懇話会」委員(2016~17年度)。


好評連載!行政関係者に聞くシリーズ 
政策プロセス毎のデータ活用の可能性(ヘルマン 真実子) 
ビッグデータを活用した新しい広聴広報の可能性(佐久間 智之)
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