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【行政関係者に聞くシリーズ】政策プロセス毎のデータ活用の可能性

DXの推進にあわせて自治体経営におけるデータの活用が大きな関心事となっていますが、実際にはEBPM(Evidence-based Policy Making、証拠に基づく政策立案)が推進されてきました。

DS.INSIGHTで得られるデータは、政策のプロセスに応じて効果的に用いることで、EBPMに基づく自治体経営を推進する新たなツールともなります。

そこで今回は実際にどのような使い方があるのか、その基本となる考え方を政策のプロセスごとにご紹介します。

政策のプロセスとDS.INSIGHT活用の可能性

(1)課題認識

自治体の政策の多くは総合計画や分野ごとの計画で定めた目標に応じて個別の施策を実施しています。

この際、個別の施策の妥当性はこの後の事業執行及び評価のプロセスで確認されることになりますが、そもそも全体として計画が引き続き市民のニーズに沿っているか、課題に応じているかも不断の検証が必要です。

例えば推進してきた観光関連施策において、地域特産品や観光地の認知度の変化を正しく理解できているか。来訪者の変化はないか。この際、地域データを活用したり、時系列キーワードを活用することで市民のライフイベントに応じて起こりうる将来的な課題を発見したり、市民ニーズの変遷を確認し、政策課題をより具体的に把握するといったことが可能になります。

また、既に対応の端緒についている課題に加え、社会の変化に併せて新たな対応が求められることも往々にして起こります。そもそも何が問題なのか、例えば同じ「コロナ禍の住民課題の把握」いった問題でも、他の自治体と自分たちの自治体が抱える問題の構造は本当に同じなのか。関係者へのヒアリングや実態調査といった従来型の実態把握に加え、DS.INSIGHTで検索者の地域属性といったデータを併用することで、自分たちの自治体における状況を可視化することができます。

加えて、直接政治や行政に届く声の大きな意見に限らず、声にならない声をデータから拾うことで、より市民のニーズを敏感に認識することができます。


(2)政策立案

課題の認識と現状分析を行った上で、新たに対応が必要だと認識された場合には、具体的に施策立案のプロセスに入ります。既存事業をもとに対応する場合にせよ、新規事業を立案する場合にせよ、いずれの場合にもまず施策目的を整理した上で、目的を達成するために施策ターゲットとなるのは誰で、どのような事業スキームを取るのか、施策のアウトプットは何で、アウトカムは何か、どのような効果検証を行うのか、検討することになります。一連の内容は予算要求のプロセス及び最終的には議会審議を通じて検証され、実際に施策化されるかどうかが判断されます。

このプロセスでは、いわゆるロジックモデルの構築や、その妥当性が検証されますが、既存のデータに加え、DS.INSIGHTからも有用なデータを追加することができます。例えば共起キーワードでの検索結果をもとにターゲットボリュームを想定したり、関連するステークホルダーの幅を広げ事業スキームを精緻化する、あるいは地域データを活用し人流を確認することで、より課題解決に資する施策展開の検討が可能となるでしょう。また、共通のデータをもとに議論することで、ステークホルダーによって見え方の異なる課題の論点を整理し、結果として議論が収れんする助けになります。


(3)実施

実際の執行フェーズにおいては、実際に施策が事前に想定していた通りに進んでいるか、何か課題が起きた際の対応など、外部委託の有無にかかわらず執行管理が求められます。この際、あらかじめDS.INSIGHTを用いて測定したデータを指標として定め、政策立案段階での数値を取得しておくことで、経過のモニタリングを行うことが出来ます。指標が想定どおり動いていなければ、想定される原因を確認し、可能な範囲で対応する等、機動的に対応することで施策の効果を最大限に高めることができます。

また、施策によっては市民に対する広報が必要となります。プレスリリースの発出や記者会見、SNSでの発信などが行われますが、発信しても相手に届かなければ意味がありません。発信の手法を工夫することに加え、伝える中身の工夫、伝え方の工夫が必要です。特に「自分たちが伝えたいこと」だけでなく、「相手が知りたいこと」に配慮することが求められますが、こうした際に共起キーワードの検索などを行い、潜在的なターゲットや関心事を確認することは、効果的な広報の実施に大いに役立ちます。

なお、EBPMとは離れますが、昨今はSNSを発端とした炎上も大きな課題となっています。自治体においても炎上のリスクは他人事ではなく、メディア対応や自治体としての対応方針を検討するにあたっては、リアルタイム検索によって今何が話題になり、何が問題とされているのか、タイムリ―に確認できることは大きな助けになるでしょう。

(4)評価

年度の終わりに向けて、成果や次年度へ向けた課題の把握・検証が行われます。これは外部委託事業であれば事業の中に効果測定が組み込まれているケースもありますが、そうでない場合には統計データの限界から個別の施策の寄与率まではわからず、手に入るデータで推計する、ということも得てして起こります。特に量的データが揃わないために、質的データに頼らざるを得ない、という場合もあるでしょう。また、そもそも効果測定に対して過度の予算を割けないケースも多いのではないでしょうか。

この際、実施フェーズと同様、あらかじめDS.INSIGHTを用いて測定したデータを指標として定め、政策立案段階での数値を取得しておくことで、簡便に事業実施後のデータの直接比較することができます。事業実施フェーズからのモニタリングを経て、最終的に事前事後の比較を行うことで、施策効果の検証の幅が広がります。

おわりに

以上、政策のプロセスに応じたデータ活用の可能性についてご紹介しました。DS.INSIGHTによって全て解決するわけではなく、あくまでも使えるデータが1つ増えるに過ぎません。また、データの限界もあります。しかし、より多くのデータに基づいて政策が推進されることは、自治体におけるEBPMを推進し、結果としてより良い行政経営に繋がります。DXの推進が求められる今、手段のデジタル化に留まらず、データを政策のプロセスに応じて効果的に活用し、自治体経営に活かしていくことが求められています。


各プロセスの具体事例について

各プロセスについてそれぞれ具体事例を紹介しています。ぜひご覧ください。

(1)課題認識
(2)政策立案
(3)実施
(4)評価



筆者プロフィール

ヘルマン 真実子(へるまん まみこ)

東京都庁、(株)電通パブリックリレーションズ勤務を経て2018年7月よりドイツ・ベルリン在住。フリーランスPRコンサルタントとして欧州における日本のクライアントの広報・PR実務に従事。官民双方の勤務経験を活かし、より良いパブリック・コミュニケーションの実現に取り組んでいる。独ロバート・ボッシュ財団主催Global Governance Futures 2035フェロー。国立市「まち・ひと・しごと創生懇話会」委員(2016~17年度)。


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