【行政関係者に聞くシリーズ】広聴DX「ビッグデータを活用した新しい広聴広報の可能性」
新型コロナウイルスによって行政・自治体の広聴広報のあり方を見直す必要が出てきました。例えばこれまではアンケート用紙を郵送する住民意識調査を行ったり、直接訪問して統計調査を行ってきましたが、対面の機会を防いだり不要不急の外出を控えるようになった今、これらを見直さなければなりません。
これまでの行政・自治体広聴では、データを活用した広聴がまだ進んでいない印象です。私の自治体での業務経験ですと、オウンドメディアである自庁HPのPV数やSNSのアナリティクスでのエンゲージメントを活用したデータ分析くらいしかデジタルでの広聴ができないことが課題としてあるのではないでしょうか。
基本的には、住民意識調査や首長への手紙やメールで広聴を行っているケースが多いですが、郵送や訪問での広聴では若年層のデータ不足(分母が少ない)のため精度に課題があったり、計画から回収までのリードタイムや対応にかかるコストが課題となります。
民間企業のビッグデータを活用することで、この課題を補完することかできると考えており、そのメリットは
• 圧倒的なサンプル数
• 過去のデータを遡ってデータ分析・調査が行える
• タイムラグがない(前日までのデータを活用できる)
• 繰り返しモニタリングができる
が代表的なものとしてあります。
それでは、これらを活用してどのようなことが実務で行えるのか3つのポイントから考えてみましょう。
1. 行政や自治体への関心を理解する
2. 住民の不安を網羅的に理解する
3. 時系列による変化を理解する
1 行政や自治体への関心を理解する
例えば私が広報アドバイザーを務めている「中野区」。中野区というキーワードでどんなことを検索されているのかを調査することで住民の関心やニーズを即時に広聴することができます。
このように「中野区」では上記で指定した期間は「中野区 ワクチン」や「中野区 粗大ごみ」などのワードで検索されていたことが分かります。さらに「中野区 粗大ゴミ」の詳細を分析することで属性の詳細を調査することも可能です。
このデータを広聴として活用し、例えばTwitterなどで粗大ごみの情報や料金表を発信する、過去のデータから一番検索されている時期(年度初めなど)にHPやSNSで周知するなど広聴から質の高い広報をすることができるというわけです。
2 住民の不安を網羅的に理解する (コロナワクチン関連)
2021年2月に「コロナワクチン」で検索されたキーワードの内訳が下記の画像の通りになります。この時期はまだワクチン接種が行われる前で、指針も固まっておらず住民の不安が大きかった時期です。そこで「どんな不安があるのか」をデータ活用し分析すること、つまり「広聴」をし広報につなげたケースをご紹介します。
このデータからニッチな情報が読み取ることができました。妊娠中の方や子どもへのワクチン接種への不安が浮き彫りになったのです。ですから行政・自治体広報としてはこの声を拾い上げることが重要で、広報アドバイザーでお手伝いしている東京都清瀬市での広報で以下のように修正しました。
左がデータ活用前、右がデータを分析して作成したものです。左は行政情報を一方的に伝えているだけですが、右は「子どもや妊婦は接種できますか」などデータ広聴から導き出された問いを設けることで『清瀬市は皆さんの意見をしっかりと認識していますよ』という意思表示にもなり、住民に寄り添った広報をすることができたと言えるのではないでしょうか。
3 時系列による変化を理解する (申請関連)
過去のデータを参照できるため、同じ検索ワードでどのように変化しているかを読み解けます。例えば「申請書」のワードで検索されたものを抽出すると下記のような結果となりました。
例えば12月は、ふるさと納税の駆け込み需要が多く、ふるさと納税関係の申請についてのニーズが高いことが分かります。一方、どの時期でも「高額医療費支給申請書」「傷病手当金支給申請書」が検索されていることが浮き彫りになり、これらの情報のニーズが高いということが分析でき、住民に直接聞くだけでは分からない広聴ができると言えるのではないでしょうか。
さらに随時検索されている事実は裏を返せば住民は「書き方がよく分からない」「申請の仕方が難しい」と感じているから検索しているとも言えるわけです。ですからこの情報を元に、申請書の書き方や手順をSNSで紹介したり、解説動画を作成して紹介するなど、データを活用した広聴で質の高く、且つ戦略的な広報が実現できるわけです。
自治体広聴におけるDXとは
アナログからデジタルに変化し、さらにコロナによって情報発信の方法が劇的に変化しました。これらに行政も自治体も対応していかなければならず、インターネット時代に合った情報拡散、つまり広報をしなければならず下記の「AISAS」のプロセスは代表的な方法としてあげられます。ここで重要なのは「検索」の後に行動があり「共有」されていくことです。つまり「検索」のフェーズをしっかりとらえないと行動も起きず、さらに情報の共有、拡散まで行きつくことができないということです。
そしてこれからの広聴広報、DX、情報発信には「5つのS」がポイントになると私は提唱しています。5つのSとは以下の通りです。
Search(検索)
Share(共有)
Story(物語)
Spread(拡散)
Sympathy(共感)
この5つのSを融合することで「物語に共感して、検索し共有し拡散されていく」形が生まれます。この5つのSを実行するためには何を「検索」をされているのかをサーチし広聴として活用することで5つのSが実現することができると言えます。
ニューノーマルな広聴DXの形として「検索」と5つのSを捉えてデータを活用した広聴を行うことで質の高い情報発信や広報が実現でき、それが住民サービス向上と有事の際には不安を解消したり、命を救うことができる、そんな大きな力を持っているビッグデータを活用することが、行政と自治体に求められているのではないでしょうか。
※本記事の内容は公開日時点の情報です。
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