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『存在と時間』を読む 全88本

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#ハイデガー

『存在と時間』を読む Part.1

 ご存じ、ハイデガーの『存在と時間』は20世紀最大の哲学書と言われるだけあって、これまで日本でも多くの訳本が出版されており、比較的簡単に手に取ることができる書物です。一般的に難解だというイメージがありますが、訳本も解説書もわかりやすいものがでていますし、読むことのハードルも下がっているように思います。

 しかし、原文を読んでみる機会はなかなかないのではないでしょうか。ドイツ語だし、文章量も多く、

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『存在と時間』を読む Part.8

 前回までの投稿で、『存在と時間』の序論のご紹介をさせていただきました。今回から第1部に入っていくことになり、本格的な現存在分析が始まります。

第1部 時間性に基づいた現存在の解釈と、存在への問いの超越論的な地平としての時間の解明 第1篇 現存在の予備的な基礎分析

 第1篇は全部で6つの章によって構成されています。第1章では、本書の考察が「現存在の実存論的な分析」という意味を持つことが明確に提

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『存在と時間』を読む Part.9

  第10節 人間学、心理学、生物学と異なる現存在の分析論の領域の確定

 現存在、すなわち人間に対する学問は哲学だけではありません。人間学、心理学、生物学といった学問もやはり、異なる問題設定や方法によって人間について探究する学問です。しかし、存在論としての哲学はこうした学問よりも"先に"あるものだと言われてきました(Part.2、Part.8参照)。存在論によって、哲学ではない学問の領域が確定さ

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『存在と時間』を読む Part.10

  第11節 実存論的な分析論と未開な段階にある現存在の解釈、「自然的な世界概念」を獲得することの難しさ

Die Interpretation des Daseins in seiner Alltäglichkeit ist aber nicht identisch mit der Beschreibung einer primitiven Daseinsstufe, deren Kenntni

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『存在と時間』を読む Part.11

 第2章 現存在の根本機構としての世界内存在一般

  第12節 内存在そのものに基づいた世界内存在の素描

Dasein ist Seiendes, das sich in seinem Sein verstehend zu diesem Sein verhält. Damit ist der formale Begriff von Existenz angezeigt. Dasein exis

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『存在と時間』を読む Part.12

 前の節では、世界内存在の素描が行われ、重要な概念がいくつか登場しました。そこで、ここまでに登場した概念をドキュメントで確認してみましょう。

 まずは >In-der-Welt-sein< で、これは「世界内存在」です。その下に >Das Wie des Daseins: phänomenologische Untersuchung.< と書かれていますが、これは「現存在が"どのように"あるかー

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『存在と時間』を読む Part.13

 第3章 世界の世界性
  第14節 世界一般の世界性という理念

 世界内存在の「世界」という構造契機に注目するのが、この節の課題です。しかし、「世界」という語は多義的であって、本書で考察すべき世界とは何のことなのかをまず確認しておく必要があります。

 基礎存在論は現象学的に遂行されますが、「世界」を現象として記述するとはどのようなことかと、ハイデガーは問い掛けます。世界内部的に存在する存在者

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『存在と時間』を読む Part.14

 A 環境世界性と世界性一般の分析

  第15節 環境世界において出会う存在者の存在

 前節までで確認されたことは、現存在が日常の生活のうちで生きている世界は、近代哲学で考察されてきた被造物の世界という意味での自然としての世界ではなく、環境世界です。環境世界と訳すドイツ語は >Umwelt< ですが、注目すべきは前綴りの >um< です。ウムというこの前置詞は大きく分けて4つの重要な意味をそな

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『存在と時間』を読む Part.15

  第16節 世界内部的な存在者においてみずからを告示する環境世界の世界適合性

 この節では、手元存在者として使用すべき道具が、何らかの理由でその使用の適性を失ったときに、眼前存在者として認識されるという事態を考察します。
 前回に引き続き、刀鍛冶の例で考えてみましょう。刀という製品を製作するためには、道具としての槌や炉、材料としての鉄などが必要です。刀匠はそうした道具に囲まれた自身の仕事場にお

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『存在と時間』を読む Part.16

  第17節 指示とめじるし

 これまで手元存在者としての道具の存在構造を解釈してきましたが、そこで明らかになったのは、「指示」という現象でした。この指示と指示全体性が、何らかの意味で世界性そのものを構成する役割をはたすということで、この節では手元存在者の存在から出発ながら、それに基づいて指示そのものの現象を明確に捉えることが試みられます。そのために注目される道具は「めじるし」です。

Wir

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『存在と時間』を読む Part.17

  第18節 適材適所性と有意義性、世界の世界性

 この節は、世界の現象の正体について語られる重要な節になります。その過程で複数の「~性」という概念が登場することになり、1つの現象についてこうした概念が重ねられるように使用されることになります。たとえば、道具的な存在者の存在は手元存在性ですが、同時に適材適所性でもあるというように説明されることになりますので、混乱しないように注意しましょう。

 

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『存在と時間』を読む Part.18

 第18節の続きからになります。

 世界のうちのすべてのものにその適材適所性をみいだす現存在は、それらの適材適所性によって自己の目的を実現しようとします。適材適所性という概念のうちには、そもそも「~のため」という目的の概念が含まれていたのであり、これが世界性の全体の目的連関を形成するのです。

Das im folgenden noch eingehender zu analysierende

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『存在と時間』を読む Part.19

 前回の節でA項が終わり、ここからB項に入っていきます、この項では、デカルトの実体の概念が「広がり」という空間的な概念に依拠するものであることを指摘しながら、このような実体の概念によって取り逃がされた存在論的な問題構成のありかを指摘しようとします。デカルトのこの概念は、ハイデガーの世界と世界内存在の概念による分析とは正反対なものとして「もっとも極端な事例」と言われていました(Part.18参照)。

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『存在と時間』を読む Part.20

  第21節 「世界」についてのデカルトの存在論の解釈学的な考察

 実体についての存在者的な意味での語りと存在論的な意味での語りの混乱は、「世界」についてのデカルトの問いの混乱と結びつくことになりました。この節の初めの段落で、ハイデガーはデカルトの存在論について3つの問いを立て、その3つの問いにいずれも否定の答えをつきつけます。

Die kritische Frage erhebt sich:

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