見出し画像

砂川啓介「娘になった妻、のぶ代へ」

著者は初代体操のお兄さん。妻の大山のぶ代さんは1979年から2005年まで、初代ドラえもんの声優として活躍した。2012年にアルツハイマー型認知症と診断されたのぶ代さんを介護する日々を、夫である著者が綴っている。

多くの子どもたちを笑顔にしたドラえもんを演じながら、夫婦は子どもを一人流産で亡くし、次に産まれた子どもも保育器の中から出ることなく、先天性の疾患により三ヶ月で亡くなる。認知症の病状が進んだ彼女は、誰もいない空間に向けて話し始める。子どもたちがいる幻覚を見ながら、教師のような物言いで怒っていたのだという。

昔何かのテレビ番組で、大山のぶ代氏がゲーム筐体で「アルカノイド」をプレイするのを見たことがある。驚異的なスコアを叩き出すそのプレイは単なる遊びではなく、彼女にとってそれはボケ防止の一貫でもあったのだという。その他にも様々な頭の体操をしていたのにも関わらず、病魔は彼女を襲う。得意だった料理も火の不始末が原因で出来なくなり、家の中で大便を落としても気付かず歩いていく。

著者は他人に妻の現状を打ち明けず、一人で介護していた。だがある時毒蝮三太夫さんに説得され、ラジオで全てを打ち明けた。そのことにより、一人(及びマネージャー)で抱えていた介護を周囲に認知してもらうことに成功する。かつての妻の友人との避けていた付き合いも復活させ、夫婦で黒柳徹子さんとの会食に赴く。妻の認知症を隠していた自分こそ、妻の認知症に正面から向き合っていなかったのだと気がつく。

終盤には著者も病に倒れ、入院中は妻を施設に預けることになる。だが俺は先に死なないからな、絶対に最後まで看てやるからな、という決意で本は締めくくられる。私は先に著者の略歴を調べていたのでその結末は知っていた。本書の刊行後間もなく、著者は亡くなり、現在大山のぶ代氏は施設にて余生を過ごしているという。


この記事が参加している募集

#読書感想文

189,937件

入院費用にあてさせていただきます。