罪深き、くたくたブロッコリーのパスタ
私は最近、くたくたブロッコリーのパスタが好きです。
もともとは南イタリア、プーリア州の郷土料理で、オレキエッテと呼ばれる耳たぶ型のショートパスタを使って作られます。
オレキエッテは中央に丸いくぼみがあるのが特徴で、そのくぼみの中に、くたくたになったブロッコリーのソースがたっぷりと絡みついて、それはそれはとっても美味しいのです。
作り方はとても簡単です。
大きめの鍋に1%の塩分濃度のお湯を沸かして、そこにパスタとブロッコリーを一緒に入れて茹で始めます。
その間に、ニンニク、アンチョビ、オリーブオイルをフライパンに入れて、弱目の火加減でじっくりと、ニンニクの香りを引き出すように炒めていきます。
そこに、くたくたになるまで茹でたブロッコリーをフライパンの中に移し入れ、フォークの背などを使ってぐしゃぐしゃに潰します。
茹で上がったパスタをさっと混ぜ合わせ、お皿に盛り付けたらお好みでチーズを振りかけて完成です。
このパスタを初めて食べた時、私はブロッコリーだけでこんなに味が出るものかと、とても驚きました。
もちろんブロッコリー自体のポテンシャルも大事なのですが、私は「パスタと一緒にブロッコリーを茹でる」というところがミソなのではないかと思っています。
というのも、パスタとブロッコリーを一緒に茹でることによって、ブロッコリーから流出した旨味をパスタが吸収してくれるからです。
ブロッコリーの旨味を吸ってひとまわり大きく成長したパスタが、再びフライパンの中でブロッコリーと出会う。
まるで映画のワンシーンのような料理なのです。
さすがは情熱とロマンの国イタリアといったところでしょうか。
しかしこのパスタ、その美味しさの裏側には、目を覆いたくなるような罪深い行為が隠されていたのです。
というのも、このパスタの主役はなんといってもブロッコリーなので、美味しく作る為には新鮮なブロッコリーを使うことが必須条件となります。
新鮮なブロッコリーを選ぶ際のポイントは、蕾の部分がギュッと引き締まった、青々としたブロッコリーを選ぶことです。
つまり、美味しいくたくたブロッコリーを作るためには、スーパーや八百屋さんに積まれたブロッコリーの山の中から、若くてハリのある、ピチピチとしたブロッコリーを選んで買ってくる必要があるのです。
そして、手に入れたピチピチのブロッコリーを家に持って帰ったら、ギュッと引き締まった若い蕾たちをザクザクと切り分けて、ぐつぐつ煮えたぎる熱湯の中に放り込みます。
そして、その若さの象徴であるハリと食感がなくなるまで容赦なく茹であげたら、それをさらにフォークの背を使ってぐしゃぐしゃになるまで潰すのです。
どうですか、なんだか罪深い料理のような気がしてきませんか。
さらにそこに輪をかけるようにして、欲深きアンチョビがやってきます。
アンチョビは、カタクチイワシを塩漬けにして発酵させたものなのですが、これがまた、酒呑みにはたまらない調味料なのです。
はっきり言ってアンチョビは危険です。
ゆで卵にアンチョビを乗せだけでも立派なおつまみになってしまいますし、キャベツと一緒に炒めでもしたら、2杯や3杯はあっという間にグラスが空になってしまいます。
なんならそのままアンチョビをチョビチョビ舐めながら、日本酒をチビチビ舐めるなんてのも想像しただけで、クゥーっとなってしまいます。
そんな酒呑みにとってダークヒーロー的存在であるアンチョビと、ぐしゃぐしゃに潰された若いブロッコリーの蕾達を、ニンニクの香り立つ熱いオリーブオイルの海で引き合わせてしまうわけですから、これはもう、なんと罪深いことなのでしょう。
それはまさに目を覆ってしまいたくなるような光景なのですが、少し勇気を振り絞って、パクッとそいつを一口食べてみると、そこには罪深いを通り越して、慈悲深い味が口の中いっぱいに広がるのです。
ブロッコリーの旨味とアンチョビの塩気、そしてニンニクの香ばしい香りに、オレキエッテのプリッとした食感。
その全てが口の中で一つに混ざり合わさった瞬間、私はまるで今まで犯してきた罪が全て許されてしまうかのような、南イタリアの大地の懐の深さを思い知るのです。
そして、こんなに美味しいパスタを昼間から白ワイン片手にいただいている私は、とても罪深い男なのです。
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