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世界の動物運動から②イギリス編(あとちょっとスペイン)【ゲスト:アニマル・アライアンス・アジア】

*①の続きです。


アニマル・アライアンス・アジアの設立まで


——では、次にエリーさん。ヴィーガンになったきっかけや活動の経験について教えてください。

エリー わたしは日本で生まれ育って、18歳の時に大学にいくためにイギリスに渡って、それから20年ぐらい住んでいました。去年1年は色々動いてたんですけど、今年からパートナーの関係もあってスペインに移住することになり、今はスペイン語を学んでいるところです。大学院ではフィルムメイキングを学んで、シネマトグラファー撮影監督としてミュージックビデオやファッションビデオをずっと撮っていました。BBCでも何年か働いたあと、2019年にやめて、アニマル・アライアンス・アジアを設立しました。

 多分皆さんもご存知のように、イギリスは「ヴィーガン」という言葉が生まれた国でもあるし、いろんな面で進んでいるので、わたしが2015年に色々気づき始めた時から、ヴィーガンとしては生活しやすい場所で、その点でわたしはラッキーだったと思います。だからヴィーガンになるのもそんなに辛くなかったし、結構スムーズになることができました。

 最初のきっかけは、 2015年くらいに動物実験をされたビーグル犬の動画を見たことでした。ずっと実験されていたビーグル犬たちが初めて檻から出る動画です。初めてお日様を見たり、草の上を歩いていたのですが、歩き方も分からずに困惑していて、わたしは小さい頃ビーグル犬と一緒に育ったので、彼らの明るい一面を知っていたから、こんなに怯えているビーグル犬を見て本当に心が痛んだんです。それで動物実験について調べてみたら、自分が思っていたよりたくさんのコスメティックス——シャンプーからメイクから洗剤からタバコまで、いろんなものが動物実験されているというのに気づいて、そういう実験をされた商品を買うのをやめたのが最初でした。

 でも色々調べながら、「わたしは犬が好きだからすごい心が痛んだけど、じゃあ牛とか豚とかどうなんだろう?」と考え始めて、自分の中の種差別——種によって差別してるという真実から目が背けられなくなって、肉も食べるのをやめました。完璧にヴィーガンになったのは2017年ぐらいだと思います。ヴィーガンになったらすぐにいろんな活動を始めました。

 というのも、ロンドンは本当に活動が盛んで、1970年代ぐらいからフェミニストの活動家メインにいろんな活動が行われてきたので、いろんなタイプの形のアクティビズムがありました。わたしは最初路上活動から始めて、キューブをやってみたり、プロテストに行ったり、あとは「ヴィジル(vigil)」という、屠殺場に送られる豚さんたちに最後 のお別れをする会に行って最後の水をあげたり、ヨーロッパにたくさんあるアニマル・サンクチュアリーにボランティアに行ったりしてました。ロンドンからは電車で1時間ぐらいのところにいいサンクチュアリーがあって、たくさんのヴィーガンの人たちが毎週末ボランティアに行っていました。

 イギリスでは、どうしたらもっと効果的に動物のために活動ができるかを話し合ったりトレーニングする機会が多かったです。動物正義運動に限らず、歴史的な他の運動——LGBTQ運動だとか、女性の権利運動だとか、マーティン・ルーサー・キングの運動だとか、公民権運動だとか、いろんな運動からやり方を学んで、どう活かせるか、といったこと話し合う機会がありました。それが個人的に役に立ったのですが、それはやっぱりわたしの特権——ロンドンに住んでいて、英語が話せる、そういうコミュニティの中にいる自分の特権だというのはわかっていたので、それを日本の皆さんにも伝えたいなと思って、2017年くらいに日本語で InstagramとYouTubeを始めました。

 YouTubeやInstagramがだんだん広まっていくと共に、日本のヴィーガンの方からいろんな悩み相談を受けるようになりました。その頃、わたしが日本語のYouTubeで目にしてたのは、美容や健康のヴィーガンの コンテンツだけで、動物正義に関するコンテンツがあまりなかったので、なるべくヴィーガンの活動家のためのコンテンツを作るようにしていました。それを何年かやっていたのですが、もうちょっと大きなスケールで活動家の育成の機会を作っていきたいと思って、アニマル・アライアンス・アジアの設立 まで至りました。

——エリーさんの YouTube、すごく見やすくておしゃれで、わたしもとても勉強になっています。運動の仕方だったり、運動の歴史、バーンアウトについてなどの情報もあって役に立ちます。たしかに、そういう運動の仕方を学ぶ場は日本だとなかなかない気がします。

エリー そうなんですよね。わたしが活動始めてから必ず考えるようにしてるのが、どこにギャップがあるか、どこに空があるか、ということです。もうすでにたくさんやってる人がいる活動はわたしが行かなくてもいいだろうし、わたしの才能や特技を活かして埋められるギャップはどこにあるだろう、というのを考えた時、活動家育成コンテンツが全然なかったので、わたしは英語と日本語の両方を使った動画を出せる、という点を活かして、まずそこのギャップを埋めようと思って始めました。



ロンドンの活動家向けトレーニング


——ロンドンで行われている活動家に対するトレーニングというのは、どこが主催しているものなんですか?

エリー そういう機会は1つではなく、いっぱいありました。まず、「ベジフェスト」という大きなヴィーガンフェスティバルがあるんですけど、そこにはヴィーガンじゃない人たちも美味しいものを食べにくるし、2階では活動家向けのワークショップが行われてたり、ドキュメンタリー上映があったり、ヴィーガンのコメディアンによるスタンダップコメディがあったり、ヴィーガンのミュージシャンによるコンサートがあったりと、本当にいろんなバラエティに飛んだイベントがあります。

↑エリーさんが講義をしたときの動画


 あと、イギリス中にある、気候正義運動の“Extinction Rebellion”(XR:エクスティンクション・レベリオン)という大きな草の根運動のグループから派生した、アニマル・レベリオンという草の根運動のグループがあって、そのグループにはマネージャーのような立場の人がいなくて、みんなが勝手にいろんな地域で自分たちのトレーニングを行うスタイルなので、どの地域でもトレーニングの機会はたくさんありました。

——そういうトレーニングって、例えばハラスメントの運動でもありますか?

エリー すみません、わたしはそこには関わってなかったので、イギリスの状況はわからないです。

栗田  おそらくあるんじゃないかな。イギリスは分からないんですけれども、わたしは以前、ロサンゼルスのUCLAで行われたサマーインスティチュートに呼ばれたんですが、それは大学の夏休み期間に労働運動のユニオンの人たちが集まって、労働運動をどうやって作っていくかという研修みたいな集まりだったんですけど、さらにその中に、ハラスメントに関してどうするかという分科会があったりするんですね。UCLAのレイバーセンターがあって、そこもそういうイベントに協賛の形で関わったり、あるいはその レイバーセンターの中で、労働運動や労働の中のハラスメント対策のワークショップを主催してやっていたりしました。イギリスはどうかわからないけど、少なくともわたしが行ったカリフォルニア州にはあるんじゃないかな。

 ちなみに、じゃあなぜ日本でないか、というのをわたしの経験から言えば、持ってこようと思ったんですよ。わたしの仲間とかがアメリカに行って持ってこようとするんだけど、本当に日本ってハラスメントのすごい国で、運動の中のハラスメントがほんとにひどいんですよ。

 これは、さっき有希さんに対して生田さんが質問したような、要するに、ヴィーガンやアニマルライツとかのことを、何にも知らない人が批判するだけではなく、いわゆるリベラル、左派というか、運動に関わっている人でもヴィーガンのことを批判する、といったように細かく分断されている。ハラスメントの分科会の中でもハラスメントが起きるって、笑い話みたいですけど、事実、日本のハラスメントについて抗議をしていた弁護士がハラスメントの告発を受けた、ということが日本ではある。そういうことをやる手前にハラスメントとかが起きてしまう、というのがわたしの経験で言えることかな。

↑ヴィーガンキャンプでの活動家向けトレーニングの様子(8〜16分)が見れる


運動内でのハラスメント対策


——ロンドンでの活動家のトレーニングの中で、運動内のハラスメント対策みたいなことは行われているんですか?

エリー 過去数年でかなり増えてきたと思います。それもやっぱり実際にハラスメントがあったからで、かなり有名なケースもあるし、アメリカでも有名な団体のトップが実はセクハラをしてたり、#MeTooムーブメントはアニマルライツ運動のなかでも起きていて、そのためのトレーニングもあります。

 最近わたしたちはアジア7カ国で活動していますけど、アジアの中でもいろんな文化の違いがあって、話を聞いていると、性的マイノリティの方々とか、クィアの方々とか、女性であるというだけでハラスメントを受けている人は運動内にかなりいるので、そういう人たちがなるべく活動しやすい状況をAAAを通して作っていきたいな、というのが一つの課題でもあります。

生田 さきほどバーンアウトの問題が出たんですけど、今の話とつなげると、活動をやっていてもハラスメントで傷ついて離れる、ということがあると思うんですよね。あと、釜ヶ崎にいると、バーンアウトは日常的な問題で、もちろん現実があんまりハードなので「これ以上やってても無理です」と離れる人もいるけど、一方で、活動の中ですごく嫌な思いをした人がいて、傷ついてしまって離れる人もいるんですよね。結果的に残るのが、異常に心の強い職業的な活動家ばかり、という悲惨な状況になることもあります。そういうなかで、バーンアウトの対策はどうされているかな、というのは関心があったのでお聞きしたいです。

エリー 対策は難しいと思うんですけど、同じようなことは日本だけではなく、どの国でも起きています。プロフェッショナルな大きなNGOの働き方と、草の根運動のグループの人たちの働き方って全然違って、草の根運動の人たちは資金が足りないというのもあるし、何かアクションをした日の夜は、みんなで同じ家に泊まったりしなきゃいけなかったり、政策が整っていないので、その中で性犯罪が起きてしまうことが多発しているとは聞きます。だから、ちゃんとポリシーを作って、アクションに参加する人たち全員で、非暴力トレーニングのトレーニングを受けてもらったり性犯罪を起こさないためのポリシーを考えたりすることが必要で、AAAでもハラスメントに対するポリシーは初期に作りました。同じ部屋に泊まらないとか、そういったベーシックなことから始めました。

生田 最初に確認するかしないかでも全然違ってきますもんね。



グラウンドルールの共有


——この連続座談会をしている理由でもあるんですが、栗田さんが『ぼそぼそ声のフェミニズム』という本を出しているんですけど、そのなかで、「体力もなく、気力もない人間が活動に関われる様になる回路が見つけられたら、女性の貧困の解決への道が開かれるのではないか」ということを提案されていて、わたしは「ぼそぼそ声のヴィーガニズム」的な運動をしたいんです。体力ない、気力ない、病気を抱えていても社会運動ができることが選択肢としてみえるようになると、運動はもっと広がるんじゃないか、と思うんですよね。

 さっき生田さんが、「結局残るのがプロフェッショナルな職業的な活動家になっちゃう」というのをわたしも感じていて、動物の運動やっていると、気になることはちょくちょくある。でも、運動のなかで違和感を口にしても、「そんなの気にしすぎだよ」「流しなよ」といわれることが多い。動物のことって悲惨なので、いろいろなことをいちいち真剣に考えちゃうと大変だから、ある種流すのも大事、ということはわかりつつも、でもわたしが戦っているようなハラスメントというのは、小さな違和感を見逃さないようにすること、それをサインとして罠に嵌って行かないようにすることが大事なことだから、違和感を「気にしないで流す」ということがわたしはどうしてもできないんですが、そこら辺はみなさんどうしていますか?

エリー それも草の根運動とNGOなどの団体に属してる場合とではシチュエーションが違うと思うのですが、草の根運動の中で状況をよくしていこうというのはより大変だと思うんですけど、団体の中でできることというのはいくつかあって、AAAもなるべく上下関係が厳しくない団体にしようとしています。それがどれだけ反映されているかわからないんですけど、極力みんなの声が反映される職場というのをつくるようにしていて、匿名でできるアンケートを数ヶ月に一回行って、不満や不安がある人がいたら、それを言えるシステムを作ったりといった努力はするようにしています。

——さっき、ゆうきさんも言っていたようなキューブの活動では、事前に読んでくださいといったグラウンドルールとかはあった?

高橋 僕が始めたときは、チャプターを立ち上げる時に面接があって、ハラスメントとかも含めた問題についていろいろ聞かれたりしました。なので自分たちがキューブやる時も、ほぼ毎回、注意事項として話す内容がありました。

——そっか。井上太一さんが『動物倫理の最前線』中で、多分キューブの活動してる団体が、精神障害者の人を排除したということを書いていて、たしかにわたしがキューブに行った時はその傾向がちょっとあるなって思ったんだよね。ルールも共有されてないし大丈夫なのかな、っていう。わたしが行った時は何も説明もなかったから、ただテレビ持ってたんだけど、人に話しかけられた時に普通に話してたら「笑わないで」って怒られて。動物の状況の悲惨さが伝えられなくなるから笑ってはいけない、ということらしいです。でもそういうことも事前に聞いてないからびっくりして。運動を広めていく際に前提となるルールの共有とかがまだまだされてないところはあるな、という気はしました。

生田  3月に「ジェンダー」「貧困」「不登校」「障害」「動物」というテーマを扱う『10代に届けたい5つの“授業”』(大月書店)を出すんです。昨年、それぞれのテーマについて公開で授業を行いましたが、その時、やはりグラウンドルールを最初にある程度説明したんです。例えば、対面した人の性別を自分の思い込みで決めつけないようにしようとか、彼/彼女と言った言い方については慎重にしましょう、といったものです。やはりそれを事前に言うか言わないかで、参加者の意識の持ち方は全然違うので、一定の指針というのを最初に出すことは重要かなと感じます。

栗田 最近日本でも、グラウンドルールを示すのはようやく増えてきました。わたしは最初そういうグラウンドルール、あるいはセーファースペース(※ 運動の中で、デモやイベントの最中に嫌な目にあった人などが、一時的にメインのイベントから離れて安全を確保する場所)というものを最初に知ったのは2008〜2009年ぐらいだったと記憶してるんですけれど、日本だとセーファースペースはG8が北海道で行われた時の反対運動の中でつくられていました。グラウンドルールはもう少しあとかもしれないんですけど、ようやくいろんなところで匿名で増えていったような感じで、誰がメインで知らせたってわけでもなく、そういうことを言うようになってきた。そこはこの10年で、#MeToo運動とかの影響もあったのか、変わったことかなと思います。



変にオシャレにしない


生田 エリーさんは今スペインいるということですが、イギリスとスペインはかなり違うと思うんですね。スペインは闘牛やったりして、なんかマッチョなイメージがありますが、一方、最近アル・アンダルス(711年から1492年までイベリア半島にあったイスラム王朝の支配地域)の音楽の本(Holt, Jonathan. “Performing al-Andalus: Music and Nostalgia across the Mediterranean (Public Cultures of the Middle East and North Africa))を読んでいたら、元々スペインはムスリム、キリスト教、ユダヤ教、さらにロマの人々もいっぱいいて、中世ではそれらの平和共存がある程度実現していた、と描かれていました。そこから、21世紀の現在、当時のスペインが、ノスタルジアの対象というより、むしろあるべき世界の1つの形として再評価されている、ということでした。現実にスペインに住んでいてその多様性の問題やマッチョイズムってどうなんでしょう?

エリー すみません、スペインに移り住んだのが2週間前なのでまだそこまでわからないですけど、でも、今まで何度か来たことはあって、活動はかなり活発ですし、すごく多様性に富んでいます。わたしは小さい街に住んでるんですが、それでも多様性に富んでいて、それこそみんながセーフな感じで共存できるようなスペースはいっぱいあります。

 最近わたしの住んでいる街で見つけた100%ヴィーガンのバーがあるんですけど、 びっくりしたのが、日本やイギリスでは見たことないような、見かけは100%普通のローカルなバーで、値段も安いし、わたしとパートナーだけがヴィーガンのお客さんという感じで、他のお客さんは普通のローカルの方々で、多分ヴィーガンだと知らずに来ているようで、メニューの内容もローカルの人が食べるスパニッシュオムレットだったりで、それを多分みんな気づかずに食べている。その光景を見て、「あ、これこそ本当に文化に沿った活動の仕方なんだろうな」と思いました。変におしゃれにしようとせずにそういうのがアジアでも増えてけばいいなと思っています。

栗田 日本だと「居酒屋ヴィーガン」みたいな感じですかね。


*渋谷にはみんな大好き「ヴィーガン居酒屋 真さか」があるよ


↑スペインのサンクチュアリーの様子




→③カナダ編へ(もうすぐ公開)

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