マガジンのカバー画像

106つ、または107つ、ないし108つのジョーレアルの生首

69
逆噴射小説大賞に応募した「106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首」の長編連載版です。 連載期間:2019年11月2日~2020年2月4日/完結済
運営しているクリエイター

記事一覧

【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 1&2

【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 1&2

●1
 ジョー・レアルをぶち殺して首を持参した野郎には10万ドルくれてやる。
 そう俺たちが宣言したその翌日。さて、何人が首を持ってやって来たと思う?

 212人だ。

 持ち込まれたうちの半数は偽物だったが、あとはどっからどう見たってホンモノの、ジョー・レアルの首だった。
 信じられるか?
 俺には信じられなかった。バーにいる仲間の誰もがそうだった。

「ふざけやがってよッ!」
 ちびのトゥコ

もっとみる
【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 3&4

【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 3&4

【前回】

●3
 …………「手荒なことはしたくない」だそうだ。「素寒貧にはさせやしないから」だとさ。「金目のものをよこしてくれないか?」ときた!

 そして無事に、相手が無抵抗で金品を渡すとこう言い残して去る。

「どうも。悪かったね」

「どうも。悪かったね」だとよ。「どうも。悪かったね」だと!
 

 どういうつもりだ? 小綺麗な町でスタスタ歩いている、スソの長い服を着た野郎や女どもにでもな

もっとみる
【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 5&6

【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 5&6

【前回】

●5
 これははじめての酒場となると必ず行われるやりとりだった。ただこの儀式、トゥコの機嫌が悪いときだと店主を怒鳴りつける。時にはコップが2、3個割れたり、骨や歯が1本2本折れたりする。 
 一見の店で厄介ごとがおっぱじまらなくてよかった。昨日の仕事が上々だったおかげか。ブロンドと俺はトゥコを引き連れて、ホッとしつつ苦笑してテーブルに戻った。 

 昼の日中だからか、やけに広い店だから

もっとみる
【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 7&8

【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 7&8

【前回】

●7
「あれが例のジョーか」ブロンドは顎に手を当てて感心したように呟く。
「そうだ、あれがジョーさ」とトゥコは言ってから3杯目を一気に飲んで、「こいつはうめぇ!」と言った。
「あのシューッとした顔でよ、丁寧な態度でゼニカネを奪うだろう? 殺しもまずしないらしい。金持ちのお嬢さんにゃあ、“紳士強盗”つって愛好者もいるとかいねぇとかで」
 チッ、と俺は聞こえるように舌打ちをした。わざと荒っ

もっとみる
【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 9&10

【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 9&10

【前回】

●9
 …………廃屋のバー「ヘンリーズ」のドアの向こうから「こんばんは」と声がしたので外を見れば、もう夜がひたひたと迫ってきていた。

「ジョー・レアルの首を買ってくれるってのは……」と言い継ぐやけに穏やかな声を聞いた瞬間、俺にとって幸か不幸か、恐怖の糸がプツン、と切れた。そしてうんざりした気分へと移行した。投げやりとも言う。ヤケクソってやつかもしれない。

 いま持ち込まれそうになっ

もっとみる
【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 11&12

【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 11&12

【前回】

●11
 若い黒人はしつこく、しつこく、しつこく、ずっと相手の顔面をブチ殴り続けたのだ。
 信じられない体力と暴力だった。長年、樽の中に少しずつ溜められて発酵していた怒りが、一気に爆発したようだった。
 元からぶよついていた白人の顔面はパツパツに腫れ上がっている。その顔をまだ黒人は、最初と変わらぬ力強さで叩き続けている。
 タフな西部の男たちも人間だ。残忍なショーが好きとは言えどここま

もっとみる
【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 13&14

【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 13&14

【前回】

●13
「……なぜだ? 同等に扱うんじゃないのか?」
「違う。違う」
若い黒人は首を振った。
「忘れないためだ。俺は、本当は、他の奴らとは、同等じゃないって。させられてきたことを、絶対に忘れないためだ」
 ……どうやら相当にねじくれてしまっているようだ。もっとも、向こうで黒人として、ひどい扱いを受けて生きてきたのなら仕方のないことなのかもしれない。

「お前、名前は?」俺は聞いた。

もっとみる
【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 15&16

【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 15&16

【前回】

●15
 その叫び声にウエストが驚いてランプを取り落としそうになった。

「もうゴメンだ!! 理屈がどうあれな!! こんなムチャクチャがあってたまるか? どこもかしこもジョーの首だそ? 俺様にもセルジオにもブロンドにも、どれも本人の首に見える!! 外にいる奴が持ってるのがまたジョーの首だったらな!! 俺は気が狂っちまうよ!!」

 ほとんど一息に言うと、トゥコは力尽きたように床にぺたん

もっとみる
【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 17&18

【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 17&18

【前回】

●17
「そういう、悪いことを、いいことみたいに、見せる、見せかける、って野郎は、なんて言やぁいい?」
 ウエストは言葉を一個ずつ押し出すように、口をグネグネゆがめてダラスに聞く。やはり怒っている。こいつが本格的に怒ると面倒なことになるのだが……

 賢いからか人間の扱いを知っているのか、ダラスはウエストの怒りをうまいことなだめた。
「そういう“野郎”は…………“偽善者”、かな」
 ダ

もっとみる
【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 19&20

【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 19&20

【前回】

●19
 言い出したブロンドが、近場にあったポテトを入れるような袋に入った「首」を持った。そのすぐそばにある布の袋も手に取る。
 ウエストとダラスがまず腰を上げ、俺も立ち上がった。だが俺は、首を直接触る気分にはなれない。その代わりではないが、袋入りの首だけをできるだけ持って店の奥へと移動した。
 いくつかの袋には血がにじんでいて、手のひらがぬるぬるした。
 モーティマーはどこからか出し

もっとみる
【第1巻】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首【まとめ読み版】

【第1巻】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首【まとめ読み版】

106つ、または107つ、
ないし108つのジョー・レアルの生首
【第1巻】

 ジョー・レアルをぶち殺して首を持参した野郎には10万ドルくれてやる。
 そう俺たちが宣言したその翌日。さて、何人が首を持ってやって来たと思う?

 212人だ。

 持ち込まれたうちの半数は偽物だったが、あとはどっからどう見たってホンモノの、ジョー・レアルの首だった。
 信じられるか?
 俺には信じられなかった。バー

もっとみる
【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 21&22

【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 21&22

【前回】

●21
 …………俺たちがジョー・レアルを狙わざるを得なくなったきっかけ。そもそもの因縁。それは去年のある日。まだ「ヘンリーズ」のドアが今みたいに壊れていない時期に持ち込まれた。
 トゥコがニヤニヤして鼻をひくひくさせながら「ヘンリーズ」に入ってきた。バカみたいなチョビ髭もひくついている。
 奴は町に酒だの食い物だのを買いに行っていたのだが、情報か噂かジョークを仕入れてきた様子だ。この

もっとみる
【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 23&24

【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 23&24

【前回】

●23

 …………………………。

 結婚!!
 義賊だか何だか知らないが! 
 盗っ人が! 結婚!!

 話を聞いてきたトゥコが笑いながら「なぁ! 結婚だとよ!!」と言った。
「悪党がいっちょまえにか?」ウエストが腹の底からバカにした調子でなじりながら笑った。
「盗んだ金で盛大な結婚式でもあげるつもりか?」俺も久しぶりに笑いまくった。
 ジョーと、名前も顔も知らない女が、祭りにやっ

もっとみる
【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 25&26

【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 25&26

【前回】

●25
 それからが騒動だった。
「殺してやる」としか言わなくなったブロンドはくるりと反転して出入口に向かう。
「いけねぇっ! 違うんだよブロンドよぅ!」
 トゥコが走っていって、滑るようにブロンドの前に膝をつく。
「噂! ウワサ! 噂だからよぅ! そういきり立つなってよ!」
「そうそう、まだはっきりとはしないんだからな」俺もすぐさま追いついて脇に立ちなだめた。
「まぁ怒るなって!」反

もっとみる