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【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 19&20

【前回】

●19
 言い出したブロンドが、近場にあったポテトを入れるような袋に入った「首」を持った。そのすぐそばにある布の袋も手に取る。
 ウエストとダラスがまず腰を上げ、俺も立ち上がった。だが俺は、首を直接触る気分にはなれない。その代わりではないが、袋入りの首だけをできるだけ持って店の奥へと移動した。
 いくつかの袋には血がにじんでいて、手のひらがぬるぬるした。
 モーティマーはどこからか出した布切れでつまむように首を持って、余った袋に突っ込んだり布で包んだり木箱にしまったりしている。いつものように無口なままだったが、眉間に深く、きつく皺が寄っていた。
「ちくしょう」立ちすくんでいたトゥコが一言毒づいて動いた。「ちくしょう」もう一言毒づいた。「ちくしょう」さらに一言毒づいて、それからやっとテーブルを横倒しにしたり袋を集めはじめたりした。

 106を6人で割ると……。俺は集めるべき生首を勘定しようとした。だがわからない。そういうことはダラスの役目だ。
「切り上げて17.7……まぁ18だね」太った体でふうふう動きながらダラスはすぐ答えた。
「106は6じゃ割りきれない。17のあとに点がついて、それから6がずっと続く。17.666666……」
「いつまでもか?」
「あぁ、アメリカがなくなっても人間が消えていなくなっても、割り切れずに6は続く。永遠に」
 俺は大昔に読んだ聖書を思い出していた。666は悪い数字だったはずだ。いや6666だったか? 66666か?
 とにかく6が並ぶのはよくないことだけは記憶している。そうだ、こんなのはまったくよくない。同じ人間の生首が100と6つも並ぶなんてのは、悪の所業としか言いようがなかった。
 つまるところ、ノルマはひとり17だか18だったので5分とかからず、首集めと首隠しは終わった。

「……よし。おい、待たせて悪かったな。入ってくれ」
 ブロンドが外の男を呼び込んだ。


●20
夜の寒さのせいか静けさのせいか。朝や昼の時よりも厭な、ぎぃ、という音を響かせてドアが開いた。
 わずかに紫色の明かりの残る暗い空を背景に、男は木箱を抱えて立っていた。
 
「セルジオよォ、俺はなァ」トゥコが俺の耳元で熱に浮かされたみたいに囁いた。
「次の首がジョーのもんだったら、ぎゃあっと叫んで逃げちまうかもしれねぇ」
「俺もだよ」俺は愚痴に乗ってやった。「次のがジョーのだったら、酒瓶で殴り潰しちまうかもしれない」
「……奥に置いてあるやつはダメだぞ。とびっきりのやつなんだ」トゥコが俺をたしなめた。「殴るならカラの瓶にしてくれよな」

「どうも、こんばんは……」
 男はおずおずと、および腰で入ってきた。
 それと合わせるように、冷たい風が一度だけ、外から吹き込んできた。男の服がはためいた。

 首を持ち込んできた213人目の男は、メキシコ人のポンチョとかいう服のように、黒い布の真ん中に穴を開けたやつから頭を出していた。
 ただその布がドでかい上にボロボロだった。地面に布を引きずりそうだ
 寒いからか、頭から薄汚れた布をかけている。暗くて顔は見えないが、黒く汚れた首や顎が見えたから、浮浪者の類だろう。
 抱えているのは子供がオモチャでも詰めておくような木箱だ。腕の力の入り方に、その木箱の重さを感じた。人の頭くらいの重さ。

「これなんですがね……実は……」 
「話は後だ」ブロンドが言う。「悪いんだが、あんた自身が箱から出してもらえないか。そこの丸いテーブルの上にな……」
「この上に……ですか?」
「あぁ、そうだ」

 男はチラチラと俺たちの様子を眺めていたが、素直にテーブルの上に箱を置いた。

 ドン。

 今日、軽く100回は聞いたあの重みの音だった。俺はたまらず眉をしかめた。そばに座るトゥコも息が荒い。

 男は箱の蓋を開けて、手を突っ込んで、ゆっくりと中身を取り出した。

【続く】

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