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コミpoとAIによる挿絵小説(9)

 第三十三話

 ゲレオンと別れた私はキューブ・ゼロの奥深くへと潜っていく。そこで密かにどこかと通信中の人物を見つけ声をかけた。
「シェリー」
「サクラっ!?」
 シェリーは心底驚きつつ言った。
「違うの! 私はただ……」
「誤魔化さなくていい。あなたがダン・シエル一派と通じていることは、承知の上よ」
 ズバリと指摘する私にシェリーは、タジタジだ。必死に反論を試みるものの、私が示す証拠を前にぐうの音も出ない。
 やがて、堪忍したように白状した。曰く、肉親を人質に取られ脅されていたらしい。
 涙を滲ませるシェリーに私は続けた。
「シェリー、別に今まで通り振る舞ってくれて構わない。あなたを訴えるつもりは一切ないしね。ただ一つだけ協力して欲しい」
「協力?」
「えぇ、あなたにしか出来ないことよ」
 私はそっとシェリーに耳打ちした。はじめこそ怪訝な表情を見せていたシェリーだが、その狙いを悟るや驚きとともに私に目を見開いた。
「アンタ、本気で言ってるの?!」
「もちろんよ」
 即答する私にシェリーは、しばし考慮の後、「分かったよ」と同意を示しつつ、こう問うた。
「サクラ、何がアンタをそこまで駆り立てるの? 政治信念?」
「そんな悪趣味なものに関心はないわ。そもそも私とシロウは、大戦に振り回された挙句、場末に追いやられた負け組だからね。かつて存在したニホンと同じ。高度経済成長を知らない子供達ってとこよ」
 聞き役に徹するシェリーに、私はなおも続ける。
「私達の切実な関心はね。たとえ将来に大きな不安を抱え右肩下がりの社会であっても、しっかり稼いで成功すること。それが叶う世の中にすることよ。ただ、そのためには力がいる。だから、アマテラスと契約した」
「その結果、サクラは自我を失うことになるのよ」
「もちろん、その覚悟は出来てる。これでも皇族の末裔だからね」
 覚悟を示す私にシェリーは言った。
「サクラ、アンタはアマテラスというより、スサノオね」
「古事記の闘神? フフッ、どうやら乱世に身を置く星のもとに生まれてきたみたいね。望むところよ」
 両手を組んで指を鳴らす私にシェリーは苦笑しつつ、コードが記された電子メモを見せた。
「ここに行けば、ダン・シエルに会えるのね?」
「えぇ、私がサクラを騙してこの座標コードに向かわせたって筋書きよ」
「分かった。オーケーよ。あとは任せて」
 私は電子メモをインプットするや、単身でその場を立ちかけた。そこへシェリーの声が響く。
「サクラ!」
 振り返る私に、シェリーは複雑な表情を見せつつ、両拳を合わせ一礼とともに言った。
「武運を祈ってる」
「ありがとう。シェリー」
 私は見送るシェリーに手を振り、ダン・シエルとの闘いへと赴いた。

 そんな私にアマテラスが言った。
〈単身で乗り込むとは、随分と大胆じゃない。思い切ったわね〉
 ――えぇ、退路は全て断ったわ。これであなたと私は完全に一心同体。
〈なるほど、ね……〉
 ここでしばしの沈黙が流れる。不審に思っていると、アマテラスが思わぬ問いを投げかけてきた。
〈サクラ、あなたは怖くないの?〉
 これには私も沈黙せざるを得ない。最強と名高いダン・シエルとの戦いに一人で赴く上に、アマテラスとの融合で自我を失うのだ。怖くないはずがない。
 だが、敢えて震える手を拳に変えながら言った。
 ――私は恐怖には行動で応じる。次への一歩が自信と勇気を生むから。
 そこには、多少の強がりやカラ元気を含んでいる。だが実際、そうやってこれまで危機と大戦を凌いできたのも事実なのだ。
 そんな私にアマテラスは、さらなる問いを重ねた。
〈サクラ、あなたは私との融合で大いなる力を得る。支配者と呼ぶべき存在に、ね。この世の統治をどう考えてる?〉
 ――さぁ、分からないわ。私はシロウみたいに学がないから。
 己の無学さを認めた上でこう続けた。
 ――ただ統治に方法はあれど理想はない。民主制にせよ君主制にせよ一長一短を抱えている。ならその時々で最適なものを選んでいくべきだと思う。
〈つまり、独裁も許容する、と?〉
 ――えぇ、ただ権力には……何というか消費期限みたいなものを感じる。ナマ物と同じで腐敗を生みやすい。それが絶対的な権力ならなおさら。結局、最後の敵は自分自身よ。この難敵といかに闘っていくかだと思ってる。
 率直な思いを晒す私に、アマテラスは沈黙の後、思わぬ答えを返してきた。 
〈いいでしょう。サクラ、あなたにチャンスをあげます。私が持つ全能の力へのアクセスを認めてあげる。それに対する見返りは求めない〉
 ――え、じゃぁ私の自我は?
〈継続よ。その上であなたがどれだけ闘えるか見させてもらうわ。どう? いい条件でしょう〉
 アマテラスの提案に私は驚きを隠せない。
〈オーケーね? じゃぁ決まり。早くアクセスしなさい。私の気が変わらないうちにね〉
 ――分かった……。
 私は意を決するや瞳を閉じ、体内に宿るアマテラスの拘束を解いた。その途端、頭に凄まじい量の情報が流れ込み始めた。同時に体にこれまで感じたことのない程のパワーが宿るのを実感している。
 銀河の全てを統べらんとする溢れんがばかりのパワーだった。



 どれほど時間が経過しただろう。気がつくと私は真っ裸で広大な海に漂っていた。ただの海ではない。銀河に張り巡らされた情報ネットワークの海だ。

 ――私は今、人類が築いた叡知にアクセスいている。
 恐るべきは、その情報量とエネルギーだ。銀河の全てを統べる熱量を保っている。その気になれば文明を一つ、消滅させる程である。
〈よくぞ来た。我が娘よ〉
 不意にかかる声に振り返った私は、思わず声を上げた。
「父さん!?」
 だが、そこに姿はない。そもそも父はあの砂漠に空いたクレーターの中で死んでいる。どうやら私がここに来ることを想定し、概念のみを仮想人格プログラムとして、残していたようだ。
「父さん。あなたはそこまでして、私に何をさせたいの?」
 私の問いに父が応じた。
〈銀河をサイバーで統括する基幹ソフトを産み出して欲しい〉
「OSってこと?」
〈そうだ。前の大戦は、サイバー空間に集うユーザーの暴走から引き起こされた。その際たるがキューブ・ワンだ。これが破壊された今、一から銀河を統べるシステムをお前が宿らせ、殺伐としたサイバー空間を安定したものに変えるんだ。それともう一つ。友を……ダンを救ってやってくれ〉
「どういうことよ?」
 首を傾げる私に父は打ち明けた。
〈実はな。本来、お前に託した役割はダンが成すはずだったのだ。だが、手に入れた力を前に人が変わってしまった〉
 ――なるほど。そう言う事か……。
 私は改めて権力が持つ魅惑の妖しさを感じた。
〈今、ダンは死ぬことすら許されず、暴走し続けている。奴を解放してやってくれ。そして、この銀河に安定をもたらすのだ。ニホンの名の下に、な……〉
 そこで父の仮想人格プログラムは、完全に消滅した。同時に情報ネットワークの海が見る見るうちに干上がり始めた。
 海底から現れたのは、数十体の猛獣プログラムだ。私を敵性と認識したらしく、周囲を取り囲んで威嚇を繰り返している。
「上等よ。返り討ちにしてあげるわ」
 私は指をパチンと鳴らし、身なりをいつものブラックバードの姿に切り替えるや、機先を制すべく攻勢に打って出た。
 そこで実感したのが、己に宿ったパワーの凄まじさだ。これまでとは比べ物にならない程のエネルギーを有しているのである。

 ――これがアマテラスと融合した私の力……。
 私は驚きを隠せない。もはや目の前の猛獣プログラムを倒すことは赤子の手を捻るが如く、容易い。ついに全てを討ち果たしてしまった。不意に背後から拍手が起きる。
 振り返ると依頼人のアーロンが満足げに立っている。
「素晴らしい。貴殿こそ次の世を担うシステムにふさわしい」
 ニンマリほくそ笑むアーロンの後ろには、特殊部隊と思しき完全武装の私兵がひしめいている。
「アーロンさん。これは一体、どういうつもり?」
「どうもこうもありのままですよ。ご存知ないかもしれませんが、あなたのパワーをめぐって今、銀河中のあらゆる勢力が水面下で蠢いている。まさに貴重な……大金を呼び込むサンプルだ」
「つまり、あなたの狙いは私だったってこと?」
「お察しの通り。ダン・シエルに次ぐ新たな基幹システム。そのアーキテクチャーを担うのがサクラさん、あなたです」
「お断りよ。私はシステムでもプログラムでもない。血も涙も通う生身の人間よ」
「残念ながら、それは違います。あなたには多くを費やした。その回収をさせていただく」
 そこでアーロンは、背後の兵に合図を送る。どうやらあらかじめ私の回収を目的に編成された部隊のようである。たちまち包囲網を構成し、銃口を突きつけ狙いを定めてきた。
「やれ!」
 合図を送るアーロンだが、それは思わぬ形で裏切られることとなる。完全武装の私兵から数人が、あろうことか私にではなく、アーロンに襲いかかったのだ。
「な、何をする!?」
 身柄を取り押さえられ困惑するアーロンに、その私兵達は武装マスクを外した。中から現れたのは、ゲレオン達サイバーピースの面々である。
「げ、お前達は……」
「悪いなアーロン。お前には地球共栄軍からお達しが来ている。神妙にお引き取り願おうか」
「ふざけるな! 何をしている。私を助けるのだ」
 アーロンの声に他の私兵が、はたと我に帰りその場を抑えにかかる。一帯が敵味方入り混じるカオスと化す中、ゲレオンは叫んだ。
「サクラ、ここは任せろ!」
 これにシェリーやひょっとこ姉弟も続く。お前には倒すべき敵がいるはずーーそう叫ぶ面々に私は込み上げる気持ちを抑えきれない。
「皆、ゴメンっ!」
 私は皆に詫びを入れるや、瞳を閉じ精神を集中させた。狙いはパンドラの一筆だ。たちまち周囲が光に包まれ、私の体は転移した。

 第三十四話

 光の先に現れたのはリングだ。そこに佇む人影こそ、全ての根源たるダン・シエルである。
 ただその目は赤く光り、己の力を制御出来ず暴走している。手招きで挑発するその様は、まさに破壊神そのものだ。

「ダン・シエル、私が相手よ!」
「よかろう。ファイター同士、蹴りをつけようではないか」
 ダン・シエルはほくそ笑むや、対峙する私に猛獣の如く襲いかかってきた。その衝撃を逃げることなく素手で受け止めた私は、ダン・シエルとの力勝負に打って出た。
 互いの手を握り締め一歩も引かない攻防に、一帯の空気は限界点を突破している。銀河中のユーザーも、その成り行きを固唾を飲んで見守っていた。
 ここで勝負が思わぬ方向に転がる。ダン・シエルが大きく姿勢を崩したのだ。
 ――力勝負に勝ったっ!
 私はここぞとばかりに攻めかかるものの、待っていたのはダン・シエルのえげつない膝蹴りだった。それも土手っ腹にカウンターで叩き込まれた私は、あまりの苦しさに膝をついた。
 だが、崩れ落ちることは許されない。あろうことかダン・シエルは、苦悶に喘ぐ私を抑え込み首相撲へと繋げた。
 ――くっ……。
 流れるような攻めにペースを握られた私は、必死にダン・シエルの拘束からの脱出を試みるものの、蟻地獄の如くズルズルと引き摺り込まれていく。
 ――これがダン・シエルと私の経験の差……。
 私はその巧みな試合運びを身をもって実感している。無駄がなく巧妙で、それでいて真綿で首を絞めるが如く陰湿さに満ちているのだ。
 着実に体力を削られていく中、私は一つの賭けに出た。ゲレオン譲りの囁き戦術である。
「ダンさん。あなたのサイバー統治を誰が望むのかしらね」
 これにダン・シエルがピクリと反応した。脈ありと踏んだ私はさらに続ける。
「あなたも私も大戦で大切なものを失ったわ。でもね、それはもう戻って来ない。諦めるしかないのよ」
 矢継ぎ早に冷酷な現実を浴びせる私に、ダン・シエルは明らかに不快感を示している。冷静さを失い感情的になったところを見計らった私は、一気に勝負に出た。
 ――ここだっ!
 意を決し残る全ての力を解き放ったのだ。これには、流石のダン・シエルも意表を突かれたらしい。機を見た私は、巧みにダン・シエルの拘束から逃れるや、お返しとばかりに得意の跳び膝蹴りをかました。
 ――完璧に決まったっ!
 手応えを実感する私だが、ダン・シエルは崩れない。必死に耐え忍んでいるその様は、生きる伝説と称えられるのにふさわしいものがあった。
「小癪な。我が力を思い知るがいい」
「上等よ。ダン・シエル」
 吠える私達は互いに腕を突き出し、集約したエネルギーをぶつけ合った。一帯にまばゆい光が溢れていく。双方とも一歩も引かないその様は、まさに壮絶な消耗戦だ。
 これに私は舌打ちする。

 ――まずい……。
 懸念通り、飽和状態となったエネルギーは、衝撃波となって炸裂した。その余波をモロに受け、私とダン・シエルはともにロープ際まで吹き飛ばされた。
 ロープの反動を受け前に突き返された私はつんのめりつつ、跳ね返ってくるダン・シエルの右ストレートに左フックで合わせた。いわゆるクロスカウンターだ。
 半ば賭けに打って出た私だが、これが吉と出た。拳がダン・シエルの頬を見事に捉えたのだ。これには、流石のダン・シエルもかなわない。
 すかさず私はダン・シエルにラッシュをかけた。その一発が見事にクリーンヒットし、ダン・シエルは糸の切れた操り人形の如く膝からマットへ崩れ落ちた。勝負あり、である。
「勝った……」
 ネットユーザーから湧き起こる歓声に、私は拳を突き上げた。だが、その様相は突如として急変する。振り返るとダン・シエルが、マットに転がりながら銃を突きつけたのだ。
 ここは仮想空間に過ぎないものの、受けたダメージは確実に本体へと波及する。だが、一番のショックはあのダン・シエルが素手を捨て、武器に頼ってきたことだ。
「ダンさん。それ、あなたらしくないわ」
 諦観気味に語る私だが、ダン・シエルの耳には届かない。その引き金に指がかかろうとした矢先、突如、私を庇う人影が現れる。その姿を確認した私は、思わず声をあげた。
「師匠!」
 師匠は私を庇いつつ、ダン・シエルを諭す。
「ダンよ。お前は負けたのだ」
 さらにリングの外から別の声が響く。
「ダン・シエル。晩節を汚すぜ」
 振り返った視線の先にいるのは、ヤマト社を率いるタケル社長だ。その背後には、アーロン一派を駆逐したサイバーピースの面々が揃っている。
「皆。一体、どうやって? この場所にはアクセスキーが必要なはず……」
「そんなもの、この僕にかかればイチコロさ」
 笑って答えた生意気な声の主は、我が弟にしてパートナーを組むシロウだ。その傍らには、ジョン兄も伴っている。
 事ここに至りダン・シエルも観念したらしい。銃口を己のこめかみに移動し、迷う事なく引き金を引いた。
 銃声とともにダン・シエルの表情が見る見るうちに変わっていく。光る赤目は元の青眼に収まり、かつての穏やかなものへと戻った。
 そんなダン・シエルに私はゆっくり歩み寄った。
「サクラ……」
 ダン・シエルは、微笑とともに震える手を差し出してきた。その手を取った私にダン・シエルは囁くように言った。
「あとは頼んだ……私みたいにはなるな……」




 かくしてダン・シエルは、皆に見守られながら安らかに息を引き取った。それは、事業家として名をなしつつも、戦乱に翻弄され己を失った一ファイターの最期だった。
 気がつくと、私の目に涙が溢れている。果たしてダン・シエルの人生は幸せだったのだろうか――そう考えると胸が締め付けられそうになるのだ。
 そんな心中を察した師匠が言った。
「案ずるなサクラ。ダンの辿った道は修羅の道、奴は見事にその門をくぐった。その上でお前に託したのだ。今はそれを祝ってやろう」
 私は黙ってうなずく。そこへゲレオンが問うた。
「それでサクラ、お前はこのサイバー空間をどうするつもりなんだ?」
「そうね。私も……そして、ダンさんも……いやここにいる皆は、あの大戦で大切な何かを失った。私はこのサイバー空間を騒乱の場でなく融和の輪としたい」
「キューブ・ワンのOSに反戦のアーキテクチャーを宿らせるってことね。でもサクラ、人類史上に永遠の平和なんてない。あなたがいくらメッセージを仕組みに取り入れても、いずれ騒乱の世はやってくるよ」
 諭すシェリーに私は「それでいい」とうなずき続けた。
「永遠の平和が無理でも、数十年の安寧なら出来るでしょ。皆が凝り固まった偏見を捨て寛容の心で和をなせば、銀河はもっと大きな幸福を得られるはず」
「綺麗事だな」
 ぶっきらぼうなアキムに私も否定はしない。
「分かってる。でもその綺麗事は闘った先に見出せるはずなの。ダンさんは私達ファイターにそれを求めた。私はその思いに応えたい」
 決意を示す私に皆は黙っている。その沈黙を是として捉えた私は、シロウとジョン兄に微笑で問うた。
「二人とも、用意はいい?」
「分かってるよ、姉ちゃん」「相変わらず人使いの荒い奴だ」
 シロウとジョン兄はぼやきつつも、準備に取り掛かる。銀河中に張り巡らされたサイバー空間に、私の思い描く未来をOSとしてインストールさせるのだ。
 一見、不可能とも思えるこのミッションをこの二人は、難なくこなした。
「姉ちゃん。いい? これから僕らは銀河中のサイバー空間に再起動を掛ける。システムが立ち上がった先に宿るOSは、姉ちゃんが思い描く設計思想だ」
「オーケーよシロウ。ジョン兄、はじめて頂戴」
「分かった。いくぞ」
 ジョン兄はうなずき基幹システムのロックを解除する。私は瞳を閉じ、メッセージを流し込んでいく。それはこの銀河に新たな秩序が立ち上がった瞬間だった。

 第三十五話

 一連の騒動から一ヶ月が過ぎた。一時はカオスの極みにあったサイバー空間だが、私達の奮闘により秩序を取り戻している。
 そんな中、惑星ベガスへと帰星した私はシロウと事務所でチェスに興じている。
「姉ちゃんもバカだよ。何で全能の権力を与えられながら、それを返納したのさ?」
 以前に中断したチェスを再開させながら、シロウがぼやく。私は苦笑しつつ返答した。
「いいの。それでも自我は残った。第一、あんな力、私の手に余るわ」
「へぇ、そんなもん?」
「えぇ、私達はやるべきことをやった。あとは他の人でも出来る。そうやって託していくべきなのよ。それに銀河一サイバー武道会もゲレオンにリベンジしなきゃいけないし、ダン・シエル杯の王座も守らなきゃいけないでしょ」
「それとこれは別さ」
「同じよ。それはさておき……」
 憤慨するシロウに私はほくそ笑みつつ、チェス駒をキングの前に配し、宣言した。
「チェックよ」
「あ……」
 思わぬ形で揚げ足をすくわれシロウは、頭を抱えた。
「私の勝ちね」
「いや、まだだ……ただ、この勝負はしばらく置いておこう」
「はぁ!?」
 勝手に中断を宣言するシロウに、私は抗議の声をあげる。半ば取っ組み合いとなる中、ノックの音が鳴った。どうやら新たな依頼が来たらしい。
「シロウ、しばし休戦よ」
「オーケー、そうしよう」
 私達は互いの負けず嫌いを封印し、次に始まるであろうミッションへと気持ちを切り替えるのだった。(了)

#創作大賞2024 #オールカテゴリ部門

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(9)https://note.com/donky19/n/nbe0a9637fc64

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