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コミpoとAIによる挿絵小説(8)

 第二十九話

 サイバー空間の復旧は未だ目処が立っていない。そんな中、地球で潜伏中の私達は異母兄弟のジョン兄と連絡を取ることに成功した。
「おいサクラ。一体、どうなってるんだ?! サイバー空間は壊滅寸前、しかもその原因は、お前だというじゃないか」
 携帯端末越しに声をあげるジョン兄に、私はかぶりを振る。
「違うの。私は騙されたのよ」
 シロウらとともに一連の流れを説明する私だが、なかなか理解が得られない。ただ、父に何かを仕込まれ、ダン・シエルに人柱にされたところをひょっとこ姉弟に救われ、ゲレオンに匿われた現状だけは伝わったようだ。
 ここでゲレオンが目配せを送ってきた。うなずく私は、徐ろに切り出す。
「ジョン兄、サイバー空間でサイバーピースの面々と合流出来ない?」
「あのなぁ、サクラ。お前もキューブ・ワンの惨状は知っているだろう?」
「えぇ、でもジョン兄なら何とか出来るはず。以前使った……確かキューブ・ワンの基礎段階でテスト用の裏コードがあったでしょう」
「キューブ・ゼロ、か?」
 ジョン兄は、ため息混じりに続けた。
「確かに使えなくはないがな。非常に不安定だ。下手すれば帰って来れなくなるぞ」
「分かってる。でも、今はそこにすがるしかないの」
 懇々と必要性を説く私に、ジョン兄が折れた。
「分かった。そこまで言うなら何とかしよう。ただし、私は資本主義者だ」
 その意を察したシロウが五本の指を開く。私はうなずきジョン兄に切り出した。
「前金で片手分、ブラックバード社経由で払うわ」
「五万ギルか。まぁいいだろう。特別に受けてやる。一週間程時間をもらおうか。ただし、無理筋の仕事だ。あまり期待はしないでくれ」
 そこで通話は一方的に途切れた。
「出だしは上々ってとこ?」
 話しかけるドロシーに私はうなずく。ここで傍らのオズが意気込んだ。
「サクラ。本当の勝負は、これからだぜ」
「もちろんよ。シロウ、次は何をすればいい?」
「ブラックバード社を使う」
 軍師のシロウはノート端末を広げ、複雑なスキームを組んで見せた。皆も固唾を飲んで見守流ものの、その込み入った内容に理解が追いつかない。
 ただシロウが大勝負をかけようとしていることは分かった。
「よし。皆、やるぞ」
 ゲレオンの掛け声に皆が応じ、それぞれの役割を果たすべく散っていく。それは私達がはじめて打って出た反撃の狼煙だった。
 ★ 


 タケル社長のコネクションをフル回転させ、ブラックバード社を通じて汚れた裏の世界から取りうる限りのレバレッジで資金をかき集めた。
 全てはシロウが描く戦略下での行動だ。その一方で私は、例の分身たる擬似人格アマテラスと闘っている。頭から足元まで寸分狂い私の姿をしたアマテラスは夢に現れては、こう唆すのだ。
〈反戦、非攻、理念は大いに結構。ただそれを成すには一定の力がいるわ。そして、その力には魅惑の怪しさが秘められている〉
「どういうことよ?」
 疑問を呈す私にアマテラスは人差し指をかざし、私の脳内に情念を流し込んだ。始まったのは、人類がこれまで経験してきたあらゆる戦いの記憶だ。繰り返され悲劇が走馬灯のように頭の中を駆け抜けていく。
 厄介なのは、争いを食い止めるための力が逆に争いを加速させてしまうことだ。これまで非攻反戦を貫いていたはずなのに、いざ自分にその力が宿ると眠っていた征服欲が叩き起こされてしまう。
 ――ダン・シエルも然り、力が持つ魅惑にの妖しさ取り憑かれ、当初の目的を失ってしまったのね。
 私は理解を示しつつ、己に問う。
 ――果たして私はどうなのだろう。
 そんな私の葛藤を見透かしたようにアマテラスは問うた。
〈サクラ、私と一体になれば、あなたにも力が宿るわ。憎き戦争を撲滅出来るかもしれない。さぁどうする?〉
「大きなお世話よ。アマテラス、アンタの力なんて借りなくても十分戦える。私は一人じゃない。皆が、仲間がいる」
 声をあげる私にアマテラスは、冷笑をたたえたまま言った。
〈そう。随分とご立派なこと。でもそんなあなたにこそ教えてあげる。賭けてもいい。あなたは必ず私に助けを求めるわ。その時を楽しみに待っているわ。じゃぁね〉
 アマテラスは冷笑しながら、私の前から去っていった。



 第三十話

「お望みのキューブ・ゼロが出来たぞ」
 携帯端末に連絡をよこすのは、異母兄弟のジョン兄だ。
「オッケー、助かるわジョン兄」
「あぁ、ただ不安定さは残るがな」
 ジョン兄は釘を刺すものの、私は歓喜を抑え切れない。幾つかの注意点の説明を受けた後、皆とともにVR機器を装着し、仮設サイバー空間であるキューブ・ゼロへとダイブした。
 示し合わせた場所に赴くと、サイバーピースの面々が揃っている。
「遅いぜサクラ、ゲレオン、シロウ」
「ひょっとこもいるのか。これ以上の裏切りは勘弁だぜ」
「ホント、久しぶりね」
 アキム、ソロ、シェリーらに出迎えられた私達は歓喜に沸いている。そんな中、ゲレオンが言った。
「再会を喜ぶ間もなくて申し訳ないが皆、事情は聞いていると思う。俺達はこれまで仰いでいたダン・シエルと闘うことになった。作戦だ。シロウ、はじめてくれ」
「オッケー。これは今、僕らが取りうる最大限の策だ。決して楽な闘いではないが聞いて欲しい」
 シロウは早速、皆の前に作戦図を浮かび上がらせた。段取りはこうだ。
 このキューブ・ゼロを使って各々が割り当てられた場所におもむく。そこで壊滅状態にあるキューブ・ワンを再開させるべく、シロウが組んだ復活プログラムを作動させる。その上でパンドラの一筆へ赴き、皆でダン・シエルらとの決戦に挑むという寸法である。
「名付けて不死鳥大作戦。皆、異議はない?」
 シロウの呼びかけに皆は同意を見せている。それを見たゲレオンが言った。
「よし、じゃぁかかろう。武運を祈る」
 円陣を組んだ私達は、掛け声とともに各々の持ち場へと一斉に散っていった。



 まずはじめに反応があったのが、ゲレオンだ。キューブ・ゼロ上で上層部の好戦派を抑え込むことに成功した。
 さらにアキム、ソロ、シェリーらサイバーピースの面々もこれに続く。ゼロサム兵器によるサイバー空間へのテロが、ダン・シエルによるものであることを伝え、真実を訴えるとともに復活プログラムでキューブ・ワンの再構築を図っていく。
 一方、私は現実世界でシロウとともに作戦の成り行きを見守っている。
「今のところ、ほぼ計算通りだね」
 進捗を追うシロウに私も同意する。当初こそ疑いの目を向けられた私達サイバーピースの面々だが、皆の粘り強い説得交渉により、真実を露わにしていった。
 ――これなら、何とかなるかも知れない。
 私は微かながらも光明を得た思いでいた。



 作戦開始から十時間後、一つの誤算が生じる。サイバーピースの面々と連絡が取れなくなったのだ。
「どうなっているの!?」
 困惑する私はシロウに迫るものの、明確な回答が得られない。だが調べを進めるうちにサイバー空間を完全に支配下に置くダン・シエルによって、連絡手段を寸断された事実が判明した。
「まずい。ダン・シエルの力は想像以上だ……」
 シロウは頭を抱えている。何度も接続を試みたものの、ダン・シエルが構築した分厚い妨害網に憚れままならない。
 ――このままでは、作戦が失敗してしまう。
 危機感を覚えた私の脳裏をよぎるのは、分身たるアマテラスだ。奴はこう言った。互いに融合し一体になれば、この私にも力が宿る、と。
 だが、上手い話には裏があるものだ。
 ――おそらくこれは、私をアマテラスの監視下に置く罠だ。それは分かる。分かるけどやはり、私は皆を見捨てる事が出来ない。
 そんな私の意を察したらしいシロウが苦々しく言った。
「トロッコ問題だ……」
「何それ?」
「功利主義と義務論の対立を扱った倫理学上の問題さ。仮に線路を走っていたトロッコが制御不能になったとして、分岐器を使えば前方の作業員五人を救えるが、別路線の一人が轢かれて死ぬ。功利主義によれば、これが正義となる」
「つまり、皆を見殺しにして、銀河をダン・シエルから救う方を選ぶべきって例え話ね」
 うなずくシロウに私は頭を抱えた。シロウの理屈は確かに分かる。おそらくそれが正しいのだ。
 だが、そこで私は冷徹になる事が出来ない。散々、悩んだ私が下した決断は、アマテラスとの契約だった。
「ちょっと待ってよ、姉ちゃん。自分がやろうとしてること、本当に分かってる?」
「もちろんよ。シロウ。多分、これが私の純粋な自我でアンタと会話出来る最後だと思う。あとは私とアマテラスの融合体として、別人格となるわ」
「何がアマテラスだ。こんなのメフィストじゃないか!?」
「メフィスト?」
「ゲーテのファウストが題材の悪魔の事。姉ちゃんは、本当にバカだよ!」
 目一杯罵るシロウだが、それが愛情の裏返しであることは、十分に伝わった。姉弟だからね。その上で私は、あらかじめ用意していたものを取り出す。
「シロウ、もし私がアマテラスに飲まれて制御不能になったら、これを使って」
 それは、電脳空間技術を用いた一種の自殺装置だ。これにシロウが今までに見せたことのない程の反応を示した。それは、私が想定していた範疇を大いに超えるものだった。
「冗談じゃない。大戦下でも事務所の凌ぎでも一緒にやって来た。ずっと……ずっと一緒だったんだ……なのにここでサヨナラなんて、出来る訳ないじゃないかっ!」
 見るとシロウの目に涙が滲んでいる。それは怒りの涙だった。そんなシロウに私は笑って見せた。
「大丈夫よシロウ。アンタなら一人でも生きていける。サイバーピースの面々も救うことが出来るわ」
「ダメだ。そんなの……そんなの絶対……」
 凄まじい程に感情を露わに泣き崩れるシロウを、私は抱き寄せる。その耳元にそっと囁いた。
「皆の事、頼んだわよ」


 第三十一話

 シロウを説得した私は、施術チェアに腰掛け麻酔による深い睡眠へと入った。潜在意識のさらに下まで潜ったところで現れたのは、アマテラスだ。 
〈だから、言ったでしょう。あなたは私を求めに来るって〉
 アマテラスは、鬼の首をとったが如くほくそ笑む。ここで私はずっと感じていた疑念をぶつけた。
「アマテラス。あなたは、いつから私を待っていたの?」
〈アンタが産まれたときからよ。遠戚とはいえルーツをニホン区の皇族にもつアンタは、アンタの父ジン・コスギにとって格好の実験材料だった〉
「一体、その目的は何?」
〈ニホンの復活よ〉
 これには私も耳を疑った。そもそもニホンは地球共栄圏が成立した段階で、その存在を大きく消滅させている。言わば、世界に溶け込む形となった訳だが、そのアイデンティティを再び復活させようと言うらしい。
 ――父は己を犠牲にしてでも、成し遂げたかった訳か。大した愛国心ね。
 私は驚きつつも、どこか納得している。確かに父には、己のルーツに陶酔する側面があった。それを私に求めるのも理解できる。
 その上で私はさらに問う。
「父とダン・シエルの関係が分からない。見る限り共闘らしきものがうかがえた。一体、どういう繋がり?」
〈同床異夢、呉越同舟とでも言えばいいかしら。アイデンティティを求めるアンタの父とスクラップアンドビルドを信望とするダン・シエルの利害が一致したのよ。二人が求めたのは、一見無秩序に見えつつ、その実、裏で上手くコントロールされた大戦〉
「何よそれ。じゃぁ、この混乱は二人が計算尽くで起こしたってこと」
〈混乱? フフッ……違うわ。あの二人にとってこれは宴なのよ〉
 まるで祭りでも見るように応じるアマテラスに私は、言葉が続かない。アマテラスは、畳み掛けるように続けた。
〈分かりやすく言うと山火事よ。火災による炭化物は土壌に栄養分を含ませ、間引きされた樹木は地面への太陽光を増加させる。自然界全体では集団免疫の役割を果たしている。生態系にもリセットボタンが必要なのよ〉
「その差配を人の手で意図的に行おうっていうの!?」
〈そう。かつて経済大国として名を馳せたニホンは、このスクラットビルドが出来ないがために衰退した。だから、アンタの父であるジン・コスギがその身を投げ打って、アンタという破壊神を宿したの。私はそのトリガー(引き金)に過ぎない。ただ、アンタには無理そうね〉
「どう言うことよ!?」
〈周囲を犠牲にしてでも世界を救うことは無理そうって意味よ。現にそれが出来ないからここへ来た。でしょ?〉
 返す言葉ない私にアマテラスは畳み掛ける。
〈必要なのは大所高所から判断し、周囲を地獄に引きずり込んででも世界を救う非情さよ。仲間を犠牲に出来ないアンタの美徳は、為政者としてマイナスでしかないわ〉
「そんな事はない。私はただ……」
〈百聞は一見にしかず。サクラ、アンタの判断がどんな結果を生むのか見せてあげる〉
 不意にアマテラスは、私の額に人差し指をかざした。すると私の頭の中に強烈なビジョンが流れ込んできた。それは非情になれない私の優柔不断さがもたらす、悲劇だ。

 木を見て森を見ず――仲間を救うためにとった行動が、かえって仲間を不幸に追いやってしまうビジョンを前に、私は愕然とした。やがて、懺悔の念は自己嫌悪に、絶望は悔し涙へと成り果てていく。
 〈サクラ、功利ってのは単純よ。ただ、人がこれを受け入れるのは難しい。特にアンタみたいな因習と道徳に基づく自然法タイプはね〉
「じゃぁ、どうしろって言うのよ!? 感情は何のためにあるの? 計算機みたいに冷徹さで生きるのが正しいってこと?」
〈いや、そもそも人は皆、正しい計算機を持っているのよ。なのに感情に流され判断を誤るのは、計算機の使い方を知らないから〉
「まるで創造神みたいな言いようね」
〈サクラ、言葉を返すようで悪いけど、私達は皆、神に仕えている訳じゃないわ〉
「じゃぁ誰に仕えているのよ。社会?」
〈違う。自分よ。皆、自分に仕えている。快楽と苦痛を天秤にかけてね。社会なんてものは、個人の集合体に他ならない〉
 黙り込む私にアマテラスは言った。
〈いい機会よ。私はアンタは融合する。ただし、完全な融合とはせず、それぞれの個は残しましょう。ここで大人の戦い方と創世術を覚えていきなさい。オーケー?〉
 アマテラスの問いに私は、しばし考えている。心から納得は出来ないものの、言うことには理が見られたし、何より大人の戦い方、創世術に興味を惹かれた。
「分かった。オーケーよ」
 私は意を決し賛同を見せた。アマテラスは満足げにうなずくや、額を私の額に寄せ瞳を閉じた。その途端、私の頭に己と似て非なる何かが流れ込んで来た。
 それは、生まれて初めて経験する奇妙な感覚だった。
 その後、私はゆっくり目を覚まし顔を上げると、シロウが心配げに眺めている。
「姉ちゃん、分かる?」
「えぇ、もちろんよ。シロウ」
 私はシロウの手を取って握り締めつつ、心の中で問う。
 ――アマテラス、いる?
〈えぇ、問題ないわ。アンタと私はしばらく共有状態。けど融合を目指すことに変わりはない。いずれ双方とも互いの存在を認識出来なくなるでしょう〉
 ――オーケー、それでいいわ。当面の課題は、サイバーピースの面々をいかに助けるかね。
〈ふっ。サクラ、私の力を見せてあげる。いいからキューブ・ゼロにダイブしなさい〉
 ――え、今?
〈そう。今よ〉 
 私は困惑しつつ、シロウにその旨を伝えた。案の定、返って来た反応は驚きだ。
「今、サイバー空間はゼロサム兵器で寸断されている上に、キューブ・ゼロもダン・シエルの支配下だ。無茶だよ!」
「分かってる。でもアマテラスが私にそう囁くのよ」
 説得する私にシロウは、ジトっとした目でこちらをうかがっている。どうやら私の中に宿るアマテラスを警戒しているようだ。
「大丈夫よ、シロウ。ここは私に任せて」
 私はシロウを安心させるや、VR機器を手に取った。
「分かったよ。お手並み拝見だ」
 シロウは横目でこちらをうかがいつつ、私のダイブに協力していく。シロウのサポートの下、私はリラクシングチェアに腰掛けVR機器を装着した。
「オーケー、じゃぁ、ダイブよ」
 私は意識を委ね、キューブ・ゼロへとダイブした。まず広がったのが、破壊状態に晒されたサイバー空間だ。それは想像以上の壊滅ぶりである。

 ――一体、こんなのどこから手を付けろっっていうのよ。
 呆然とする私だが、ここで脳内に宿る別人格・アマテラスが言った。
〈サクラ。早速だけどレクチャーよ。その一、全てを助けようとしない〉
 ――え、どういうことよ!? 見捨てろってこと。
〈ゲームメイクしろってこと。あなたも一端のサイバーファイターなら、勝負師として捨て駒の必要性は分かるはず。まずは勝ち筋と負け筋を見極め、その上でいかに勝ちを落とさず、負けから勝ちを見出すかを計算しなさい〉
 その後もアマテラスは、微に入り細に入り私に勝負哲学を叩き込んでいく。
・強者は広域・確率・遠隔で面を制し、弱者は局地・接近・集中で点を築くべし。
・力点を単発とせず連続技という線に繋ぎ面へと広げるべし。
・戦いは臨機応変の連続、ならばその様は蛇の如くあるべし。すなわち頭を打てば尾が助け、尾を打てば頭が助け、腹を打てば頭尾の両方が襲いかかる。
・戦って勝つのは上策にあらず。戦わずして勝つことこそ上策なり。
 それこそ墨家から孫子、ランチェスターに至るまで古今東西における戦いのエッセンスを紐解いていく。その薫陶を受けながら私はしみじみと実感した。
 ――これが大人の戦い方ってやつか……。
 無論、闘いにおける心掛けは格闘技の師匠からも教わっていたが、それは主に一対一でのものだ。これが組織戦になると、その戦術は一変する。
 私はアマテラスが広げる戦術論を、乾いた砂が水を吸うように会得していった。

 第三十二話

 キューブ・ゼロへのダイブから数時間後、私はサイバーピースの面々との接触を果たした。
「よかった。無事だったのね」
 駆け寄る私を皆が笑顔で出迎えた。その上で今後の展開をめぐり議論となったのだが、改めて感じたのが、ダン・シエルの力である。想定を超える凄まじさだった。
「これまで戦争の主体は国や星だった。だが今は違う。ダン・シエルという一個人が、銀河のサイバーを支配する覇者になってしまっている。俺達だけでなんとか出来るレベルじゃない」
 ゲレオンの総括に皆もうなずく。ここは距離を置き様子をうかがうべきと総意が傾く中、私の中のアマテラスがこれを明確に否定した。
 なんとダン・シエルへの奇襲を提案したのだ。
「や、サクラ。それは不味くないか?」
 懸念を示すゲレオンに、私はアマテラスの意を汲みながら言った。そもそも奇襲とは、あり得ないと思われるタイミングで発動してこそ効果がある。今がその機だ、と。
「いい皆? 私達は今、弱者なの。ならば弱者の戦術を取るべきなのよ。確率に頼る遠隔からの広域制圧を捨て、ダン・シエルに肉薄し、局地的な接近戦による一騎打ちに打って出るべきだわ」
「ふむ。ランチェスターの法則だな」
 理解を示すソロに私はうなずく。だがそれでも皆は慎重さを崩さない。その気持ちをアキムが代弁した。
「サクラ。言いたいことは分かるが、それでは銀河の世論は得られないぜ。賛否が割れるのが、オチだ」
「望むところよ。例え賛否両論に割れても……いや、むしろ賛否両論を呼びながら訴求する破壊者にこそ熱狂は集まる。いつの時代も求められるのは、常識外れのダークヒーローよ」
「サクラ。まさかアンタ、ダン・シエルから覇を奪い、自身が銀河の王にでもなるつもり?」
 驚き気味に問うシェリーに私は断言した。
「えぇ、そうよ」
 これには、流石の面々も紛糾した。いかに非常事態とはいえ、銀河にまたがるサイバー空間の私物化は危険思想だと捉えられたのだ。
 結局、防衛に徹し各星々の支持を乞うべきとする意見で大勢は占められ、最終的なサイバーピースの結論となった。
「サクラ、奇襲案は却下だ」
 ゲレオンの総括を前に、私も同意せざるを得なかった。



 作戦会議が終わり、皆が決議事項に従い散っていく中、私は密かに単身で持ち場へとつく。そこで虚空に向かって声を上げた。
「来たわよ。誰にもつけられていないわ」
 すると柱から人影が現れた。ゲレオンだ。
「スマンな、サクラ。一芝居打たせて」
「別に構わないけど、一体どういうつもり?」
「うむ。あのサイバーピースだがな。内通者がいる」
「シェリーでしょ」
 私の即答にゲレオンは、驚きの表情を見せている。すかさず私は問うた。
「ゲレオン、アンタの本音はどうなの?」
「お前の奇襲案に賛成だ。ただ、この状況だ。協力は限られている」
「オーケーよ。当面は状況を見て単身で動くわ。通信の傍受もあるしね。阿吽の呼吸でいきましょう」
「頼む」
 ゲレオンにうなずく私だが、どうも様子がおかしい。何かを言いたげだ。その意を問うとゲレオンは、複雑な表情で言った。
「シロウから色々聞いている。お前の中で今、二つの人格が共存しているのだろう?」
「アマテラスね。そうよ。いずれは融合し一体化するわ。そこで強大な力が宿る。その力でダン・シエルに戦いを挑むつもりよ」
「ミイラ取りがミイラにならないか?」
「残念ながら、それを認識することは出来ない。これまでの私を捨てることになるからね……」
 そのセリフが言い終わらないうちに、私の口は塞がれた。ゲレオンに目鼻の距離で迫られ唇を奪われたのだ。私は、驚きつつもゲレオンを受け入れていく。

 ゆっくりと時間をかけた濃厚な口付けの後、ゲレオンは私を直視しながら言った。
「サクラ。俺が愛したのは、強大な力を宿すことになるお前じゃない。今までの、ありのままに振る舞うお前だ。それだけは、忘れないでくれ」

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(1)https://note.com/donky19/n/n84d7f935b54d
(2)https://note.com/donky19/n/n34c8be88773f
(3)https://note.com/donky19/n/n7b79f7d07618
(4)https://note.com/donky19/n/n2b4f4aa0aa67
(5)https://note.com/donky19/n/n453a2bd84cfe
(6)https://note.com/donky19/n/n284ca759eb00
(7)https://note.com/donky19/n/nd8d550ab43ce
(8)https://note.com/donky19/n/n882d9663cdb1
(9)https://note.com/donky19/n/nbe0a9637fc64

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