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コミpoとAIによる挿絵小説(4)

 第十二話

「かなりの情報が集まった。これはウルティマ機関が得た成果だ」
 銀河一サイバー武道会を無事に乗り切ったダンさんは、自身の邸宅に私達を招くや笑顔でレポートを見せた。ジルの決勝進出を阻止し、ドロシー達姉弟によるゼロサム兵器投入を防いだのだ。
 そのリスクに見合うだけのものはあったようで、これまでほとんど謎に満ちていたパンゲア・カルテルの実態が見えてきた。驚くべきはその規模だ。
「総資産が二億ギル!?」
 バランスシートに目を走らせたシロウは声を上げる。収入もかなりの額のようだ。
 ミスターXを中心に火星星雲の密輸ルートを握る一家を幹部に迎え、諸勢力とカルテルを結成した彼らは、前の大戦で地の利を生かし、銃火器を月面系組織に流していたのだが、やがて製造、流通をも支配し、銀河を股にかけ荒稼ぎをしている。
 ――つまり、彼らの次なる狙いは、サイバー兵器市場というわけか。
 推察する私にダンさんは言った。
「彼らは、次の大戦を引き起こし、利権を確立する上でサイバー空間の要所たるパンドラの一筆を狙っている。今や私はパンゲア・カルテルだけでなく、惑星ベガス・トキオ区で鼻息の荒いムサシ組系列の地上げ屋にも命を狙われているというわけだ」
「あの、それは分かるのですが、ヤマト社との関係はどうなんです? 確か先代はコロッセウム闘技場第二区再開発計画で、ムサシ組に地上げをさせておられましたよね」
 口を挟むシロウにダンさんは
 苦笑しつつ、続けた。
「先代は情を第一とし、ムサシ組とは盃を交わした仲だったが、今のタケル社長はあくまで利で動く。現状では、私と組む方が得だと計算しているのだろう。ただこれも流動的だ。いずれは対立に動く可能性は否めない」
「なるほど……」
 黙り込むシロウは顎に手をのせ、考え事に浸っている。その沈黙をダンさんが破った。
「実は今日、君達を招いた理由はもう一つあるんだ」
 私とシロウが聞き耳を立てる中、ダンさんは徐ろに切り出した。
「君達は私と似ている。フィールドは違うが負けず嫌いでともに勝負師だ。だが世の中というのは所詮、運がものをいう。こんな私だが、勝負運はあるつもりだ。そこで、人生の先輩として君達の勝負運を試したい」
「え、それは構いませんが……」「一体、どうやって?」
 首を傾げる私達姉弟にダンさんが用意したのは、頭の格闘技と名高いチェスだった。
「二人がかりでいい。先手も譲ろう。かかって来なさい」

 これには、流石の私達も困惑した。だが、ダンさんの目は本気だ。やむなく私達はチェス盤の前へと腰掛ける。対峙し駒を動かし合う私達だが、そこでしみじみと痛感した。
 ――確かにダンさんは強い。実力もさることながら、ここぞという局面で少ないチャンスをものにする勝負運がある。舐めてかかったら、全部取られてしまうわ。
 シロウを見ると、どうやら同じことを考えているようだ。私達は本腰を据えてダンさんとの勝負に向き合った。
 通常、三、四時間もあれば、勝負がつくチェスだが、私達の死力を尽くした戦いは一向に終わらない。寝食も忘れ勝負がついたのは、深夜三時――のべ半日に渡る戦いを制したのは、私達姉弟だった。
 この結果にダンさんは、大いに唸っている。その目には、悔しさとともに満足感が滲み出ていた。
「参った。私の負けだ。二人とも見事な戦いだったよ」
 笑みを浮かべるダンさんと私達は、握手を交わした。その後、朝帰りとなった私達は、ダンさんが用意したタクシーで帰路に着く。その車内で私は首を傾げている。
「姉ちゃん、どうしたのさ?」
「や、ダンさんなんだけど、私達にあんな勝負をふっかけるなんて、何かあったのかな?」
「ただ単に遊びたかっただけじゃない?」
「かもしれないけど……」
 理詰めのシロウに話すことの無意味さを感じた私は言葉を濁しつつ、第六感を働かせている。特に最後に見せたダンさんの笑顔には理屈では計れない、ただならぬ思いが拭えない。
 ――思い過ごし、か……。
 チェスでの戦いで知力や体力を使い切った私は、いつしか車内でシロウとともに眠りについた。

 私が感じた懸念だが、結果から言えば、正しかった。数日後に衝撃のニュースが流れたのだ。
〈ダン・シエル氏の自宅、爆破される〉
 携帯端末でその事実を知った私は、ショックのあまり我を忘れた。気がついたら裸足で外に駆け出していたほどだ。
「ちょっと姉ちゃん、落ち着いて!」
 後ろから靴を手に追いかけるシロウに促され、冷静に頭を働かせようとするものの、動転のあまり思考が行動に追いつかない。
 もともと私は、シロウのように考えて行動するタイプではない。感性で突っ走る本能タイプだ。
 ――とにかく今は動くべきとき……。
 私は駆り立てられるように、事件現場であるダンさんの自宅へと走った。
 我先に駆けつけた私達だが、すでに現場は警察により封鎖され、マスコミと野次馬でごった返している。
 その人混みを掻き分けて現場を前にした私は、言葉を失った。数日前までチェスをともにしたその邸宅は、完全に焼け野原と化していた。

 ――ダンさんが、死んだ……。
 そのショックに私は、放心のあまり膝をつき呆然とした。思えばダンさんには、父親のような包容力がある人物だった。その魅力に取り憑かれていた私は、心の中に空いた穴を埋める手段がない。
 溢れ出る涙を止めることが、出来なかった。



 思考力を無くした私が次に向かったのは、公証人役場だ。シロウに誘われたのだが、そこにはダンさんの遠戚が勢揃いしている。
 現れた私達に一人の女性が、前へと出た。どうやらウルティマ機関に属しているらしい。応じるシロウとしばし話し合った後、私に一枚の紙を渡した。
「これ、ダンさんの遺言書のコピーです」
「え、それをなぜ私に?」
 私は首を傾げつつ、その内容に目を走らせて息を飲んだ。そこには、パンドラの一筆をめぐる諸権利をブラックバード株式会社に託す旨が記されていた。
「つまり、ダンさんは自分が殺されることを予期していたってこと?」
 私の問いにシロウがうなずくものの、その表情は複雑だ。無理もない。今やパンドラの一筆は、銀河の秩序を破壊する火薬庫だ。飛び火すれば、即、戦争となりかねない。
 だが、私はそれを肯定的に捉えた。
「シロウ。ダンさんは、私達姉弟に未来の平和を託した。私はその思いに報いようと思う」
「賛成だよ。姉ちゃん」
 目配せで返すシロウに私は、心の中で新たなる戦いへの覚悟を固めた。

 第十三話

「つまり、ダンさんは開戦を目論む諸勢力に殺害されたの」
 キューブ・ワンでの国葬の後、バーに集結したサイバーピースの面々に私はありのままを晒す。
 皆が憤慨する中、首を傾げるのはゲレオンだ。
「サクラ、ダンさんがヤバい案件で命を狙われていたのは知っている。ウルティマ機関からの情報も疑問はない。だが、なぜどこからも犯行声明が出ないんだ?」
「出さないんじゃなくて、出せないんだ」
 私にかわってシロウが切り出す。

 曰く、パンドラの一筆の権益がブラックバード社に託され、手が出せない。その状況を自分は作った、と。
「そうは言うが、ブラックバード社なんてサクラのマネジメント会社に過ぎないじゃないか。奴らの法務部にかかれば一捻りだぞ」
 もっともな意見を述べるのは、最年長のソロだ。皆も「その通りだ」とうなずいている。だが、これをシロウはキッパリと否定した。
「ムリだね。確かに表面上は、ただのペーパーカンパニーに見えるかもしれない。けど、あの会社を陥すのは難しいよ。かなり複雑なスキームを用いているからね。一筋縄ではいかないはずだ」
「法務はいいとして、マスコミ対策は?」
 私とタメの女拳士シェリーが問いかける。と言うのもネット上では、大いなる戦士を失った怒りが渦巻き、その矛先を求めている。対応一つで炎上しかねない状況なのだ。
 これには、私が応じた。
「ありのままを晒す。変に着飾ればあらぬ疑いを抱かれないからね」
「オーケー、お前ら姉弟を信じてやるよ。しかし、難儀なことになったな。まさか、あのダンさんがやられるとは……正直、俺は悔しい」
 荒っぽい口調で涙を浮かべるのは、アキムだ。誤解されやすい性格だが、本心からダンさんに追悼の念を示しているようだ。
 その後も、各々が思うところを述べた後、議題はサイバーピースの方向性へと移っていく。シロウは言った。
「銀河一サイバー武道会を含むコロッセウム闘技場の運営は、ヤマト社が引き継ぐことになると思う。あくまでタケル社長の一存だけどね」
「あの新社長か。確かにやり手だが……」
 鼻を鳴らすゲレオンに私も懸念を覚えている。守銭奴にしてリアリストで鳴るだけに、不安が残るのだ。皆の顔をうかがうと、一様にその懸念が見て取れた。
 私はその不安を払拭すべく言った。
「皆、タケル社長との交渉は、私とシロウに任せて。このサイバーピースは選手会の性格を有しているけど、その根底にあるのは闘いに礼で応じる和の理念よ。拳を交えつつも相手を尊重する。ダンさんが持っていた哲学を私は広めたい。それが開戦派に対する私達のメッセージになると思う」
「よし、いいだろう。俺達サイバーピースも声明を出そう。ダンさんの死を政争の具にはさせない。開戦への動きには断固として応じないとな。皆、どうだ?」
 問いかけるゲレオンに皆は、納得の表情を見せている。
「そう言うことだ。サクラ、シロウ。皆で平和への思いを共有しよう。それぞれがこのメッセージを広めれば、開戦機運も萎むはずだ。俺達はやれることをやればいい」
 ゲレオンは場を取りまとめるや、携帯端末を手に皆で各々のメディアに対してメッセージを発した。たちまち賛同の声がネット上で埋め尽くされていく。
 私は安堵に胸を撫で下ろしつつ、サイバーピースが持ち始めた意外な影響力に感銘を受けた。
 ――案外、このサイバーピースが世の中を変えていくのかもしれない。シロウはこれを武器にブラックバード社を回していくはずだ。
 私はませた弟に頼もしさを感じつつ、次なる戦いに向けて覚悟を固めた。
 やがて、解散となりバーを出た私達姉弟は、キューブ・ワンから現実世界へと戻っていく。事務所でVR機器を外すや、早速、今後の方針について意見を述べ合った。
 その矢先である。突如一台のクラシックカーが事務所の前に滑り込んできた。その物々しさに外へ出た私達は、運転席の人物に思わず声を上げた。
「タケル社長!?」「なぜここへ?!」
 見ると傷を負い、出血している。驚く私達だが、タケル社長は構うことなく声を荒げた。
「お前ら、いいから早く乗れ!」
 訳が分からない私達は、言われるがままに助手席と後部座席に別れて乗り込む。するとタケル社長は、アクセル全開で車を急発進させ、トキオ・ハイウェイへと乗り込んで行った。

 やがて、高速に入ったところで操縦をオートパイロットに切り替えるや、私達に電子レポートを送った。
「あっ!」「この二人は!?」
 思わず声をあげる私達に、タケル社長は苛立ちを交え続けた。
「お前ら、そのひょっとこ姉弟を知ってるな。パンゲア・カルテルの幹部で武器商のドロシーとオズだ。今朝、俺はそいつらから襲撃を受けた。兄貴らもな」
「えっと……確か社長は六男ですよね。一体、どのお兄さんが?」
「全員だ。親父もな。さっき息を引き取った」
 絶句する私達にタケル社長は、状況を報告する。なんでも、唯一襲撃から生き残ったタケル社長自身に、自作自演の疑いがかかっているらしい。
「つまり、社長はハメられたんですね?」
 シロウの要約にタケル社長は、不満げに鼻を鳴らしつつうなずいた。察するにあのひょっとこ姉弟には、パンゲア・カルテルから相当な組織力が与えられているようだ。
 私は驚きつつも頭を働かせる。
 ――ダンさんへの爆弾テロといい、ヤマト社創業家一族への襲撃といい、あまりにタイミングがよすぎる。これは、何かあるわ。
 試しに傍らのシロウを見ると、同じことを考えているようだ。タケル社長は断言した。
「おいお前ら。これは戦争になるぞ」
「確かに……」
 シロウは同意しつつ、率直に切り込んだ。
「意外ですね。僕はタケル社長は、開戦派だと思っていましたが」
「ふんっ、ガキめ。そうさ。うちには軍事部門がある。サイバーピースだかなんだか知らないが、すでに武装地帯へは武器を送った。あとは、ちゃんと戦争しろよな。それが本心だ」
 そこで一息ついた後、タケル社長はさらに続けた。
「……だが、それも程度による。争いも小さいうちはいいが、大きくなり過ぎれば、ビジネスが上がったりだ」
 そこへ臨時ニュースが入った。なんと惑星ベガス・トキオ区のタカハシ首相が狙撃されたらしい。立て続けに起こる同時多発的な攻撃に、首脳部は混乱状態に陥っているという。
 タケル社長は、舌打ちしつつ言った。
「どうやら本格的に始まったようだ。開戦へのカウントダウン……そこで、だ。お前達に依頼しよう。この状況をなんとかしろ。相応の報酬は出す」
 ――何とかしろって言われても……こんなのどうしろって言うのよ。
 私は、困り果ててシロウに目を向ける。いかに我が弟とはいえ、これには打つ手がないだろうと思いきや、意外にも計算立った顔をしている。
 意味深な表情でこう切り出した。
「社長、確かに開戦一歩前の状況ですが、彼らが得ていないフィールドがあります。サイバー空間です」
「確かにそうだがシロウ、どうしろと言うつもりなんだ?」
「ウルティマ機関とブラックバード社を使います」
 ここでシロウは自らの策を披露する。はじめこそ眉唾ものとして、怪訝な表情を見せていたタケル社長だが、説明が佳境に差し掛かるや大いにうなずき唸った。
「まさかパンドラの一筆にそんな利用価値があったとはな」
「彼らは今、世の中を大戦へと導こうとしています……が、ミスもおかした。ちなみに社長、身の潔白を証明することは出来ますか?」
「もちろんだ。ここに私の全ての行動履歴を示す情報記録端末がある」
「いいでしょう。それをキューブ・ワンで公開しましょう。いかに奴らが強大であろうとも、サイバー空間を得ずして戦端を開こうとした愚は免れない。社長はご自身の無実を証明すればいい」
「なるほど、確かにやる価値はある。いいだろう。成功すれば相応の報酬を……」
「いや、それなんですが、カネは要りません」
 ――え、何言ってんのよ。シロウ……。
 思わず我が弟を見入る私だが、タケル社長も驚きを隠せないようで、冗談まじりに問うた。
「つまり、カネ以外の何か、と言うことか。何だ。女か?」
「いえ、そっちは間に合っています」
 ――間に合ってるですって!?
 思わず苦笑する私だが、シロウは構うことなく続けた。
「株です。なんでも社長は、ヤマト社の株主総会決議事項について拒否権を発動できる黄金株をお持ちだとか。そこにコミットしたい」
 これには、さしものタケル社長も目をひん剥いている。怒りだすのかと思いきや、逆に声をあげて笑い出した。
「くっくっくっ……要するに俺の首に鈴をつけようって腹か。どうせ政府の犬にでも言われたのだろう。さしづめ依頼人はアーロンってとこか」
「ご想像にお任せします」
 笑みで応じるシロウだが、こうなれば完全にこっちのペースだ。考えておくと条件を保留にするタケル社長に、シロウは指示を下していく。
 向かった先は、工事が中断したまま放置されたスタジアム跡地だった。

 第十四話

「まさかこんな場所にキューブ・ワンへダイブできる侵入路があったとはな」
 舌を巻くタケル社長にシロウが応じる。
「正確に言えば、キューブ・ツーです。幻の第二特区開発地域、バブルが弾け人々の記憶から消えた一帯ですね。ここならサイバー空間へと通ずる電波が拾える」
「ふむ、どこの情報源だ?」
「ウルティマ機関、ダンさんが遺した情報組織です」
「オーケー、いいだろう。ダイブしよう」
 タケル社長は車を目立たない地下へ駐車するや、三人でVR機器を装着し、サイバー空間へとダイブした。
 たちまち目の前に仮想空間キューブ・ツーが広がる。そこはキューブ・ワンと異なり、構築途上の赤いプログラム空間だ。

 その狭い通路を歩きながら、私は頭を働かせている。
 ――あのひょっとこ姉弟……ドロシーとオズのおふざけには、うんざりだ。おそらくあの二人がダンさんをやったのだ。状況証拠がそれを如実に物語っている。そうなのだろうけど……。
 私の思考は、そこでいつもストップする。どうしても後ろ髪を引かれる何かを感じてしまうのだ。
 ――大戦は凄まじい数の犠牲を代償に、巨万の富みと恐るべき科学技術の進歩をもたらす。その果実を独占するパンゲア・カルテルだが、実態はあまりに謎だ。特にカルテルの総帥……ミスターXには、深い闇が感じられてならない。
 気がつけば私はタケル社長に、疑問を呈していた。
「あの、社長がもしミスターX……つまり、パンゲア・カルテルのボスだとすれば、何を求められますか?」
「カネはある。なら次に求めるのは何か、という事か?」
 うなずく私にタケル社長は、当然の如く言った。
「名誉だ。史に名を刻む。それ以外にない」
 その後、キューブ・ツーの隠し通路から、ウルティマ機関の情報に基づき、パンドラの一筆へと赴く。だが、ここで思わぬ誤算が生じた。どうやら先客がいたようだ。
「そこにいるのは、誰!?」
 吠える私に、二人の人影が振り返る。紛れもない。ひょっとこ仮面に顔を隠すドロシーとオズの姉弟コンビだ。
 どうやら彼らも私達と鉢合わせするとは、思っていなかったらしく、驚きを覚えている。慌てて懐から短銃を手にするオズだが、その動きを読んだ私は一気にダッシュで間を詰めた。
 ――引き金に指をかける時間なんて与えないっ!
 間髪入れず、憎きひょっとこの顔面に飛び膝蹴りを食らわせた。たちまち崩れ落ちるオズを見届けるや、次にドロシーに襲いかかり、その仮面を剥ぐ。
 その中から現れた顔に私は、思わず声を上げた。
「あなたはっ!?」
 私はその顔を知っている。公証人役場で私にダンさんの遺言書のコピーを手渡したあの女性である。
「どう言うことよ。あなたはダンさんの遠戚で、ウルティマ機関の構成員のはずよ。なぜ対立するパンゲア・カルテルに……」
「サクラ。そういうあなたこそ、なぜ私達をハメた!?」
「ハメた? どう言うことよ」
 吠える私にドロシーは、実情を吐いた。何でも、自身はこの開戦騒動には無関係で、気が付けば戦犯呼ばわりされていたらしい。
 やむを得ずダンさんが遺したパンゲアの一筆に救いを求めて来たところだという。その表情から察するに、ウソはついていないようだ。
 困惑するドロシーだが、タケル社長はすかさずオズが落とした短銃を奪い、ドロシーに突きつけた。
「ドロシー、言い訳は刑務所で言え」



 かくして私達姉弟とタケル社長は、ドロシー達姉弟の身柄を拘束し、ブラックバード社の名の下、パンドラの一筆が持つサイバー空間への拡散力で真実を晒した。
 晴れて身の潔白を証明されたタケル社長は、我が物顔でヤマト社へと引き返していく。無論、シロウが言った黄金株へのコミットメントも忘れてはいない。
 その一方でドロシーとオズの姉弟コンビは、駆けつけた警官隊に拘束され、自分達が無関係であることを喚きながら連行されていった。

 その背中を見届けたシロウが言った。
「これで開戦騒動の機運も収束、タケル社長の首に鈴も付けてアーロンさんからの依頼も解決だ。一件落着だね」
 ――果たしてそうだろうか。
 表面上は納得をして見せる私だが、心の中に湧き起こる疑惑の念を拭うことが出来ない。何か重要な点を見逃している気がしてならなかった。


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