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劇場を観に行こう

「東京」の「小劇場」に15年近く居たのに意外と『劇場』の話をしてないな、とふと思った。

と言うのも、ネットを見ていたら下北のK2にてアンコール上映されるとのニュースが飛び込んできたのだ。

心にずっとこびり付いている作品の一つである。

ピースの又吉直樹さんが2017年に発表され、2020年には行定勲監督により映画化もされたこの作品、パンデミックの始まりと共に公開が予定されていたこともあり、映画館での公開と同時にAmazon primeビデオでも配信されるという、実写邦画としては世界初の試みがあった。

「自粛」「不要不急」「巣篭もり」などのワードが頻繁に使われるようになった頃に公開されたので、映画館ではなく自宅のパソコンの前で鑑賞した、という人が多いのではないだろうか。

かく言う自分も、スクリーンではなく寝室でこの作品を鑑賞した。

不覚にも真芯を喰ってしまい、鑑賞後は本当、比喩でなく動けなくなってしまうくらい脊髄にきた。

演劇人を題材にした作品は山ほどあるけど、よくぞこの部分を描いてくれた、しかも丁寧に細かく。又吉さん本当にありがとう、という気持ちでいっぱいになった。

そして恋愛がメインの話とは言え「東京」の「小劇場」を舞台に描いた作品にしては、意外と当の東京の小劇場の人間とこの作品について話していないな、と思い、この文を書き始めた。みんなあんま観てないのかしら。

僕はそこまで沢山の小説を読む方の人間ではないし、本を読んで人生変わったわーと思うこともほとんど無い人間だけど、唯一と言っていいかもしれない、又吉さんの『劇場』『火花』などは声を出して笑ったし、嗚咽が止まらなくなるほど泣いた。文体も、題材も、描かれていることも、ことごとく性に合うのだろうな。

この作品については個人的なエピソードが3つほどある。

1つめは、鑑賞後にアトロク(TBSラジオ『アフター6ジャンクション』)に感想メールを送ったら読まれたこと。
水曜日のパートナー日比アナ(高校演劇部出身)の日だったので思い切って送ってみた。正に「東京」の「小劇場」の現場の人からの感想、ということで取り上げて頂いて嬉しかったのを覚えている。

2つめは、友達と立ち飲み屋で一杯やっていた時のこと。
口角泡を飛ばしこの作品の感想を熱く語っていたら、突然カウンター越しからマスターに
「お兄ちゃん、その作品、この店でロケあったよ」
と言われ、えぇ!と思わず大きな声を出してしまった。さらに
「お兄ちゃんがいるそこ、正に山﨑賢人君がいたとこだよ」と言われホンマかいなと映画を見返してみたところ、本当にそうだった。
なんというか、偶然にも程がある。

3つめは、作者の又吉直樹さんとお話する機会があった時のこと。
小劇場にどっぷり居て、まるで現場を見て来たかのようなディテールが凄いすねと言うと
「そうすね、芸人の世界もね、似たようなもんなんですよね」
と仰っていたのが凄く印象に残っている。
色々とお話する中で、あの団体が〜とか、あの演出家が〜とか、色々とイメージされて描いたと聞いて面白かった。
別れ際、自分も東京の小劇場の人間で、役者の仕事で来たんですと伝えると
「あ、そうなんですか。では、また、どこかで」
と穏やかな笑顔で去って行ったのがめちゃくちゃカッコ良かった。


この作品、観ると心が削れていくので体力がいる、特に永田や沙希のキャラクタが人間臭すぎて途中でウグァァと死にそうになるのでそう何回も観られる作品ではないのかもしれないが、スクリーンで、しかも舞台となる下北沢でかかるとなれば話は別で、これは是非とも多くの人に鑑賞して頂きたい、という想いでこの文を書き上げてみた。

大きな世界から見ればかなり異端、少数の人たちだけど、確かに東京には一定数こういう人がいて、這い蹲りながらとても立派とは言えない人生かもしれないけど、それでも生きているということを知って頂けたら嬉しいです。是非。

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